第98話
サン・リリエール祭で剣舞を舞うことになった私とジュリアは、早速お父さんのお手本を見せてもらうことになった。
何故か監督生の先輩方も一緒だけど、そこは気にしない。というかすぐに気にする余裕がなくなった。
隼人先生の笛の音に合わせてお父さんが舞う。
空を裂く白銀の美しさに、力強さに、当然のように神々しさを纏うお父さんの姿に目が離せなかった。
「なんというか、これは……神事だな」
神に捧げられるべきものだ。
感嘆の息を漏らした王子殿下が呟く。
「僕が教えられたものはその意味合いが強いものばかりだからね」
その言葉にお父さんがなんでもないように答える。
「「出来る気がしません」」
さっそく白旗を上げた私とジュリアに隼人先生が呆れたように笑う。
「コレをやれと言われて出来る人間なんてそういない。
稽古を積んでいるだろう藤原の跡取りでもおそらく無理だろうよ」
「龍成もそれなりに出来るだろうけどね」
「それなり、ね。この無自覚チート野郎。
参考までに見てもらったが、お前らがするのは剣舞っつーか演舞に近いかな」
それでも不安が消えない私とジュリアにお父さんが珍しく安心させるように笑った。
「大丈夫だよ。
隼人に模擬戦の映像見せてもらったけど二人ともよく動けていた。
あれだけ動けたらこんなのすぐできるようになる」
だから心配しなくてもいい。そう言ってぽんぽんと私とジュリアの頭を撫でるお父さんにふにゃりと笑う。
お父さんにそう言われたら出来る気がする。そう思ったのは私だけじゃなかったようでジュリアも頑張りますと前向きに呟いていた。
そんなほのぼのした空気を壊したのはやっぱりというか隼人先生で。
隼人先生は恐ろしいものを見たとでも言わんばかりの顔でフォンセとグレンにあれは誰だと聞いている。
ガクガクとグレンを揺さぶる恐慌状態の先生にお父さんが心底面倒くさそうに溜息を吐いた。
「隼人、煩いよ。死にたいの?」
ビクリと肩を揺らした先生はギギギとお父さんの方を振り向く。そしてそのまま沈められた。
「お姫様のお父さん、なんかすごいね。色々と」
「君にお父さんって呼ばれる筋合いはないよ」
「ぶはっ!!おまっ、それはないわー。敏感すぎるだろ。どんだけだ……ぎゃああああ」
珍しく笑みを引きつらせて小声で囁いたエル先輩の言葉を拾い上げたお父さんがギロリと先輩を睨む。
それを見た隼人先生は爆笑してまたお父さんに締め上げられている。
「歩く災害とまで呼ばれている男が子煩悩……」
王子殿下が遠い目をしているが知らない。
「おい、フォンセ、グレンツェン。いいのか?
黒龍殿のイメージがガラガラ崩れていくぞ」
「……あー。どうなんだろう?」
「管轄外だ」
冷静なレオ先輩はグレンとフォンセに声をかけている。
私とジュリアはカオスと化したこの空間に遠い目をしながら事態が収拾するのを待つことしかできなかった。