探索の結果と俺の決意
父上が探索から戻ってきたとの報告が齎されたのでルルリール様と共に俺は部屋を出た。割と話しやすい性格なので、つい話し込んでしまったがよくよく考えると普通は有り得ないことなのだと気付いた。ちらりとルルリール様を見ると今も笑みを浮かべている。そんなに楽しかったのだろうか。不意に目が合い、こちらを見つめる。その顔にはハテナマークが浮かんでいた。
「どうかしましたか?」
「いえ、何でもありませんよ」
その美しさに見惚れてました、なんて言えるはずもなく無難にそう答えた俺であった。
それからすぐに謁見の間へと辿り着いた俺達はそこで片腕となった父上の姿を見ることになった。左腕の肘から先が無くなっているのだ。血の気が引けた俺は思わず倒れそうになったがルルリール様の前で倒れる訳にもいかずどうにか耐える事ができた。
「父上! 大丈夫なのですか?」
「ん? ああ、ライナスか。問題ない。命があるだけまだマシだ」
父上は軽く笑うだけで残念そうに思うような事はなかった。それだけアーミーアントは強力であった証拠である。これはいよいよ王都が危ないのかもしれない。
「それで、それは誠のことか?」
「はい。巣は王都の外側へと繋がっており、その近くで女王種を発見いたしました」
「なんと……お主では勝てなかったのだな?」
「この通り、左腕を持っていかれました。どうやら産卵期のようで身重のようでしたがかなりのスピードで反応できずにご覧の有り様です」
父上の報告に国王陛下は沈黙する。父上が勝てない、ということはこの国で勝てる者は存在しないということだ。それは事実上のライクス王国の滅亡を意味している。隣にいたルルリール様も顔を青くして今にも倒れそうだ。お付きの侍女が支えてどうにか立てている。
俺は頭に乗っている光の精霊と話をする。相変わらず頭に乗っているだけで必要な時しか話さないので非常に助かっている。精霊に重さはないからね。
(なぁそう言えば俺とお前は契約していたっけ?)
(まだだよー。僕たちは自分で認めた者としか契約しないからね)
(そうなのか。俺が契約できる精霊はいるか?)
(剣の精霊と植物の精霊くらいかな?)
(お前は認めてくれてないのか)
(だって、君はへたれだからね。伴侶ができるまでは契約してあげないよ。僕と闇の精霊はそういう制約があるからね)
(めんどくさい制約だな)
精霊との契約は大きな意味を持つ。精霊の王であると言われている俺だがまだ人間でしかないので精霊の真の力を発揮させるには契約しなければならない。生きている間は人の制約にしばられるようだ。
契約すれば精霊をいつでもどこでも呼び出すことができる。それは己の体を精霊の住処として提供しているからだ。魔力のない体というのは精霊にとって自身の力を充満させるのには最適な環境であるのだ。精霊の住む精霊界と同じ環境が魔力なしの人間の中に作れるのだ。
更に契約する事で精霊はこの世に姿を晒すことができるようになり、契約者のために力を振るうことができるようになる。俺が命令するのとは違い、契約の場合は自身の権能をフルに使うことができるようだ。俺の命令の方が弱いのはまだ精霊の王として不完全であるからだと光の精霊が言っていた。つまり、現時点で俺がもっと力を発揮するには精霊に認められて契約するしか無いのだ。
(呼んだら来てくれるかね?)
