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魔力なし少年の転生譚  作者: 炎の人
アーミーアント編
17/23

ルルリールの花畑

 俺はルルリール様に庭で待つように言うと与えられた部屋へと戻った。この数日の間に絨毯を一枚買ったのだ。シンプルな星柄がたくさん描かれただけの絨毯であったがものすごく気に入ったのだ。これを使って空を飛ぼうと画策していたのをいざ実行に移そうと思ったのだ。異能で操れば俺の周りならば重力も無視できるので空は飛ぶことができる。誰かと飛ぶならこんなに便利なものはない。

 絨毯を肩に当て、異能で浮かせながら庭へと運ぶ。ルルリール様の今日の服装は淡いピンクのドレス。足にはスリットが入っており、その白い肌がちらりと見える。そんなルルリール様は私が持ってきた絨毯に疑問を覚えた顔を浮かべている。


「さぁ乗ってください」


「これに、ですか。そのまま乗っても?」


「結構ですよ。汚れは落とせますからね」


 俺が絨毯へ座るとルルリール様も同じように座った。ほんの少し距離が近い気がしたが気にしない事にした。異能を発動すると絨毯が浮き上がり、空へと飛んだ。そのまま城壁の高さを越えると俺はそのまま王都の外へと飛ばした。空にいた風の精霊に頼んで風を避けてもらう。


「うわぁ、本当に空を飛びましたね」


「ええ。これも物を自在に操る力の応用です。どうやら私の力の影響範囲では重力を無視できるようでこうして飛ぶが事ができるようです」


「これが王都……」


 王城よりも高い位置に来た絨毯の上から見た景色は王都を一望できる。ルルリール様はその光景に釘付けだ。目を輝かせて年相応の振る舞いをしている。そういう姿を俺は見たかったのだ。俺は仕方ないとしてもルルリール様には自分らしくあってほしいと思っていたから。

 それからしばらくの間王都をゆっくり飛び、王都の外に出ると少しだけスピードを出した。


「ありがとう、ライナス。おかげでいいものが見れました」


「はは、それは良かった。ですが、これからが本番です」


 ルルリール様は満足そうだがまだまだこれからだ。あの場所を見ればきっと感動してくれるに違いない。王都からしばらく飛ばして俺達はその場所へと辿り着いた。そっと地面へと降りるとルルリール様は立ち上がり、目の前の光景に魅入る事になった。


「綺麗」


「これがあなたの名前でできた花畑です」


「これが、ルルリール」


 ルルリールが自分と同じ花の名前を呼ぶ。赤、青、黄、紫、黒、白など様々な色の花が咲き誇るルルリールの花畑はその命を見せつけんばかりに咲き誇っていた。濃淡も合わさり、鮮やかさが目立つ状態になっている。俺は一目見てこの花が好きになった。それと同時にルルリール様に似合う名前であるとも確信した。セバスはいい名前を姫様に付けたものだ。表情がころころ変わる姫様に相応しい名前なのだから。


「綺麗ね。本当に綺麗。こんなものがこの世にはあったのね」


「ええ、これがとっておきです。約束は果たしましたよ、ルルリール様」


「ライナスは少しずるい人ですね。実は女の人に慣れているのではないのですか?」


「まさか、ルルリール様が一番ご存知のはずですが」


「ふふ、冗談です」


 そうやって自然な笑みを浮かべるルルリール様はとても輝いて見えた。やはりここに連れてきてよかったと思えた瞬間であった。


 それからしばらく花畑を見た後、俺は時の精霊が近付いてくるのが見えた。ルルリール様は変わらず花畑を見つけている。時の精霊が話し掛けてくる。


(王様、その人がルルリール?)


(ああ。早く話をしてやってくれ)


(りょうか~い)


 時の精霊がルルリール様に近付いていき、体の中に入っていく。二つの気配が一つになり、一つの精霊が生まれた。いや、元に戻ったという方が正しいのか。とにかく、ルルリール様はようやく契約と時空の精霊と話をする事ができるのだ。

 驚いた様子でこちらを見る。途中で顔を赤くしたり、表情がいくつか変わるうちに話は終わったようでこちらへとやってくる。無事契約は終わったようだ。本来は真名を教えてもらって契約は終了するのだ。


「終わったようですね」


「あなたが私の運命の人なの?」


「っ! それは精霊が勝手に決めたことですよ」


 やはり話しやがったかと思ったが後の祭り。そんな話をしては意識せざるを得なくなるのは当然だ。ルルリール様は少し顔を赤くして俺を真っ直ぐ見つめる。そんなにも精霊の言葉を信じているのだろうか。俺はそこまで本気にはなれない。前世云々はともかく、今の俺には何も無いのだ。力があるだけのただの小僧、それが俺だ。なのに、どうしてそんなにも俺を真っ直ぐに見つめることができるのか。俺には理解できなかった。俺には幸せにできる明確なものが何も無いというのに。


「そうね、ごめんなさい。……でも、私が好きになるのは勝手だものね」


「何か言いましたか?」


「いいえ。そろそろ帰りましょうか、ライナス。少し疲れたわ」


 普段通りのルルリール様に安心した俺はその日はそのまま王城へと帰ることになった。


 その日が俺の運命を決定付ける日であったことを知らずに俺はその日を終えたのだった。


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