美姫の恋と嫡男の悩み
私は城の中で一生を終えると思っていた。幼い頃より城の外へ出てはいけないと言われ、それを守り続けてきた。外には魔物がいて、私を容赦なく襲う。そんな風に言われ育ってきた私は一度も外に出たことが無かった。私の世界は城の庭までの小さな世界。このままこうやっている間に人生が終わるのでは思ったこともあった。彼が現れるまでは。
彼は私に様々なものをくれた。目に見えない何か、私にも分からない何かは私の中で渦巻いている。そう、これが、きっと恋というものなのだろう。昨日、私はそれを自覚したのだ。
その日、ライナスに外に連れてきてもらったその時、私は時空の精霊と出会った。
(よろしく、ルルリール。ようやく会えたね)
(あなたが精霊さん?)
(そうだよ。王様の運命の人。君と契約する時空の精霊クロノス。覚えておいてね)
(運命の人って何かしら?)
(ライナスのことだよ。まぁ彼は認めないだろうけど)
そう言うクロノスはどこか面白そうに笑った。彼には未来でも見えているのだろうか。私は少しだけそう思うことがある。私はとにかくライナスに聞いてみることにした。
「あなたが私の運命の人なの?」
私がそう言うと彼は驚いたよう顔をしてから、少しくらい顔になってから答えた。
「っ! それは精霊が勝手に決めたことですよ」
彼は何かから逃げるようにそう言う。何が彼をそうさせるのか不思議で仕方がなかった。大人っぽい彼でも、子供っぽい彼でもない。ただ純粋にどうすればいいのか分からない迷子のような姿に思わず何も言えなくなる。けれど。
「そうね、ごめんなさい。……でも、私が好きになるのは私の勝手だものね」
私が勝手に好きでいる分には問題ないはずだ。彼の気持ちがどうであろうと私の想いは本物になってしまったのだから。今まで積み重ねてきたこの想いが今ようやく理解できた。彼のことが好きになってしまった。色んな彼を見て、そう思ってしまったのだからもう私は逃げられない。
「何か言いましたか?」
「いいえ。そろそろ帰りましょうか、ライナス。少し疲れたわ」
その日は王城に帰ってどちらからともなく、別れ部屋に戻った。私がこうも彼のことが気になるのは色々理由があるけれど、きっと彼の中に優しさを見たからだ。そして、世界を見せてくれるからだ。たったそれだけが私が彼を好きになってしまった理由。私にはないものを見せてくれる彼を好きにならないはずがなかったのだ。何故なら彼だけが私の美貌に目を付けず、ただ私に新しいものを見せたいと思い、手を引いて連れて行ってくれる王子様なのだから。
待っていて。いつかあなたの心を奪いに行くから。今はまだ伝えないけれど、いつか伝えに行くから。
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城に帰って自室に戻った俺は大きな溜め息を吐いた。いくら何でもあれはないと自身を嘆いたからだ。もう少し言い方があったはずなのだ。ルルリール様はあの程度で怒るほど狭量ではないがそれでもあんな言い方はなかった。彼女を傷付けてしまっただろうか。しかし、運命の人というのが本当であっても俺にはどうしても受け入れられなかった。
「はぁ……何やってんだかなぁ」
(あっははは。君も頑固だねぇ)
「頑固ってなんだよ」
「運命の人って何だよ。全く勝手に決めやがってさ」
(それがこの世界の法則だからね。君が最初で初めての前例さ)
「何だ。精霊の王って今までいなかったのか?」
(ある意味、君のために作られたものだからねぇ)
「そうなのか。世界ってのはえらく理不尽にできてるな。ルルリール様の可能性を狭めるなんて」
(果たしてそうかな?)
光の精霊はそれっきり何も言うことはなかった。話し相手になってくれる光の精霊が沈黙したので俺は仕方なく、眠ることにした。考えても答えが出ないのだ。俺にはやはり荷が重すぎる。彼女はどう見ても眩しすぎてとてもではないが俺が幸せにできる気がしないから。