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夜闇に咲く花  作者: のどか
サン・リリエール祭編
96/129

第95話

 ジュリアをお家まで送り届けて私は玄関で帰ってくるグレンを待ってます。

仁王立ちで。

 メイドのお姉さんたちがギョッとしたり執事のおじいさんが微苦笑したり、夜の闇のオジサマたちにフォンセが何かやらかしたのか? とからかわれたりしますがニッコリ笑顔で黙らせてます。


「何やってるの?」


 ついに呆れた顔のお父さんが召喚された模様です。


「ちょっとグレンに躾をしようと思って」


 今、私は怒ってるんです!

 引きつった顔して撤退するお父さんの判断は正しいと思うよ。

 撤退先でアルセさんとおじさまとコソコソしていても今は無視です。


「あー瑠璃? うちの愚息が何かやらかしちゃった?」

「盛大にやらかしてくれました! ジュリアに!!」


 引きつった笑みを浮かべるアルセさんににーーーっこり笑って答える。

 あ、これダメなやつだって分かってなかったんですか?

 何度も言いますが、私、怒ってます!!

 分かったら引っ込んでてください。

 ふんとアルセさんから玄関の扉に視線を戻した瞬間、扉が開いてフォンセとしおれたグレンが入ってきた。

 私の顔をみた瞬間、フォンセはすべてを察したような顔をしてサッとグレンを私に差し出す。


「る、瑠璃?」

「その無駄に性能の良い頭でよーーーーーーーく考えて?」


 考えるのは得意でしょう?

 にっこりと笑うとグレンの顔色はみるみる悪くなる。


「じゅ、ジュリアは? 怒ってた……?」


 縋る様な視線に盛大に溜息を吐く。


「怒ってるというか、意味が分からないよね?」

「う」

「加えてグレンの場合は色々と問題アリで信用もないよね。

 ジュリアとお姉様から色々聞きました」

「え! 聞いたってなにを!? 何を聞いちゃったの!?」

「華やかな交友関係とか武勇伝とか?」

「ちが! 無実だ!!

 デートはしたけど一線は超えてない!! 俺は清らかだ!!」


 意味わからない弁解をするグレンに凍える視線向ける。

 私の視線に絶望した顔で項垂れたグレンに零れそうになるため息を噛み殺してにこりと笑う。


「私に言っても仕方ないよね? ソレ。

 そんなことよりも私の大事な親友を追い詰めた落とし前はどう付けてくれるの?」


 容赦はしません。

 中途半端な解答も認めません。


「おい、チビのヤツ今なんつった? 落とし前っつったのか?」

「瑠璃が。可愛い可愛い瑠璃が……」


 おじ様たちの引きつった顔も駄々洩れすぎる心の声も無視です。

 お父さん、自分に火の粉が飛んでこないと分かった瞬間楽しそうな顔するのやめて。

 というかエアルさんと静奈さんまでいつの間に!?


「あらあら珍しいですねぇ」

「一体何をやらかしたのかしら。うちの愚息は」


 見世物じゃないですよ!!?

 私たちを肴にお茶会でも始めそうな保護者をシャットアウトして煮え切らないグレンを更に睨みつける。


「おい、まさか自覚がないとか言わないよな……?」


 今まで静観していたフォンセの言葉にグレンはきょとんとした顔をした。

 その表情にフォンセの顔が引きつる。きっと私も同じ顔をしている。

 助けを求めるようにフォンセを見るとゆるゆると首を振られた。

 え? 嘘でしょ? どうするのこれ……?


「えぇと、グレン。自分のしたことは理解してるよね?」

「ジュリアにパートナーを申し込んだ」

「瑠璃とジュリア嬢が先に帰った理由は?」

「申し込み方がまずかったから……?」


 なんで疑問形!?

 というか本当に自覚なし!?


「……ちょっとこっち来い」


 私の縋る様な視線にフォンセは心底面倒くさそうな顔をしてグレンの首根っこを引っ掴んでズルズルと引きずっていった。

 その背を見送って盛大に溜息を吐いて座り込む。

 あれだけしといて自覚がなかったとは……。

 でも確かに自覚があったらもっとスマートに進めそうだけど。

 そしてジュリアに逃げ道はきっと残されない。

 外堀完璧に埋めてジュリアが頷く以外の選択肢を用意しなさそう。

 ……あれ? 私もしかして余計なことした?

 ジュリアごめん。逃げて! 超逃げて!!


「瑠璃?」

「どうしよう。お父さん。

 かろうじてあったジュリアの逃げ道を塞いじゃったかもしれない……」

「……ああ。それはなんというか……うん。諦めてもらうしかないね」


 どこか遠い目をしたお父さんに私は分かりやすく絶望した。

 そんな私たちをアルセさんは不思議そうな顔で見つめている。

 でも元を辿ればアルセさんの血ですからね。

 ほら、さっきの会話で色々察しちゃった静奈さんも遠い目しちゃってるもの。

 エアルさんは微苦笑だし。おじ様は呆れ顔だ。


「瑠璃ちゃん、大丈夫ですよ」

「エアルさん……」

「グレンくんだってジュリアちゃんの心を無視したりしませんよ。ね? 静奈さん」

「ええ、そうね。アプローチ方法がアルセに似てないことを祈るわ……」

「どういう意味だよ!?」

「私を半ば強引にこの国連れてきたのはどこの誰?

 あんなに渋ってたおじい様まで気づいたら笑顔で手を振ってるってどういうことよ!?」

「あー、俺はただちょっとオハナシしただけだぜ?」

「…………」

「静奈さん、アルセさん、瑠璃ちゃんの顔色を見てください」

「「あ」」


 強引に連れてきたって何!?

 反対してたはずの静奈さんのおじい様が笑顔で静奈さんを送り出したって!?

 その過程に何があったんですか!?

 オハナシしただけって嘘ですよね!?

 ジュリア逃げてーーーー!!本気で逃げてーーーーー!!!

 顔面蒼白の私を見かねたおじ様が呆れ顔で声をかける。 


「……チビ、そんなに不安ならフォンセに頼んどけ。

 お前が頼めば面倒だろうがあれは動く。そしたら滅多なことはしないだろ」


 その言葉に私は希望を見出した。

 そうだ! フォンセがいる! フォンセならきっとなんとかしてくれる!!

 キラキラした瞳でおじ様を見つめる私は気づいていなかった。

 私からさりげなく目を逸らしたおじ様がフォンセとグレンが結託して暴走を始めない限りと小さく呟いていたことに。

 それをしっかり拾い上げていた大人たちが遠い目をして小さく頷いていたことに。

 フォンセという最終兵器に希望を膨らませていた私は全くもって気づかなかった。



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