第85話
私のAクラス一位が決まったと同時に次は一般生徒のギャラリーを迎え入れてSクラスの一位決定戦が行われる。
一位を争うのはやっぱりというかフォンセとグレンで、三位決定戦で既に3位が決まっているエル先輩はぶーぶー文句を言っている。曰く、毎回一から四位までが同じ顔触れで面白くないらしい。エル先輩に負けたレオ先輩は心底不本意そうだ。どうして毎回アレに勝てないのかと自分の不甲斐なさに死にたくなる勢いで悔しいらしい。確かにレオ先輩よりエル先輩のほうが強いのはちょっと意外だったりする。レオちゃんはマジメすぎるんだよねーというのがエル先輩の談だ。話を戻すと、一位決定戦どころかSクラスの試合はほぼ一般生徒が見学できる時間帯に行われるのだが、フォンセとグレンの出る試合には必ずと言っていいほどに王女殿下がいらしている。それも最前列の特等席で。
私とジュリアは王女殿下から極力距離をとるべく、彼女と反対側の2階席の最後列から見学することにした。
王女殿下さえいなければ私たちも前の方のいい席でいろいろ勉強できるのに! そう思うものの絡まれたときの面倒さを考えると仕方ないとも思う。
「瑠璃、そんな恨めしそうに王女殿下を見てたら気づかれるわよー?」
「うー、だって!!」
「まぁ、どうして私たちが彼女に遠慮しなきゃならないの? とは思うけどね」
「でしょ! でも絡まれたときのことを考えると」
「しょうがないとも思っちゃうわよねー」
「うん……」
「ここからでも見学できるし、頑張って技を盗みましょう!!」
「うん!!」
「応援じゃねぇのかよ!!」
しっかりと頷いた瞬間鋭いツッコミが決まる。
ジュリアと声の方を振り返るとガクッとずっこけている隼人先生がいた。
「当り前じゃないですか!」
「私たちが応援しなくてもフォンセにもグレンにもいーーーっぱい応援してくれる人がいますから!」
「俺、はじめてあいつらを哀れに思ったわ。
まぁ、これはこれで面白くていいけどな」
「「?」」
「わからないならそれでいい。
二人ともさっきはよく頑張ったな」
めずらしく先生の顔でわしゃわしゃと私たちの頭をなでる。
えへへと素直に笑う私とちょっと嫌そうにしながらも素直に撫でられるジュリアの反応を見比べて先生は小さく笑うとよっこらしょと私たちの隣に腰を下ろした。
「まぁ流石というか、思っていたよりもずっと上手く動いてるみてぇだし、心配はないだろうが、何かあれば遠慮なく言って来いよ」
真っすぐにフォンセたちを見たまま呟く先生にコテンと首をかしげる私と心底驚いた顔で先生を凝視するジュリアに苦笑いが返ってくる。
「心配ないです。瑠璃は私が守りますから」
ツンとそっぽ向きながらぶっきらぼうにそう呟いたジュリアに私はパチリと目を瞬く。
隼人先生は呆れたように笑いながらなら心配ねぇなと囁いた。
「私だってジュリアを守るよ!」
話が分からないまま、守ってもらうばかりは嫌だという私の主張はジュリアに抱きつぶされることで聞き入れらたのだと思いたい。
そうこうしている間にフォンセとグレンの戦闘が始まり、3人そろって真剣にそれを見つめる。時折、先生の解説を聞いて二人の駆け引きのレベルの高さを改めて感じた。
前見たときよりも、二人ともまた一段と動きや技のキレが増している気がして、すごいと思うのと同時に焦りも感じた。
追いつくことができるのだろうか。あの背中に。追い越すことができるのだろうかと。
戦うからには負けたくない。
そう思っているのは私だけじゃないようで、チラリと横目でみたジュリアも憧れと悔しさが入り混じったような顔をしていた。
結論を言えば今回も勝ったのはフォンセで、だけど、隼人先生に言わせると今回はたまたまフォンセが勝っただけだって。そのくらいグレンに追い詰められていたみたいで、フォンセは上がりきった息を整えながら珍しく悔しそうにグレンを見ていた。一方グレンも悔しそうな顔はしているけれど、自分でもフォンセを追い詰めていたことを感じていたのか、してやったりという表情をのぞかせている。
「フォンセもグレンもお疲れ様でしたわね!!」
二人が静かに視線を合わせている中に割いるように甲高い声が響いた。
取り巻きから差し出されたタオルを奪い取るようにして王女殿下はフォンセとグレンに近寄ろうとする。
それに気づいたフォンセとグレンは慌ててフィールドから出て王女殿下の方へと足を進める。
「殿下、危ないのでそちらにいらしてください」
「すぐにそちらに参りますので」
グレンとフォンセの王女殿下を気遣う声が響く。
二人の恭しい態度に一気に回りがざわついた。
先生もヒクリと頬を引きつらせている。
まぁ、相手はこの国の王女殿下だし。フォンセもグレンもお貴族様だし。
仕方ない、よね。うん。仕方ない………のはわかるんだけど、なんだかモヤモヤする。
うーんと眉間に皺が寄っているのを自覚しながら唸っていると隣からもうんうん唸る声が聞こえた。
「おっ、お前ら揃ってヤキモチか?」
クツクツ笑ってからかってくる先生はすかさずジュリアの剣でだまされて、私たちは二人で顔を見合わせてまた考え込む。
「……ないわね」
「うん、ないね」
二人で出した答えはもちろんノー。
私もジュリアもフォンセとグレンが、モテるのはよーーーくわかっている。なにせこの間の宝探しで先輩はもちろん同級生、後輩の女子生徒から二人の独占禁止――――!! と襲われたくらいだ。彼女たちの剣幕と数の多さと言ったら……もう思い出したくもない。
二人が私に優しくしてくれるのはお父さんの娘で、幼馴染だからだってちゃんとわかってる。本来、住む世界が違うひとだってことも。
だから恋愛対象になんてならないし、そもそも私はお父さんさえいてくれたらいい。
だからこのモヤモヤはきっとヤキモチなんかじゃなくて、王女殿下へのマイナスの感情からくるものだ。
そう思うとスッキリして、私は妙な事言わないでくださいと先生に凄んでいるジュリアを止めに行った。
先生、遅いとか文句言うなら次からは止めませんよ。