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#4【暇つぶしの一歩目は案外愉快だったりする】


「しぃ…だっけ?」

本を読みながら歩く帰り道。声をかけられて振り向くと、東先輩がいた。二人で話すことなんてなんてほとんど無い。…あ。でも一番最初に話しかけちゃったのがこの人だっけ?

「はい…まぁ」

「椎…。しぃチャン?…しーこ?」

何がどうしてそうなった。

「…別に何とでも。好きなようによんで下さい」

変人さんを説得するのなんて時間の無駄だ。ちょうど今小説が良いところなのに。こんな人に邪魔されてたまるか。

「んー。ここじゃなんだからキミの家いこ?」

予想外。この人は常識と言うものを知らないのだろうか。

「…ご勝手に」

「話が早くて助かるヨ」

またあの口笛。「迷惑です」って顏全面に出してるんだけど…。わかんないかな。少しイライラしてくる。

「ついてきて下さい」

面倒なのでさっさと終わらせよう。幸い家はすぐそこにあるし、この時間は誰もいない。

「どうぞ」

鍵を差し込み、ガチャリとまわす。家の中は案の定静まり返っていた。ちなみに私の家は一軒家の二階建て。壁は黄色くて、他は何の特徴もない。私の部屋は二階にあるから、玄関に入るとすぐ見える階段で直行する。

「ふーん」

「さっさと上がって下さい」

東先輩は口笛で答える。もの珍しそうに人の家の階段を眺めるのはやめてほしい。

「座って下さい」

カーペットを指さして言ってみる。先輩は思いのほかすんなりと座ってくれた。まだきょろきょろしているけど落ち着いた方だ。なんか世話のかかる大型犬を飼った気分。

「で、要件は?」

「ほんっと話早いなー?涙…じゃないや、涙チャンが引き込んだのもわかる気がする」

「…なんか性格変わった?」

「エエー?」

もしかしたらいつもはバカな振りをしているだけなのかもしれない。思い返すと図書室での笑顔も嘘くさかった気がする。証拠も、先輩がそんな振りする理由も対して思い当たらないが、なんとなく考えてしまう。他人の裏側がちらりと見えるときはその人が助けを求めている時らしい。

「椎?なんか顏が変だよぉ?あ、元からか?」

「…」

この人が助けを求めるなんてありえない。どんなシリアス展開だよ。きっとそーいう性格なのだろう。絶対。うん。てゆーか。顏…そんなに変か?とにかく今は先輩のことも私の顏のこともどうでも良いのだ。…私の顏のことも。

「別に追及はしません。私の思い込みです。だからなるべくバカじゃなく話して下さい」

「へー?」

「…早く」

「はいはーい。じゃあ、単刀直入に。えーっと…一人の人間を一か月くらい再起不能にしたいんだけど…な?」

「なんで私に?」

「涙チャンが椎に聞けって」

…涙め。面倒くさいことをおしつけおって。ま、でも、ちょっと楽しそう。

「あと…オレだってばれる行動…例えば、あからさまな暴力はやめなさいだってー」

いやいや。楽しい?そんなこと思うなんて、私もとうとう涙に感化されたか。はは。笑っちゃう。「だって楽しまなきゃ損じゃーんっ」涙なら言いそうだ。

「なるほど。二年の社会科教師、谷川ですか?」

生活指導も担当している彼がいると、この夏の計画は滞りそうだ。心の中の涙に「仕方ないなぁ」ってため息をつきながらも、私はなんだか愉快だった。

「せーかい」

「良いでしょう。てゆーかアイツは準備の時点から邪魔なんで、いっそ明日からにでもいなくなってくれた方が楽です」

にっこりとほほ笑んで人差し指をたててみると、先輩は挑発するように口笛をふいた。

「…っていうのが理想なんですけど、きっと無理なんで、来週中に取り除けたらぐっじょぶですかね」

「そうねぇ」

元から私は谷川が好きじゃない。一年の頃の社会が谷川の担当だったのだけれど、可愛い女子だけ限定のあからさまなエコ贔屓をする。しかも、廊下を歩いていたら、谷川からぶつかってきたのに「渡壁さん。ふらふらしないで歩きなさい」ってことで三十分のお説教。どこのチンピラだよ。てか、誰だよ。渡壁さん。

「怪我させるのだめだと…うーん、脅しですかね」

思い出していたら、殺意がメラメラと湧いて来た。渡壁さんて…間違える方が大変でしょ。

「えー」

「じゃあ、他に何かありますか?」

「落とし穴」

「相良くんじゃないんですから」

「あ!ねーねー」

「何か思いつきましたか?」

「オレのこともヒカルくん❤ってよんでヨ」

「丁重にお断りさせていただきます」

私は深々と頭を下げた。そういえば皆、東先輩だけ苗字で呼んでるかも。司書くん外すと…。ってあ…兎野ちゃんが居たか。良かったね。先輩。一人じゃないよ。あと貝塚君か。案外いるもんだなー。

「まっ黒子さま?てことはぁ…オレが駄犬デルモ?じゃあじゃあ、しぃっち?わたなべっち?あ!わたっち?」

さすがギャル。

「てゆーか先輩、ジャンプっ子だったんですね」

意外…でもないか。ジャンプ読んでる先輩なんてすぐ想像できる。

「Yes」

「発音良いですね~」

はっ!どうでも良い方向に話がずれていく…。

「Oh.Thank you」

「調子乗ってるとこ悪いですが、まずは…谷川の弱みを握ります」

「ダレーガ?」

「あなたが」

「オレこそこそ動くの向いてナーイ」

「ですよねー。チッ…このギャルが」

「?」

東先輩が口笛で疑問符を浮かべる。どうやら微かに聞こえていたみたいだ。

「別に何でもありません。あとは…えと、涙からの宿題、私の分も東先輩がやっといてください」

「え?」

「なにか文句でも?」

「…いーえ」

まずは弱みから。一度も使っていない、ていうかこれからも使わないつもりでいた相良くんの携帯番号が役に立ちそうな展開がやって来た。…彼のドヤ顏を考えただけでも吐き気がするけれど。




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