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#7【演技はとっても役立つ便利なスキルだったりする】


「なるほど。万引きを止めようとしてくれたんだね?」

優しそうな警官が東先輩に問う。ちなみに、ここでの私の立場は「万引きを止めようとした少年の恋人」だ。彼が心配だ、と言い張り、ここまでついて来た。

「はい」

あのあと、五分くらいで、野次馬の誰かの通報により(ホントは私が通報する予定だったのだけれど)、警官がやってきた。保護された東先輩は怪我もそんなにひどくなく、話も聞けそうだったので、事情聴取となったのだった。谷川(息子)は別室に居るらしい。

「正義感が強いんだね。他には何かされたりした?」

「暴力だけです」

「そうかい?じゃあ、気付いたことは?」

「あ、あの…」

私はおどおどしたキャラを装って、警官に「気付いたこと」を告げる。

「彼を殴った人…あの…谷川、さん?…あの人の鞄がこっちに…その、転がってきて、おかしなモノが…えと…見えたので。ど、どうしよう、と思って…勝手に…写真撮っちゃって…」

「おかしなモノ?」

警官がこちらに目を向けたので、私は深くうつむいて、小さく頷いた。返事もしたのだけれど、聞こえるか聞こえないかくらいの音量だったので、警官にはきっと通じていない。てゆーか、彼とか屈辱。となりでニヤニヤしている東先輩がどうしようもなく目障りだったので、思いっきり右足を踏みつけてやった。今日は格別に痛いよー。なんたってヒールだからね。

「あぅッ」

「どうしたの?」

警官の目線の先が先輩にうつった。ふぅ。この間にスマホを操作する。

「ちょっと…き、傷が…?」

「あ、ああ」

東先輩の必死な苦笑いに、警官がちょっと引いている。ふん。ざまあみろ。それにしても、そんなに痛かったのかい。ごめんよ。

「こ、これです…」

「え?ああ、おかしなモノ、ね。…って、これ…」

「ここ、の…ラベルに…」

私の指さした先には、ニュースでよく出てくるような、麻薬の名前のようなものが…。まぁ、本物の麻薬らしいんだけど。相良君情報では。今日、このデパートの裏の廃工場で、谷川(息子)を筆頭とした不良グループが麻薬デビューをする、みたいな。それが今日の会合の内容だったらしい。そして、谷川(息子)には、会合がある日は毎回、デパート内を徘徊してから会合に出席する習慣がある、と。…ほんと、どこからそんな情報貰ってくるんだろう。

「ふぅ。これは僕の独断じゃ決められないな。その携帯、少し借りても良いかい?」

「あ…はい」

こんなこともあろうかと、これは貝塚くんに貰っておいた携帯だ。前に改造をして、それから使い道を見つけられずにいたらしい。差し出したスマホを受け取ると、警官は部屋を出て、十分くらいしてから戻ってきた。その間、東先輩に「足痛いんですけど」アピールを散々されたのは言うまでもない。

「この写真は消しちゃっていいよ。こんなの中学生が持っていたら危ないからね。ただデータだけは抜き取らせて貰いました。いいかな」

「平気だよね?」

東先輩の言葉にこくりと頷いて、私はだんまりを決め込んだ。私がやることはもう終わったのだ。あとは東先輩が進めてくれる。

「あの、谷川さんはどんな処分を受けるんですか?」

「谷川君かい?軽くはないと思うけど…」

「実は、知らない人、っていうわけでもなくて。会う可能性もあるんです。それが少し…気になってしまって」

「それは気になるね。何か希望はある?」

「夏休みが怖いので…谷川さんの親御さんが谷川さんと居てくれると…。せめて夏休みまででも」

怖いって…あんた…。谷川(息子)とかなら返り討ちにして、むしろ子分にしちゃうくらい、朝飯前なくせに。

「そうだな。よし。それは約束しよう」

…。なんだか拍子抜け。これなら脅しとか必要ないじゃん。

「「ありがとうございました」」

二人揃って頭を下げる。私は相変わらず小さな声だったけど。

「いやいや、こちらこそ。…実はねぇ」

三人の他には誰もいないのなぜか声を落とした警官に、私たちは眉を顰めた。

「僕さ、キミらの友達の友達なんだよ。ルイちゃんって言うんだけど。さっき僕に通報くれたのもルイちゃん。この間不良に絡まれていたのを助けてあげたら、クッキーとか作ってくれてねぇ。贔屓なんかしちゃいけないけど…やっぱりルイちゃんの頼みは断れなくてさ。キミ達の願いは出来るだけ聞いてあげてって」

…涙。偉そうなのに一人だけ何もやって無くね?とか思っちゃってごめんなさい。ほんっとごめんなさい。

「じゃあ、今日はお疲れ様でした。ルイちゃんによろしくね」

警官に手を振られながら、私たちは歩き出した。もう七時か。全然見えない。

「空、綺麗」

「んー」

ここ最近は日が長い。七時頃が一番きれいな夕焼け空だ。絵具をさぁーって塗ったみたいに爽快な空をしている。くり抜いたように月だけが白いものなんだか可愛らしい。

「そだ。先輩。行かなくて良いの?」

「どこに?」

「チンピラさん」

私が指さした先には名もなきチンピラたち。二人組の女の子が囲まれている。谷川関連はしばらく待ってもらわないといけないけれど、名もなきチンピラなら関係ない。ちょうど悪いことしてるし。本当に今日はついている。この大変貴重な運を無駄にはしたくない。

「んー。椎、一人で帰れるー?」

「行ってきなよ」

「…」

東先輩は口笛を吹くと、にやりと笑いながら歩いていった。

「ばいばーい」

小さく呟いて笑いをこらえる。くるりと先輩に背を向け歩き出すと、後ろで不良たちの情けない悲鳴が聞こえてきた。ぷぷ。東先輩に勝てるわけないじゃん。

そこで思い出した。

「…あ。先輩に敬語使うの忘れてた」




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