第88話
次の日、教室に行くとクラスメイトたちに群がられているジュリアを発見した。
フォンセも目を瞬いたが、聞こえてくるクラスメイトたちの声に小さく笑みを漏らす。
「ジュリア! グレン様とどうだった!?」
「いいんちょ、グレン様の足、一曲につき何回踏んだのー?」
「うるさーーーーい!! 今すぐ黙らないと全員卸す!!!」
「ジュリア、落ち着いて!」
「瑠璃! ということはフォンセ様も……今の見てました?」
「あぁ、ばっちり」
「……軽く死ねる」
「ドンマイいんちょ!」
ぷぷと笑いを零す男子たちをギロリと睨みつけてジュリアは開き直ったように笑みを浮かべた。
「では瑠璃をお預かりしますわ」
「あぁ、頼む」
いつも通り、保護者と保育士の会話を二人が繰り広げる間、私がクラスメイトたちの餌食になった。
どうやら男子たちはジュリアが何度グレンの足を踏んだかで賭けをしているらしい。
エアルさんと静奈さんの教育の成果かジュリアは一度もグレンの足を踏んでないしアルセさんがリードしてた時はすごく楽しそうに踊っていた。
そう告げるといろんなところから悲鳴が上がる。
「嘘だろ!! あのジュリアが!!!」
「アルセ様にリードしていただけるなんて羨ましいっ!!!」
「おい、ということは全員ハズレじゃねぇか!!」
「ウフフ、アンタたち死ぬ覚悟できてるのよね?」
いつの間にか私の受け渡し作業を終えたらしい、ジュリアが般若を背負って剣を抜く。
阿鼻叫喚の地獄絵図とした教室に入ってきた隼人先生はヒクリと頬を引きつらせ、教室のドアを静かに閉めた。
もちろん、私がすぐ開けて現実逃避する先生を現実に呼び戻してあげる。
「せんせ、HRはじめてください」
「お前、この状況でHR始めろとか鬼か!
つかあいつら何したんだ?」
「ジュリアがグレンの足を何度踏むか賭けてたみたいです」
「は?」
訳分かんねぇという顔をする先生に昨日のことを説明してあげる。
すると先生はすっごく悔しそうな顔をした。
「テメェら!! そんな面白そうな賭けなんで俺を呼ばねぇんだ!!!
俺だったら一曲につき十回は踏むに賭けるね!」
ドヤ顔でそう叫んだ先生の顔すれすれにジュリアの剣が通り過ぎる。
顔を真っ青にした先生にジュリアがニッコリと微笑んだ。
口は禍の元だよ。先生。合掌。
「あー、サン・リリエール祭のことではしゃぐのはいいが、お前らにはその前にもう一つイベントがあるぞー」
ジュリアにしっかり怒られた隼人先生の言葉にクラス中に?が飛ぶ。
それに先生は大きなため息を吐いた。
「お前ら、授業免除、いらねーの?」
ニヤリと笑った隼人先生にクラス全員が目を見開いて湧き上がった。
「どうどうどう!落ち着け。
瑠璃以外は知ってると思うが、サン・リリエール祭の関係で開催は1週間後だ。
今回は特別に内容も教えてやる。“鬼ごっこ”だ。」
「鬼ごっこ……?」
「俺たち特殊科の教師が全力でお前らを捕まえに行く。
捕まった奴らはその時点で終了。捕まえる側に回ってもらう。
最後まで逃げ切れたやつ全員に授業免除が与えられる」
「「「「「ヒャッホーーーーー!!!」」」」」
「お前らが思ってるほど甘くねぇと思うが頑張れよー」
俺も今回は本気で狩りに行くしと獰猛に笑った先生の顔をみたクラスメイトは何人いるのか。
ばっちりその顔を見てしまった私とジュリアは顔を見合わせて先生に負けないくらいの笑みを浮かべて見せた。
それに気づいた先生は目を瞬いたあと更に口の端を釣り上げて笑った。
まるで上等だとでも言うように。