#1【始まりの原因は私の流されやすい性格にあったりする】
「キミ達は今日から、反逆者だ」
…は?いやいやいや。急に呼び出され、何を言われるのかと思いきや…、まさかここまで厨二ちっくなことを告げられるとは。
隣にいた誰かに声をかけてみる。
「おかしいですよね…?てかこれって監禁じゃありません?どう抜け出しますか…?」
そう、監禁。つまり、監禁。すなわち、監禁。
私は今、現在進行形で簡単に言うと監禁…らしきことをされているのだ。
始まりは昨日の放課後。
―――ん?
下駄箱から靴を取り出そうとすると、一枚のメッセージカードが入っていた。
百均でまとめ売りしてそうな小さなやつで、シンプルな白に一輪の花の絵柄。
よんでみたところ、そいつは見事に怪しげな呼び出し状だった。
「明日の昼休み図書室に来い。このことは誰にも言うな」みたいなことが素晴らしく簡潔に書かれていたわけでして。
気になるのは図書室。
うちの学校の図書室と言えば、なぜか人通りの少ない校舎の奥にひっそりとあって、一人の若い司書さんが静かに切り盛りしてるとか。
しかも休館中のプレートがかかっている日がほとんどで、謎に包まれている。
そんな学校の七不思議にも認定されそうな図書室なんか指定されたら、いくら何でも気になってしまう。
重い足取り(まぁ半分はわくわくしていたと言っても過言ではないのだけれど)で向かった図書室は、珍しく扉が開いていた。
だけどやっぱりイメージ通りの薄暗さで…。
というか暗過ぎた。
恐る恐る足を踏み入れてみるも、やはりおかしい。
昼間なのにカーテンは閉め切っているし、暗すぎて中が良く見えない。
そもそも窓から光が差していない。きっとここが校舎の奥であることが原因だろう。
ガチャリ。
しかも、不思議なことに扉はいつの間にか閉められており、たった今、鍵まで掛けられた。
…監禁ですよね?コレ。
ぼーっとしていたところ知らない誰かさんに何かを手渡される。
どうやらガスマスクのようだ。
こんな平和な日本の学校でなぜガスマスク?テロリスト?いやいや、それなら私にはガスマスク渡さないよな。
色々と思うことはあったが、部屋の空気から察するに、何人か人はいそうだし、殺伐とした空気も感じられない。
ということは、せいぜいちょっとした悪戯ってとこかな。
つんつん、と肩をつつかれる。
暗闇なので誰かは分からない。
ガスマスクを渡してくれた人物だろうか。つんつんつん。…かなりしつこい。
ガスマスクをつけろってこと?
暗闇の中、悪戦苦闘しながらやっとガスマスクをつけ終わる。
つんつんさんらしき人に小さくため息をつかれた。
こんなの付けたことないんだよ。
多分だけどななめ後ろらへんにいるであろうそいつを睨みつけていたら、急に光がさした。
「…っ」
まぶっ。とにかく眩しい。ほんと、勘弁してほしい。カウントダウンぐらいしてくれたって良いものを。
ガスマスクの中で、一生懸命目をぱちぱちさせる。
そんな時、声がしたのだった―――――。
こうして話は冒頭へ戻る。
隣にいた誰か。つまり、そう、その人もガスマスクを着けていたわけなんだけど、その人が言った。
制服と上履きから察するに、先輩で男子生徒。
「そーぉ?面白そーじゃない?」
ギャルみたいなしゃべりかただった。
ちなみに話は通じそうにない。口笛とか吹いちゃってるし。
きっと変人さんだ。
仕方なく辺りを見回す。こ
の図書室に居るのは、私を入れないで7人。私から死角になっているところは分からないけど、7人で正解だと思う。勘だ。
6人が制服でガスマスク。7人目はガスマスクだが、私服にエプロンをかけている。体型は若い男の人っぽいから、噂の司書さんだろうか。生徒たちは制服から見るに、女子が二人で男子が四人。
「おー。キミ分かってるねー?」
また声がした。
みんなの視線が一斉に受付机に集まる。どうやら先ほど厨二ちっくな事を言い放ってくれたのは、受付机に座り、幼い子供のように足をぶらぶらさせている女の子みたい。
ヘリウムガスを吸っているのか声がおかしい。上履きの色からすると私と同じ学年だけど…。こんなことしそうな危ない人はいないと思う。それにガスマスクしてるのにヘリウムガスを吸っているとか…あまりに馬鹿げてるよ…。
「つまらない。不公平。暇。誰か、馬鹿げたことしてくれないかなぁ。ボクの日常を変えてくれないかなぁ。例えば…学校を爆破したり。生徒が先生を殴り飛ばしたり。そんなコト、考えたこと…あるよね?」
ヘリウム少女は楽しそうに言った。
「別に大きなことじゃなくても。全員が学校を休むとか。一つの教室を占領するとか」
「おもしろそうだねぇ」
私の隣のダレかさんがまた口笛を吹く。
「だろう?ボクらはそれを実行しようと思う。学校という最高につまらない舞台の反逆者として。仲間は多い方が面白い。キミ達は選抜メンバー。選びに選び抜かれた勇者達」
意味不明。
「なんて言うのは大げさだけど、まあ的外れなコトは言ってないよ?僕らでクーデターを起こすんだ。ただ一つ…バレないように。」
彼女は人差し指をたてて囁いた。きっとガスマスクの裏ではひっそりと微笑んでいるのだろう。
「完全犯罪」
「…のった…です」
「僕も…一応」
「オレはもちのろん」
「オーレもぉ」
「…はぁ。どうせ僕は巻き込まれるんでしょう?」
「しょうがないかな」
四方から声がする。
「キミは…?」
…。コレ完璧に私に聞いてるよね…?しかも断れない雰囲気だよね?てゆーか、話自体飲み込めてないんですけど?
「え、あ。はい」
渡辺 椎。十四歳。周りの空気にとても流されやすいやつでございました、とさ。
はぁ…何かとんでもない事に巻き込まれそうな予感。