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魔力なし少年の転生譚  作者: 炎の人
アーミーアント編
13/23

アーミーアントの巣へ

 ルルリール様と約束した翌日。俺は目覚めて早々後悔に追われていた。


「だぁぁぁぁぁ! 二日とか絶大無理だし、かっこつけすぎたし、なんか恥ずかしい」


(ドンマイ。君って本当によく分からないね。なんであんな事言っちゃうかな)


「そんなことも言われてもよぉ。俺だってこんな約束するつもりじゃなかったんだよ」


(惚れちゃったの?)


「お前、そんなに俺に結婚して欲しいのか?」


(だって、君一生一人で過ごすことになるよ? そんなの嫌でしょ? だから、言ってるのに)


「まぁ分かってるけどさ。あの子はちょっと違うんだよなぁ。神聖な存在というかさ、触れたら壊れそうな感じがするんだ」


(ふーん。よく分からない)


「分からなくて当然だろ。俺もよく分からないんだから」


 光の精霊との会話を終えて俺はベッドを出て着替える。貴族の服は見栄ばかり優先して着心地は余り良くない。そんな俺の服はセバスに特注して作らせた戦闘服を兼ねたような服装になっている。貴族は大抵太っていてだっぽりした服が多いが俺の場合、汗が吸いやすい素材を黒く染めたロングズボンに胸ポケットを付けたシャツを着て上からふくらはぎ当たりまで伸びる白のロングコートというのを常装にしている。

 白と黒が好きな俺はこれの反対バージョンの服装を持っており、持ってきている。精霊使役が使えるようなってから汚れを気にすることも無くなったので気軽に着ることができる。ロングコートの内側には短剣を収納するバンドやポケットがたくさん付いてるので武器に困ることもない。

 動きやすい服装なのでいつでも戦闘に入れるという寸法だ。


「うん、今日も万全だな。剣の精霊はいるかな?」


(御前に、我が王よ)


「君は俺と契約してくれるのか?」


(私は剣の精霊。主がいてこそ栄えるというものです。喜んで契約いたしましょう)


 精霊の姿を正確に把握できるようになってきた俺は目の前にいる剣の精霊へと視線を向ける。植物以外のどの精霊もそうだが形が曖昧だ。きっと契約する事によって常に形を変えるのだろう。俺は目の前の剣の精霊を掌に乗せて俺だけが使える契約の言の葉を口にする。


「ライナスの名において願う。我に守るための力を、あらゆる災厄、外敵を退ける力を我に与えたまえ。汝の名はラル・スピリッツ・スパーダ。我のためにその力をこの手に」


(承知)


 光が溢れ出し、剣の精霊が名前を得て形を変えていく。精霊の王だけが持つ真名を刻む権利、それを行使して剣の精霊は姿を露わにした。それはまさしく一本の白い剣であった。純白と言っていいその剣は鞘から抜いてもなお、純白であった。


(おお! 新しい権能が付いたみたいだね。さすが君だね。精霊の王に選ばれただけのことはある)


「ラル、君の力を教えてくれ」


(剣による結界の生成です、我が王よ)


「それは一本で可能なのか?」


(数を増やせばそれだけ強力になります)


「なるほど、剣の生成と相性が良いわけだ」


 新しい純白の剣に俺は槍に変わるように念じる。するとすべてが白い槍へと変化した。重さも殆ど感じられないが精霊の力が宿ったこの武器は魔物の分厚い皮をも貫く事だろう。俺は新たに得た力に満足げに頷いて元に戻るようにラルに伝えた。


「さて、そろそろ行こうか。ラル、頼んだよ」


(承知、存分になさいませ、我が王よ)


 そんな会話をしてから俺は王城で与えられた部屋を出た。



 城を出た俺は早速アーミーアントの巣のある方へと向かう。途中に出会ったルルリール様に大層心配されたがかっこつけたのだからと最後までかっこつけて城を出てきた。少しくらいは男らしく見えていたらいいのだが自信がない。そんな小さな事に一喜一憂できるのも巣に入るまでだ。巣の入り口を守っている兵士にメナード家の家紋を見せて中へと通してもらう。嘲笑がかえってきた時には異能で穴へと落としてやろうかと思ったがやめることにした。囮にはなるだろうがうるさいだけで生産性がない。見られながら巣の中央へと行くと俺は剣を鞘ごと外してその場で異能で浮かせて巣の穴へと飛び降りる。剣を異能でゆっくりと操作しながら巣へと降りた俺は早速アーミーアントの群れと出くわす事になった。


「ラル、剣を展開してくれ」


 俺は精霊を使役する力を持つが精霊自身の力を直接使うことは加護を得ない限りできない。指示すれば思うように剣を操れるだろうが思考を伝えるタイムラグがあるためにやりたくない。それ故に俺はラルに剣生成させてからは自分の力である異能を使って操ることにした。


「さぁどんとこい。ラル、数で押すから百本になるまでどんどん生成してくれ」


(承知)

 

 十、二十と増えていくアーミーアントを剣で全て頭を貫いていく。剣の精霊であるラルが作った最高の剣はこの世でラルに準じる剣になっている。切れ味も抜群でアーミーアントに防ぐ術は無い。瞬く間にアーミーアントは数を減らしていった。全て倒した終わる頃には死体の山ができていた。


「これならいけるな。さぁ奥へ行こう」


 死体となったアーミーアントを異能で横へと動かす。死体は物としてカウントされるらしい。物さえあれば自在に操れる俺は触れることなく降りてきた地点へとアーミーアントの死体を積み重ねた。後で甲殻を使って何か作れないかセバスにでも聞いてみようと思う。

 先へと行く度に複雑になる道に頭を抱えながらも時折遭遇する。アーミーアントを倒していく。蟻の巣が複雑なのは前世の記憶から知っていたがこれは酷すぎる。明らかに無駄に掘られた行き止まりや部屋があり、何度か歩みを止められる事になった。


(罠だね)


「やっぱりか。そう言えば光の精霊さ、父上の治療ってできないの?」


(うーん、できないことはないけど難しいね。治療は専門の精霊がいるからそっちに聞いて欲しいよ)


(そんなのがいたのか? なら、呼んできてくれよ)


(無理だよ。彼女は精霊の中でも特に気まぐれだから、頼んでも動いてくれないよ。気が乗った時にしか動いてくれないしね)


「めんどくさいな。まぁ別になくても困らないだろうけど、バランス取るの大変そうだしなぁ」


 そうやって会話している間にもアーミーアントは襲いかかってくる。百本の剣で一斉に串刺しにしてアーミーアントを死体へと変える。単純ながら面倒な作業へと変わりつつあった。

 治療を専門とする精霊が動いてくれないのであれば、もう気にすることもないだろう。動かない精霊に価値はない。呼んで来ないならその気がないとして放置することにしよう。


「はぁ……光の精霊、頑張ってね」


(やだ、めんどい)


 光の精霊に治療を速攻で拒否されるのであった。







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