#6【男女が二人で歩いている=デートは成立しない式だったりする】
「ねぇ、椎」
「なんですか」
「デートみたいだねぇ」
勝手に言ってろ、という意味を込めてノーコメント。
「ねぇ」
相良君から情報を受け取り、ちょうど一周間経った、土曜日の真昼間。まぁまぁ知名度の高いデパート(日用品から、洋服、食材、本、なんでもお任せください!ニャアンカード、使えます☆)に、私と東先輩は居た。
「ねぇねぇ」
「…」
視界の端にうつる、しきりに何処かを指さす東先輩。…正直鬱陶しい。私たちはこの写真の中の人物を探しに、ここに来たっていうのに。分かってないのかなー。おっと、だめだめ。ここでこの右手を振り上げては。椎、大丈夫よ。この人はほんの少し脳みそのしわが無いだけ。落ち着いて。
「ねぇってば」
私がせっかく努力をしているというのに、先輩には一ミリも伝わっていなかったらしい。
「…。五月蠅いです…って、あ」
「でしょ?」
ちょうど目の前を通り過ぎて行ったガラの悪そうな集団。その先頭でにやにやしてた人…。私の手の中にある写真の人物と瓜二つ…ううん。完璧に同一人物だ。
ごめんなさい。東先輩。
そう、東先輩のさした指の先には、まさにその人が居たのでした。東先輩は私にそれを伝えたかったわけで…。とにかくごめんね!
「ですねー。…先輩」
私は小声でささやきながら、季節的に少し早すぎる麦わら帽子を深めにかぶり直しておく。いつもは絶対に、こんなのかぶらないんだけど。ちなみに今日は、服も…うーん、なんていうんだろ。ガーリー?よく分からんが花柄でひらっひらなワンピース。ちょっとしゃれたサンダルなんか履いちゃって。髪留めつけるわ、アクセサリーするわ、ネイルされるわ。散々だった。創案者は司書くん。まぁ、これもそれも、気休め程度ではあるが、顏をばらさない為。
「んー」
今日は先輩もいつもはしなさそうな格好で、きちっとしたポロシャツに、気取った帽子をかぶって、しかも男なのにブレスレットとか付けちゃってる。服だけ見た時はみんなで大爆笑したけど、ちゃっかり似合っているのだから、イケメンパワー、恐るべし。
けれど、ふたりともこれで雰囲気は結構変わったので、今、東先輩と私だって分かった人はすごいと思う。せめて後ろ姿ならバレはしないんじゃないかな。
「よし。八メートルくらい離れたので尾行開始です」
「りょーかい」
「……先輩…です?」
「「おぅ」」
思わず、東先輩とはもってしまった。
「う、兎野ちゃん…」
振り向いた先には大人しそうなお嬢様。おしとやかな空気を、素でまとっている。こういう子が今の私の服とか着れば、相当可愛らしいはずだ。
「Hello」
東先輩はこの頃、英会話にご熱心だ。すんごく簡単なのばっかりだけど。あ、でも、そのかわり口笛率が低くなった(当社比)。
「…東先輩」
いつもは無表情な兎野ちゃんも東先輩のこの格好には驚きを隠せなかったみたい。あー、そっか。あの日は、兎野ちゃんだけお休みだったんだ。
「デート中です?」
「そだよー」
「違います」
「…どちらが正解で?」
「ォ」
「私」
「…レ」
よし。今度は先輩を追い抜けた。兎野ちゃんは無言でこちらを見つめてくる。じぃー。そんな効果音を付けたい。これが効果音なのかは知らないけど。
「良かった…です」
「あれ?あれれ?兎野ちゃん…まさか、東先輩のこと、好き…とか?」
ちらっと東先輩をみるとぼーっとしていた。えー。
「はぁ?」
こちらはこちらで大変なお顏。う、兎野ちゃん、落ち着いて。ごめん…隠したいよね。私が余計なこと言っちゃったから…。
「そんなわけ無いじゃないですか」
あれ?兎野ちゃん、まさかの饒舌キャラ?ブレてない?いいの?
「男という生き物は、男とくっつくのが正しい道ですよ?なにを言っちゃってるんですか。椎先輩。兎野がほっとしたのはですね。東先輩が椎先輩とくっついてしまうと、アズ×カイとかのおっいしい場面が減ってしまい…、アズ×ヤナなど…下剋上しちゃってヤナ×アズも有りでは?じつは何気に、サガ×アズが外せなかったりして。組み合わせは同じでも、右と左が入れ替わるだけで案外…って…あ…」
「「…」」
沈黙するしかない。あ、一人称苗字って可愛いね。
万年無表情の兎野ちゃんが、表情は崩さないものの、あーんなに興奮して(早口過ぎて最後のほうとか聞き取れなかったけど)話し始めたから、先輩として快く受け止めてあげようと思っていましたが…。
「冗談です…キラッ」
いやいやいや。とってつけたようにピースマークとかしてもね?ごまかせないからさ?キラッとか言ってみたって意味無いからさ?
