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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

神子の弟は月夜に吠える

作者: 鷹司


その村は少し街道から外れたところにあった

銀の狼の獣人の暮らすこの小さな村は純血主義で濃い血こそが尊ばれていた


そんな村にある時男児が産まれた


その男児は、特に素晴らしい血統の男女から産まれた

にもかかわらず人間と同じ見た目をしていた

丸い耳、尻尾の無いつるりとした尻 彼は銀の髪以外に一族のものであるという印が無かった


はじめは母の不貞が疑われた

しかし父が匂いを確かめると 紛れもない自分に近しい匂いがした


この子供は何なのか


月日が経つに連れその疑問は解けて行った

人間ではありえないほど高い魔力、ある程度ではあるものの誰からも好かれ 害意をなぜか抱き辛い

そして銀狼の獣人の純血

村人は彼が始祖の親であるヒトの神の生まれ変わり、もしくは先祖返りの半神であると確信をもっていった


村人は歓喜した

血の薄まることを恐れていた村人達は彼を大切に大切に囲うことにした

神の子である彼を神子と敬い、逃げられないよう 攫われないよう山の中腹に洞を掘り できうる限りの贅を尽くした部屋を与えた


神子を持つ銀狼族は素晴らしい存在に違いない

そう彼らは自惚れていった

そして自惚れの根拠たる神子を失う恐怖に怯えた


もう一人の神子を

もう一人の神子を


誰が言い出したのか神子の両親は次の子を産むように強制された

同じ種なら 同じ胎なら 奇跡がおこるかもしれない

狭い村しか知らない両親は群れに請われるがまま 子をなした

しかし次の子は見事な耳と尻尾を持つ銀狼だった

村人達は皆、溜息を吐いた


もう一人の神子を

もう一人の神子を


日に日に村人から冷たい目を向けられるのに耐えられず母親は次の子を求めた

まだ回復しきらぬうちに次の子を孕んだ母親は体調を崩しあっけなく死んだ

彼女を深く愛していた父親は 自責の念と恋しさから後を追った


遺されたのは

神子とまだ幼い銀狼


村人は神子を宝とし大切に大切に囲い

弟は神子産み腹を殺したと生きる最低限を与えられ罵られ育った


そしてそのまま九つの季節が過ぎ去った




______




その日は熊を初めて狩れた


本当は追い立てなきゃダメなのに 小さめだからいけそうだなって大きく跳んだ時には熊を引き倒してて

とどめを刺してるうちに村のみんなに見つかって出来損ないのくせに群れの狩りを乱すなんて生意気だって殴られたんだ

痛かったけど夜には腫れは引くだろうからいつもの事だから気にしないで丸まって耐えた

それよりご飯どうしよう?群れのみんながいなくなってからとても困ってしまった

今日は出来損ないが悪い事をしたからご飯は無い

だけど最近お腹が減って仕方ないんだ

朝も食べれなくて痛いほど空いたお腹を抱えて夕暮れの森を彷徨ってたら見た事のない洞穴に着いた

…そういえばここら辺は近づいちゃだめって言われてるところだったかもしれない

これで明日の朝も無しかな

諦めてこの洞穴を探してみるのも良いかもしれない

普段なら洞穴に何がいるかとか入る前に匂いでわかるけど、今日は鼻血が酷くてばかになっている

手に負えない魔獣とかいないといいなと思いながらはいると入り口の見た目以上に人通りがありそうな事に気がついた

痕跡はほとんど消されてるけど 明らかに通りやすくされている

不思議だなと そのまま進むと灯りが見えた

一瞬 ダメだと言われたところにいるのを見つかったら大変かなと思ったけど今更な気がしたし 気になったから何があるのか奥まで行く事にした

どんどん進むと今まで見た事もないような場所だった

灯りの魔道具でやさしく照らされているのは鉄格子

洞穴はむき出しの壁だったのに、その中は白い漆喰に覆われていて

村では村長の家にしか無いような鮮やかな織物が所狭しと並んでる

「…だれ?」

急に聞こえた声に顔を向けるとその贅沢な檻の隅っこに見た事無いくらいきれいな生き物がいた

それは同じ年の雄や雌の様だが群れのみんなと違って頭の上に耳が無くて 赤子の様に筋の無い不思議な肉のつき方をしていた

「だれなの?こっちに来て」

鉄格子の側までいくと俺を見てなんでかきれいなのはとても驚いていた

「君はだれ?」

「だれって出来損ないだよ」

「出来損ない?僕の家族じゃ無いの」

きれいなのは変な事を言う

「家族って 何を言ってるの」

「君も狼でしょ匂いでわから無いの?」

「今日は殴られたからばかになってるんだ ごめんね」

謝るときれいなのは困った様に頬に指を当てた

卵形の爪が光を弾いて こんな爪の先まできれいなのかとびっくりする

「そうか、じゃあ鼻が良くなったら近しい匂い かどうか確かめてくれないかな」

光る爪を見てたらきれいなのがそんな事を言い出した

「んーわかん無いかもしれない」

せっかくきれいなのが頼んでくれてるのに残念で仕方ない

悲しくなって耳も尻尾も垂れてしまう

「なんで?」

「出来損ないの母さんと父さんは死んじゃっててあった事無いし 上にミコサマがいるらしいけど出来損ないには関係無いって言われてるからあった事無いから近しい匂いがわから無い」

そう言うときれいなのは格子から手を伸ばして手を掴んできた

「間違いない!それなら君は僕の弟だ」

「どういうこと?」

「僕が神子だよ」

ミコ…ミコサマ?

