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夜闇に咲く花  作者: のどか
サン・リリエール祭編
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第90話


 エル先輩のせいで瑠璃と別れてから、たどり着いた薔薇園で一息つく。

 甘い薔薇の香りに気が緩んだのか、近くまで誰かが近づいていることに気付かなかった。

 ヤバイ。捕まる。

 そう思った瞬間、私を捕まえようとした教師が地に倒れた。

 え? ちょっと待って。この人、生徒じゃなくて、先生よね?

 見たことあるもの。というか一年の時、少しの間だけど実技この先生に習った気がするわ。


「ジュリア!!」

「グレン様、」

「よかった。間に合って」


 心底安心したように笑うグレン様に思わず笑みが引きつる。

 デスヨネー。

 先生を一瞬で倒せるのなんてフォンセ様かグレン様くらいしかいませんよねー。

 エル先輩とレオ先輩も強いけど、フォンセ様とグレン様は別格だ。

 それは先輩方の進路にも大きく関わっているのかもしれない。

 表舞台でお飾りになりつつある騎士団を目指しておられるエル先輩とレオ先輩と違ってフォンセ様とグレン様はもう既に裏の世界で夜の闇の任務についてらっしゃると聞く。


「ジュリア?」

「ありがとうございます」


 ぼんやりと何かを考え込んでいた様子のジュリアを呼び戻すように名前を呼ぶ。

 すると現実に戻ってきたらしい彼女が安心したように息を吐き、ふわりと笑った。

 心臓が妙な音を立てる。

 それを振り払うようにいつも通り自分に接してくれるジュリアにグレンは自分の思い過ごしかと思ってホッと息を吐き、力を抜いた。


「どうかなさったんですか?」


 どこか心配そうにそう尋ねてくるジュリアは自分を気遣ってくれている。

 避けられているわけじゃない。

 そう思うと何故かひどく安心した。


「いや、その、最近会ってなかったから……元気か?」

「はい。おかげ様で元気ですわ」


変なグレン様と小さく笑うジュリアに口元が緩む。


「そっか、ならいいんだ」


 自然と零れた笑みにジュリアの目が僅かに見開かれた。

 けれどそれは一瞬の出来事で、安心に浸っているグレンは気づかない。


「避けられていると思ったから」

「ええ、避けてましたもの」

「あはは、そうだよな。そんなわけな……え!?」


 ぎょっとした顔で自分を見下ろしてくるグレンにジュリアは、今日はすごく表情豊かだななんて馬鹿なことを考えながら素直すぎる自分の口を少し呪った。

 いつもなら、そんなことないですよと笑ってごまかすのに。どうして。

 ため息を吐きたい気分になりながらも、え、なんで? 俺、何かした? と本当に珍しく混乱しているらしいグレンに首を傾げた。

 別にジュリアに避けられたからといってグレンになんの害もないはずだ。

 だってジュリアはただの“瑠璃のお友達”なんだから。


「……私、グレン様の笑顔が苦手なんです」

「え!?」

「なんか嘘くさくて。

 瑠璃といる時は自然と笑っていらっしゃるからいいんですが……最近は作り笑いばかりでしょう?」


 だから避けてたんです。

 ピシリと音を立てて固まったグレンにジュリアはきっぱりとそう言った。

 実際、今日の作戦を立てるためだと言って徹底的に避けていた。

 彼の近くに王女殿下がいらっしゃるときはもちろん、瑠璃以外の女子生徒がいるときも念入りに。

 しばらく呆然と固まっていたグレンだったが、ジュリアの言葉の意味を少しずつ頭が理解していくにつれてどんどん表情が暗くなる。


「ごめん……」

「グレン様が謝られることはないです。

 どうしてあんな嘘くさい笑顔を浮かべてらっしゃるかもわかっているつもりですから」


 しょぼんと落ち込んでしまったグレンにジュリアは慌てて首を振る。

 グレンが悪いわけじゃない。いうなればこれは自分のただのわがままなのだ。

 ジュリアはそれをよく理解していた。どうしてそう思うのかは気づきたくないので見ないようにしているけれど、気づいてしまう日もこの分だとそう遠くないだろう。

 だって自分の前でこうして彼が無防備にコロコロと表情を変えることが嬉しくてたまらない。彼の表情はいうなれば仮面。それが無防備に崩れるということはまるで自分に心を許してくれているようで……。


「ジュリア……」

「ちょっとだけ、寂しくなるんです。

 私の知ってるグレン様の笑顔はとってもあたたかくて素敵だから。

 だから謝らないでください。私のわがまま」


 なんですから…と続くはずだった言葉は紡がれる前に空気に溶けて消えた。

 ぐいっとひっぱられてそのままたくましい胸に抱きとめられる。


「ぐ、グレン様!?」

「ごめん、ちょっとだけこうさせて」

「……お疲れ様です」

「うん、疲れた」


 ぎゅっと甘えるように閉じ込められた腕の中でジュリアは体の力を抜いてそっと目を閉じた。



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