「なーんダ。びっくりんご」
東先輩がとうとう壊れてしまった。しわの少ない脳みそがさらにつるつるに。うん。たしかにあれは核爆弾なみの破壊力だった。でも兎野ちゃん、大丈夫。人の趣味嗜好は自由だから。そういう道もあると思うよ!私だって、百合とBLならBLをえらぶよ!
「椎先輩、そのぐぅ…なんです?」
「ぐっじょぶ!」
…って。…はぁ。爆発の後遺症は私にもあったみたい。
「?」
兎野ちゃんは心底不思議そうに、そして可愛らしく小首を傾げた。…そして二つ目の爆弾も投下される。次は東先輩の手によって。
「てか椎ちゃーん?…あいつ、忘れてナイ?」
「ん?」
思考時間。ぴったり五秒。
「…ぁぁぁぁああああああぁあぁあああああああああっ!」
からの悲鳴。
あいつ、もとい写真の人物、もとい谷川の息子。追っかけなきゃ!
「ごめん!じゃーね!兎野ちゃん!」
「ばーい」
「さよなら…です?」
ぼーっとしている兎野ちゃんを置いて全力疾走。ああ、どうしよ。私のほうが足引っ張ってるし…。はい。正直に言いましょう。めっちゃ悔しい。脳みそつるつるさんには負けたくない。
そんなこんなでデパートを駆けずり回ること三十分。
「…!いた!」
「椎、目いいネ」
「そんなこと言ってる場合じゃ…。お、ちょうど良い」
ちょうど良い。その言葉の意味は谷川(息子)の手元にあった。明らかに会計を通していない雑誌。【さるでもわかる!カメレオンの餌と飼い方】。え。カメレオンなんて飼ってるの?谷川(息子)さん。まぁ、良い。万一の場合にそなえてスマホで写真を撮っておく。雑誌を鞄に入れ終えたところを見届けてから、私は微笑んだ。OKだね。やっぱり万引きしてる。これなら正当防衛…とはちょっと違うかもだけど、こちらが一方的に攻められることはない。
「やっちゃえ。先輩」
久しぶりの口笛。帽子を深くかぶり、東先輩は口をゆがめる。楽しそうに歩き出して十歩目。谷川(息子)の手をつかんだ先輩が優しく言う。
「あの…すいません。今、鞄に何か入れませんでしたか?」
人の良さそうな笑顔。思わず見惚れるほどの好青年ぶりだ。あの人意外と演技力あるよな…。
「あ?」
谷川(息子)とそこらへんに散らばっていたその取り巻きが、一斉に東先輩をみた。中心となっている谷川(息子)は正に、THE不良さん、って感じ。金髪にピアス。変に気合いの入っているスカジャンに、やたらと目立つ十字架のネックレス。キリストに失礼極まりない。下はこれでもかって程だぼだぼな龍の模様の描かれたジャージを腰パンしていて、ただでさえ短い足はさらに短く見える。ちなみに、取り巻き達も対して変わらない格好だ。谷川(息子)くんと愉快な仲間たち。
「えーと。今、その鞄に…」
「なんか文句あんのかよ。おい。つーかおめぇ…店員でもねぇだろ?あん?」
私は少し距離を置いて、他人の振りをする。うん。良い感じに見物人が集まってきた。スマホを向けて撮影しておく。
「でも、あなた方がやっているのは犯罪ですよ?」
「だーかーらー、おめぇにゃ、関係ねぇじゃんよ?」
東先輩が一人なのを確認して、不良たちがニヤニヤし始める。良かった。バカで。自分たちが注目され始めているのに全く気付いていない。
「関係なくても、それは犯罪です。戻してください」
「…ッチ」
舌打ちすると、谷川(息子)はもっていた鞄を投げ捨てた。私は身を縮めてその鞄に手を伸ばす。よし。誰もこっちを見ていない。急いで鞄の中にカメラを向け、フラッシュをたく。たった今万引きした雑誌、お財布、スマホ、それから…。
「…あった」
一応、見つけたモノの中身も撮影してから、私は鞄を素早く戻した。
「お前さぁー」
ゴン。東先輩が尻餅をついた。頬には思いっきり殴られたあと。いつもの東先輩ならこんなチンピラ余裕なんだけど…。今はやられる場面だ。
「調子のってんだろ」
「…ッ。…戻して…下さい」
ふらふらしながら立ち上がろうとした東先輩のみぞおちを、谷川(息子)は思いっきり蹴り上げる。
「だまれよッ」
きちんとガードしてるんだろうけど、見てると痛そう…。ま、先輩ならへーきだよね。がんばれー。あとで恨みは晴らしてあげるからねー。