びっくりしてると きれいなのが目を覗き込んでくる

泉の深いところみたいできれいだなって思ってたらミコサマは真っ白な肌を興奮に紅く染めて 楽しそうに話しかけてきた

「ねぇ、お兄ちゃんでも兄さんでもいいから呼んでみて」

「にい さん…?」

「なんだい弟くん」

呼んだ途端に ミコサマは鮮やかに笑ってくれた

「そういえば弟くんの名前はなんて言うの」

「名前?」

そう言われると困ってしまう どれがそれだろう

「いつも呼ばれる名前だよ」

「出来損ない」

「そうじゃなくて」

じゃあどれだろう 呼ばれる名前はいっぱいある

「母殺し おまえ おい 汚泥」

「止めて」

なんだかミコサマの目が潤んでる きれいだ

「名前ないのかな?ないならあげようか?」

「本当?ありがとう!」

ミコサマに何か貰えるなら嬉しいなって思う

「僕はクリスだし 同じ位の長さがいいよね、じゃあこれから出来損ないじゃなくてフランだよ フラン呼ばれたら返事は」

「うん」

「はいって言って」

「はい」

「よくできました」

しばらく悩んで出来損ないに名前をくれた 今から出来損ないじゃなくてフランらしい

ちゃんと返事ができると笑みが深くなる

そういえばミコサマの名前はクリスみたいだ

フランも呼ばれたら嬉しかったし 呼んだらもっと喜んでくれるかな

「クリス」

「はい」

「クリス!」

「なあに」

「呼ばれたらフランは嬉しかったから呼んでみた」

「じゃあクリス兄さんって呼んでくれたらもっと嬉しいな」

「クリス兄さん」

「ありがとう 嬉しいよ」

「ならフランももっと嬉しい」

嬉しくて嬉しくて口の端が上がるとまだ治りきってない傷が傷んだ

「フラン 痛くないの」

「痛いけど大丈夫 寝たら治るよ」

「今日はもう寝な」

「ここで寝るね」

帰ってもご飯はなさそうだしここで寝よう

足元の小石を蹴ってどけて丸くなるとクリスが慌てて毛布を持ってきた

「フラン!そんなとこで寝たらダメだろ」

「いつもこんなだから大丈夫だよ?フランは丈夫なの」

「じゃあ僕が嬉しいから毛布使って」

そう言われたら使うしかないので包まった毛布はとても暖かかった

今までにないくらいご機嫌だ 毛布からはみ出たフランの尻尾が嬉しそうに床を叩く音しか聞こえ無くなってそのまま意識がなくなった



衝撃と痛みで目が覚めた

「なんで出来損ないがここにいるの!!早く出て行け!」

いくつかの罵声が響いて耳まで痛くなりそうだ

痛いとこの感じから鳩尾を蹴られて背中からぶつかったみたいだ なかなかきく

むせているとまた蹴ろうとしてる雌が見えた

避けたらまた怒られるなって 避けようとする体を抑えて動かないでいると高い叫び声が聞こえた

「何してるの!止めて!」

ぶつかった先が鉄格子だったのか後ろからクリス兄さんの声がする

「神子さま ですが出来損ないがここに勝手に入っていたので罰を与えているのです」

「出来損ないじゃ無い フランだ!」

雌たちが嫌そうにフランに目を向ける

「これに 名前をつけたのですか」

「そうだ、フランは僕の弟なんだろ なら僕のものなんだから傷付けるな」

そう言うとクリスに聞こえないように雌たちが囁き合うのが聞こえた

「出来損ないが上手く取り入って」

「だが神子さまの機嫌をそこなうのは」

「村長に聞かないと…」

「だが出来損ないくらいで機嫌が取れるなら玩具にいいのでは」

フランは雌たちが目で黙ってろ動くなと指示されているから大人しく倒れてる 群れの上位者の命令は絶対だ

「…解りました神子さま、フランは神子さまのものです」

「なら返して ここに入れて」

その言葉に周りが固まる

「ですがこんなに薄汚いのを入れるなんて」

「僕の湯あみの用意があるでしょ使って」

「ですが神子さまの湯あみができなく!」

「じゃあ僕の後でいいから使ってあげて」

「…解りました」

雌たちが嫌そうにだが頷く …もしやミコサマとは群れの上位にいるのかもしれない

まだ同じくらい幼いのにすごいな

そう思っていると雌たちに脇に手を入れられ引きずり起こされた

「フラン大丈夫?」

「うん」

檻の中に入ると床がふかふかする

足元を見ると毛の長い敷物に汚れた足が埋まっているのが見えた

