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#9【例えばそれは…】


それからの一週間はホントにハード。しかも活動は全て夜中。内容は、というと、使わなくなった教室から順にトラップ仕掛けたりとか。司書くん(実はものすんごく頭が良い)が緻密に計算してくれて、教室に入ると同時に小さな爆発が起きたりするトラップだ。クオリティーの高さが尋常じゃない。

そうそう。そういえば、私たちはどうやら、学校のセキュリティーまで解いてしまったみたい。なんとなく涙のしわざっぽいけどどうやったのかは聞けなかった。それに触れると変ににこにこ笑うし。…恐ろしい。とにかく。セキュリティーが解けたおかげ、っていうか所為で、夜中に忍び込みことが日課となり、昼間、すんごく眠くなる。昼寝で先生に注意されるのも日常茶飯事になりかけていて、それをさらりとかわすコツをやっと身に着けた頃には金曜日だった。というわけで、土曜日から、つまり明日から、待ちに待った夏休みだったりする。

「ふぁ…眠いです…」

兎野ちゃんが、可愛らしい小さなあくびをした。それを当たり前のように写メる司書くん。そんな司書くんの足を思いっきり踏みつける兎野ちゃん。もはや定められた公式なのかと疑ってしまうほど、スムーズなやり取りだ。

「分かる分かる…ふぁ…」

つられて私も小さくあくび。貝塚くんなんてすんごい眠そうにしてるし。てゆーか、もう半分寝てるといっても過言じゃない。時々、「…はっ!」と、目を覚まして、ごしごしと口元をこするのが微笑ましい。そしてまたこっくりし始める。

「おーいっ!皆様皆様。寝ないでねー?」

涙はにんまり微笑んで「これから…」とささやいた。手元には一つの缶。嫌な予感に柳君が顔をしかめる。シューっと音がして、ヘリウム少女は偉そうに言い放った。

「これからボクたちは宣戦布告をする。このくそったれの青春にね」

「お。たのしそ」

「同感っす」

東先輩と相良君には、睡眠というものが必要ないらしい。由依君なんか「疲れたから、おやすみ」って通信切っちゃったのに。

「どうぞ、これを」

懐かしのガスマスク。



―――こうしてやっと、青春は動き出した。



「…わんっ」

当然響いたブルちゃんの鳴き声に校長先生が眉を顰めた。そうしてブルちゃんに、一歩二歩と近寄って行く。あと…一歩。

「犬?」

…ゼロ。

「ふふ…面白い」

私は一人小さく呟いて、手元のスイッチを押した。ブルちゃんの足元が赤く点滅する。

平和な静けさ…そして。爆発。悲鳴。雑音。…笑い声。

「宣戦布告」

「…ごほっ。ごほっ。…な、なんだぁ?」

「ガスマスク?」

「あなたたちっ。やめなさいっ」

またまた爆発。

「青春なんてくそくらえだ。と言うわけで、この一か月。学校はボクらのものとする。文句があるなら、せいぜい反撃でもしてみればいい」

ヘリウム少女は、ガスマスクの下で「んべっ」と舌を出した。それを合図に、職員室は煙に包まれる。

「…まてっ。貴様らの目的はっ…ごほっ」

「んー?目的?そんなの無いよ。でも、そうだなー。しいて言えば…」

次々と姿を消して行く少年少女。廊下にその笑い声が響く。私たちは…走る。走って、走って、走る。息を切らして走る。青春に、全力疾走は付きものだ。

戦いの火ぶたは切って落とされた。

…なんて。これがファンタジーのプロローグなら、それはあまりに日常とかけ離れた壮大な物語の幕開けにでも綴られる言葉なんだろうけど。やっぱり少し違う。これはただ、青春に飢えた私たちが、ひとつ何かを飛び越えてみただけの当り障りのない気まぐれだ。これを飛び越えた先には何があるのかな、って。いま私たちは空中にいる。ほんの一瞬の浮遊感を噛みしめている。だからまだまだ分からない。

「気まぐれ、かな」

けどさ。いまはほら、分からなくたって、良いと思う。青春なんだから。









【クーデター(Coup d’état)】例えばそれは青春に飢えたヤツらの気まぐれだったりする。

―以上。






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