(多分ね)
光の精霊と話している間に父上の報告も終わり、国王陛下も考えると言ってどこかへと言ってしまった。父上の左腕も気になるがアーミーアントの強さが気になる。産卵期というのは本人は大抵弱まるはずなのだが逆に強くなるというのは聞いたことがない。異常が起きたか、何か特別な事情があるに違いない。無表情の父上はこちらへとやって来るのを見て考えを止める。
「ライナス、余計なことを考えるなよ。お前にはまだ荷が重い。あれは人が相手できるものではない。きっと女王種の世代交代の産卵なのだろう。私の祖父からそう聞いたことがある。祖父も私と同じく左腕を無くしていたからな。間違いないはずだ」
「ですが、このままでは王都は無くなって、いやライクス王国は滅んでしまいますよ?」
「……致し方あるまい。魔物とはそういうものだ。我らもまた自然の摂理に組み込まれているのだ。淘汰される運命であるということだ」
「そんな……どうにかならないのですか?」
ルルリール様の言葉に父上は黙り込んでしまった。父上としても不本意なのはずだ。人間はそんな簡単に諦められるほどに長く生きていない。生が短いからこそ、懸命に命を燃やして生きるのだ。諦めが悪いのが人間の長所だ。それに俺は父上の言うことを聞くとは一言も言っていない。あまりやりたくなかったが俺が行くしかない。それだけの力を振るえると分かってしまったのだから。
「父上、申し訳ありませんが私は諦めるつもりはありませんよ」
「ライナス……だが」
「今まで抗っていたのは何のためか考えて見てください。生きるためです。生きるのを諦めているなら今頃こんな国滅んでますよ」
俺は父上の目をまっすぐ見て訴える。こんな所で死ぬのはごめんだ。二度目の人生だとか死んでも精霊の王になれるとかそんなのは関係ない。俺が楽しく生きるのに邪魔だから排除する、ただそれだけなのだ。
「ルルリール様、今日は部屋で休まれるといいでしょう。二日もすればいい報告が持っていけるでしょう」
「ライナス?」
「ええ、私にしかできませんからね」
この女の子に悲しい顔にさせるくらいなら俺が全て片付けてやる。ルルリール様には笑顔でいて欲しい。友達として、そしてほんのちょっと男として見栄を張りたいのだ。俺はそのままルルリール様に一礼をしてから謁見の間を後にした。友達である女の子に笑っていて欲しいというちっぽけな願いを胸に秘めて。
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「ライナス……」
姫様がそう呟き、ライナスがさった後の扉を見つめている。その様子は戦争に恋人を送り出す女そのものだ。あの息子に惚れた訳ではないだろうが心配なのだろう。
私の息子は目立たないように生きていたはずなのにいつから外に出ることを望むようになったのか。いや、この目の前にいる女の子の日常を守りたかったからかもしれない。やはり、私の息子だ。今は無き、彼女をそうして守ってやったのを今でも覚えている。私の血を引き継いだ息子は制止しても止まらないはずだ。私もそうであったから。そうであるなら私の役目は姫様の心配を和らげることだ。
「姫様、息子なら心配いらないでしょう。あれでも私の息子です。昔から慎重な性格ですから死ぬことはありませんよ」
「彼は、ライナスは約束してくれたんです。私の名前を持つ花を探してくれるって」
「…………………」
「済みません。あなたに話しても意味はありませんでしたね。部屋に戻ることにします。二日もすれば戻ってくると言いましたからね」
そう言って姫様は部屋を出ていく。どうやら私には荷が重すぎたようだ。大人になっても女の扱いはよく分からない。ライナスはよほど姫様の信頼を得たのだろう。私と違って色男になりそうで将来が恐ろしい。あれでは近いうちに姫様も息子の虜になるに違いない。幾度も見てきた息子を見た令嬢の反応には程遠いがそうなるに違いないという予感がある。全く誰に似たらああなってしまうのか。
「私に似ているようで全然似ていないな」
ほんの少しだけ息子が羨ましく思うときがある。貴族の息子でありながら貴族に囚われない生き方をしているのだ。考え方が違うのか、はたまたそういう風に生まれたのか。甚だ疑問だが考えても分かるまい。
息子が心配であるのは私も同じだ。だが、心配する事は必要は無い。姫様にも言ったが私の息子であるのだから。
「無事に帰ってきなさい」
私はそれでもそう呟くしかなかった。




