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#2【異様に上手い先生の物真似は時には人をイラつかせたりする】


あの日から一か月近くも私は意味もなく、図書室に通っている。衣替えはとうに終わり、みんな涼しげなかっこうで登校してくる。この学校は制服のアレンジは基本自由なので個性が目立つ。私はあまり改造とかしてないけど。私の友達はみんなスカートを短くしたり、色々と楽しそうだった。昼休みは「友達」と呼べるのかどうかも危ういその人達と、はなしているかぼーっとしてるか。ここへ来るのは暇つぶしのようなものだ。

トントン、と「閉館中」と書かれたプレートをノックする。それから一言。

「クーデター」

…恥ずい。

「はいは~い。ようこそ!しいセンパイ!」

ハイテンションで扉を開けた男の子に、私はため息をついた。

「相良くん…」

「はいっ!何すかっ?」

「…うざい」

「…え?」

相良くんの瞳からキラキラ成分が失われる。全くもって、分かり易すぎる子だ。まぁコミュニケーション能力とかは高そうだけど。

「ぷっ。しぃ、それくらいにしといてあげなよ…ぷぷっ。あーおかしっ」

お腹を抱えてひーひー唸っているのは涙。例のヘリウム少女だ。ただ、教室とかでは嘘のように静か。後ろでゆらゆらさせているポニーテールも、図書室をでるとふわりと降ろされて、雰囲気が変わる。いつも一人でいるし、スクールカーストだと下の下。だから私もガスマスクとるまで気付かなかったんだけどね。今クラス違うし。

「私がいじめてるみたいじゃん。それ」

適当な椅子を引いて腰かける。ここに来てからなんだか読書にはまってしまった。母も大いに心配している。「漫画しかよまなかったあの子が…‼」みたいな?

「えー?似たようなもんじゃんっ?」

「似たようなもんっすよ!」

ぷんすかという謎の効果音を発しながらいつの間にか相良君が復活。別にずっと眠っていてくれても良いのに。

「はいはい。今日は二人だけ?」

珍しく人が少ない。あの日の8人が全員ここに集まることの方が多いので、なんだか不思議な違和感を感じてしまう。

「うーんとね。東先輩は今日は屋上でお昼寝で、兎野ちゃんは委員会。司書くんは今日は風邪だってー。あと貝塚くんも風邪」

「あー。はやってるよねぇ。風邪」

「夏風邪っすかね」

「じゃない?それから由依はいつもどーり」

「由依?」

「ありゃ?しぃセンパイはしらないんでしたっけ?9人目っすよ」

「誰それ」

でもなんか…その名前は聞いたことある気がする。するんだけどなんか思い出せない。答えを求めて涙をみるけど、明らかに「説明?え、やだ。めんどくさーい」って顏。

「…。まぁいいや。ほら、柳くんが帰って来たみたいだよ」

ちょうど扉がノックされ、「クーデター」とつぶやく声。苦労がにじみ出ている。…ほんっと、同情するよ。

「しぃ、あけたげて」

全く…。人使いが荒い。新品のタワシのように荒い。いや、タワシより荒いかも。

「お疲れ。何してきたの?柳くん」

「はぁ…はぁ…。…コレ」

お疲れな様子の柳くんが抱えていたものは…。

「わんっ」

…。犬だった。犬種のことは良くわからないけれど、これは多分ブルドックとか言うやつだ。しかも、「かわいい」とはいいがたい。めっちゃガンたれてるし…。この子。まぁ私がネコ派だからそう思うってところもあるんだろうけど。相良くんは、「ハロー。ブルちゃん」とかいいながら頭を撫でている。…ん?ありゃ、もしかしてメスか…?

「おー。おつかれっ。柳」

「お疲れじゃねーよ。全く…」

柳くんはなんだか、涙に対してだけ言葉遣いが悪い。クラスとかだと、さわやか~って感じなのに。まぁ、その気持ちもわかるよ…。それはそうと。

「なぜに犬?」

犬を連れて来て良い校則なんて、この学校にはないはずだよね。

「逃げたからっすよ」

いつも以上に相良くんの笑顔が目障りだ。「はっ。わかんないんすか?あほじゃね?」って嘲笑われながら言われている気分になる。

「…そんなん分かるに決まってるじゃん」

「え…だって…しぃセンパイが…。てゆーかしぃセンパイ…怖いっす」

しゅーんと小さくなっていく彼をみていると、なんだかストレスが少し薄らいだ。…気がする。うん。良いストレス発散法かも。

「はーい。じゃあ相良コウハイ?びくびくしてないで伝言お願いね?みんなに、明後日の放課後、ここへ集まるように!強制ってやつだから、わすれないでネ」

「…ういっす」

それから涙は、付け足すよう言った。

「しぃ、虐めは、ダメ、ゼッタイ。だよ」

「…監禁した奴が何言ってる…」

「わんっ?」

私も、柳くんの言うことがもっともだと思うよ。で、ブルちゃん。キミはどうしてさっきから、私のことを親の仇のように睨んでいるのかな?てゆーか今のタイミングの「わんっ」もさ、柳くんに反論してたよね。

「…で?ちなみにさっきの全員集合は私も参加…?」

そういえば、と思ってわずかな望みを託し、手を挙げてみる。

「ん?」

いや…無駄だったけどね?分かってたけどね?柳くんがブルちゃんを片手で持ち直したと思ったら、空いたほうの手で私の肩を叩き、「あきらめた方が良いよ」って目で告げる。…もう良いよ。別に期待なんてしてないし…。部活とか委員会も入ってないし、真に残念ながら、予定もすっからかんだ。

「どしたー。渡辺、つかれてんのか?」

「涙…。黙ろうか」

うちのクラスの担任の真似だろうけど、今披露されてもイラつくだけだ。…でも。すっごい似てる。調子に乗るから黙っておくけど。

「えぇー」

頬を膨らませ唸る涙。こういうところなんかは普通の女の子なのに。あんな突拍子の無いことをやらかす子には全然見えない。

「ふふっ」

「しーぃー?」

それが、やらかしちゃうんだよなー。…でもさ。私もあの日から、なんだかここに来るのにはまっちゃったんだよ。漫画やアニメ、ドラマ。それから小説。つまり非日常に入り込んだ気分っていうか…。上手く言えないけど。まだあの日に涙が宣言したことなんて、一つも実行してないから、ここは確かに日常なんだ。それは分かってる。でもなんだか満足。てかうん。クーデターなんてしなくてもいいよね。平和第一!のぞき込んでくる涙の額に、小さくデコピンしてみる。

「ふふ。ちょーっとね。それより、そのブルちゃんどうするの?」

「うーんと。あ、やな…」

「僕は知りません」

「柳くん…」

「柳、もって帰ってね」

さすが涙様。完全な独裁国家だ。相良くんでさえ、柳くんを哀れに感じていると思うよ。その微妙な空気を、涙はどう取り違えたのか、誰も質問なんかしていないことを、勝手に(しかも大変得意げに)語り始める。

「いやぁーねっ?まぁ作戦…つまりさ?ボクらの初のクーデターに必要な子なわけよ?」

涙は意地悪に微笑んだ。…え?平和第一主義は?窓から入って来た風が、涙のポニーテイルをさらりとなびかせる。白い肌が、まだ夏になりきれていない暖かな光に照らされて、空気にかき消されそうになる。ちょうど光が雲に隠れ、辺りがうす暗くなったところで、涙は口を開いた。

「First coup…Countdown start」



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