「クリス兄さん 汚れちゃうから」

「じゃあ使ってた毛布を敷いて待ってて」

あわてて毛布の上に座るとクリス兄さんは服を脱がされ用意された桶に入り雌たちに丁寧に洗われだした

こうして見ると兄さんはやっぱり綺麗だ

耳や尻尾が無いのは残念だけど どうやって生きてるか不思議になる薄い体も 太陽を知ら無い真っ白な肌も そして群れのみんなとそこだけ同じ豊かな銀髪さえもクリス兄さんのは特に綺麗に見える

「ほら、次はフランの番だよ」

兄さんは雌に髪の毛を拭かれ服を着せられ始めてる

フランも服を脱いで桶の中に入った

桶の中にはちょうどいい温度のお湯がはってて傷にしみるけど気持ちいい

「ほらこれでこすって」

手ぬぐいをお湯に浸して頬に当てられる

ぐいぐい擦ってから手ぬぐいを見ると黒くなっていた

兄さんが手ぬぐいを取り、お湯で洗ってまた渡す

「背中はやるから見えるところは自分でやって」

全身こすっていくと少し赤くなったけどどんどんきれいになっていく

髪の毛も頭をつけてこすると重くなったけどさっぱりした

「やっぱり同じ顔だね」

お湯から上がると兄さんが拭いてくれた

きれいになったフランを見て雌たちも驚いた顔をしてる

「同じ顔?」

「そうだよ こっちにおいで」

手を引かれ向かうと装飾の目立つ枠の前に立たされた

目の前にクリス兄さんが二人いた

「え?」

驚いて横を見ても兄さんがいる

なんだこれ

よくよく見ると三人の兄さんのうち一人だけなんだか違う気がする

体や傷跡があるし 兄さんにしては筋肉のついた体をしている

そして二人は笑ってるのに一人だけとても驚いた顔をしていた

「これは鏡だよ」

横の兄さんから声が聞こえる

繋いだままだった手を前に出されると正面の兄さんも繋いだ手をこちらに向けてきた

そのまま正面の兄さんの手と触れ合うかと思った時手が何か硬いのにふれた

「ここに写ってるのは僕とフランだよ、金属を磨いてできてるんだ」

「うん」

兄さんが説明してくれるが 仕組みには興味がないせいか中途半端に返事をしてしまう

それより、すごい

フランはこんな顔をしてたのか

少し垂れた目は深い泉みたいに澄んでいて まつげは銀細工のようにキラキラして泉に光を散らしてて

筋の通った鼻はかっこよく

唇は薄めで色もほんのりで冷たそうなのに 顔全体を見るとなんだか可愛らしくまとまっていてなのにきれいだ

ただ少し残念なのはクリス兄さんはきれいな長い髪を波打たせ纏ってるのに フランの髪はストンと落ちてて一緒じゃない

「フランの顔は兄さんと同じできれいで嬉しいんだけど兄さんと同じ髪がよかったな 兄さんの方がきれい」

「じゃあ三つ編みしておいてみようか、はい後ろ向いて」

向こうを向かされると鏡の中の兄さんとフランが横目で辛うじて見えた

兄さんの細い指が踊ると不思議と髪がまとまっていく

「兄さんすごい!」

「そうだろう 兄さんはすごいんだ」

「…兄さんはやらないの」

一人だけ三つ編みなのはなんだかさみしい

「僕もしたら癖がひどくなっちゃうだろう、フランだけなら明日お揃いだな」

「本当?…兄さん 大好き!」

兄さんがなにかしてくれた

そして兄さんもお揃いにしようとしてくれた

そのことになんだか胸がぎゅーっとして好き以外の言葉が見つからなかった

「フラン 神子さまにはお勤めがあるのです、もういいでしょう行きますよ」

雌が声をかけてきた

従うしかないので立ち上がると兄さんに袖を掴まれる

「また明日おいで その時に三つ編みを解いてみよう」

「うん!」

明日もまた会える

それだけでこれまで感じたことのない幸せを感じた

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[良い点] 面白く、読みやすいです。 [一言] 続きが気になります
[良い点] 面白く、読みやすいです。 [一言] 続きが気になります
[一言] はじめまして! 境遇が異なった二人だけの兄弟もの、とてもよかったです。兄と出会って幸せを感じる弟が可愛いですね。 おそろいで喜ぶとことか、きゅんとします。 二人には幸せになってほしいな……と…
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