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夜闇に咲く花  作者: のどか
サン・リリエール祭編
92/129

第91話

 結局、ジュリアと合流できないままに鬼ごっこ修了のチャイムの音が響く。


「よく頑張ったな」


 ひょっこりと顔を出したフォンセにパチリと目を瞬く。


「ジュリア嬢も無事らしいぞ。途中からグレンと合流したらしい」

「よかった! じゃない! 一体いつから!?」

「……昼寝してたら急に騒がしくなったからな」

「うるさくしてごめんなさい。ってまたサボってたの!?」

「捕まらなけりゃいんだろ? 邪魔する奴は倒せばいいしな」


 ソウデスネ。とは言えなかった。

 だってこんなこと言えるのはフォンセぐらいだもの。

 グレンだってジュリアと合流してるってことはそれなりに場所を変えて逃げてたんでしょう?

 というか途中から襲撃の数が明らかに減ったのはフォンセのおかげですか。そうですか。


「戻るぞ」


 当たり前のように差し出された大きな手に攫われる。

 私の歩幅に合わせてフォンセはいつもゆっくり歩いてくれる。

 なんだか久しぶりだ。

 教室までの送り迎えは別として、王女殿下のことがあってこんな風に学校で並んで歩くことはほとんどない。

 それまでは廊下であったら頭を撫でてくれたり、お昼を一緒に食べたりしてたのに。

 王女殿下が来られるまでの日常がなんだか恋しくて俯く。


「瑠璃?」

「なんでもない!」


 不思議そうなフォンセの声に慌てて顔を上げて笑顔を作った。


「……何かあるならちゃんと言えよ」

「ありがとう」


 フォンセは一瞬なにか言いたげな顔をしたけれど、すぐに諦めたように囁いた。

 ぽんぽんと頭を撫でてくれる大きな手にまた小さく笑って、二人並んでゆっくりと歩く。


「瑠璃!」

「ジュリア!!」


 集合場所に着く前にグレンと並んで歩いていたジュリアが私を見つけて駆け寄ってくる。

 フォンセから聞いてはいたけれど、それでも安心してぎゅうっとジュリアに抱き着く。


「よかった! 今回は迷子にならなかった?」


 くすりと笑うジュリアにむっと唇を尖らせる。

 それにまたクスクス笑いながらジュリアは私の手を引いて歩き出した。

 後ろからゆったりとした足取りでフォンセたちがついてくるのを感じる。


「今回も授業免除ゲットね!」

「でも歴史だけは真面目に受けようと思います」

「同じく、数学だけはちゃんと受けるわ」


 フォンセとグレンのスパルタ授業を思い出して遠い目をしてしまった私たちは悪くない。

 流石に毎回毎回エル先輩とレオ先輩に頼るわけにもいかないし。

 きっと先輩方は仕方ないなぁなんて言って勉強を見てくださるだろうけど、今は王女殿下もいらっしゃることだしフォンセたちにも先輩方にも関わらないようにしないと面倒なことになるのは間違いない。

 集合場所である体育館に着くと、戻っている生徒たちはまだそれほど多くはなかった。

 フォンセたちと別れて自分のクラスの列に並んで待つ。

 ただの鬼ごっこのはずなのに、戻ってくる人が皆ボロッとしてるのはなんで!?

 確かに襲撃アリだけど! 先生に捕まったら鬼になるけど! でも先生まで包帯巻いてたり、服が破けてたりするのはなんで!?


「流石グレンツェン様。教師まで惑わせるなんて」

「というかあの罠の数はいじめだろ」

「フォンセ様も珍しくご参加なさってたって聞いたわよ」

「いつもはお姿を見せられないのに、はーくんに対してだけは嬉々として対応されていたとか……」

「でも後半はお二人のお噂は聞かなかったな」

「飽きられたんだろ?」


 戻ってきたボロッとしたクラスメイトたちの話に答えが分かった気がします。


「「……世の中知らなくてもいいこともある」」


 しみじみと呟いた私とジュリアはクラスメイトたちの話を聞かなかったことにした。

 だって、罠ってなに!? 隼人先生と嬉々として対戦してたってなに!?

 というか、途中から二人の噂を聞かなくなったのって単に飽きただけですよね!?

 そしてサボってたところに危なっかしい私たちの姿を発見してこっそりサポートしてくれてたんですよね!?

 なんかもう、いろいろ泣きたい。

 また助けられたのが悔しいやら、その余裕がムカつくやら、でも気に掛けてもらえるのが嬉しいやらで本当にもういろいろ泣きたい。


「瑠璃、私もっと頑張るわ」

「私も」


 授業免除者の中に自分たちの名前が読み上げられるのを聞きながら私とジュリアはもっと頑張ろうと心に決めた。



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