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夜闇に咲く花  作者: のどか
サン・リリエール祭編
85/129

第84話

 模擬戦最終戦。いよいよジュリアとの対戦だ。

 ギャラリーは予想以上に多い。

 クラスメイトたちはほぼ全員揃ってるし、担任である隼人先生も最前列で見ている。おまけに手の空いている先生方も何故か見にいらしている。

 何よりも試合のないフォンセとグレン、エル先輩まで見に来てる。現在対戦中のレオ先輩も試合前にすぐ終わらせて見に行くから二人とも頑張れよとエールをもらった。

 ただ、普通科はまだ授業時間なので見に来ているのは特殊化の生徒だけになる。

 それでも緊張はする。ジュリアも同じようでどこか表情が硬い。どこでこの視線の嵐を吹っ切れるかがこの試合を決めるのだろう。

 大丈夫。落ち着け。いつも通りやればいい。せっかくジュリアと戦えるのだから楽しまないと損だ。周りは気にしない。いつも通り。

 何度も自分に言い聞かせる。

 息を吸って吐いてを繰り返して精神を統一する。どんどん闘志がみなぎってくる。楽しみで唇が歪むのが分かる。大丈夫。やれる。


「はじめ!!!」


 その合図とともに刀と剣がぶつかり合う。

 重い。力比べじゃ完全に負ける。さぁ、どうしようか。

 するりと力を受け流して攻撃を仕掛ける。

 けれど綺麗に受け止められてしまった。まぁ、そうだよね。

 まだこれくらいはお互い本気じゃないし。

 あぁ、どうしよう。すごくワクワクする。刀を握っててこんなに楽しいのは久しぶりだ。

 次はどうしようか。体術を織り交ぜてみる? それとも――――……。


「はぁ!!」

「やぁ!!」


 仕掛けた技はしっかりと受け止められる。けれど、これで終わりじゃない。

 力比べに負けそうになった瞬間に力を抜いて蹴りを仕掛ける。

 目を見開いたジュリアはとっさに反応したけれど体制が崩れる。

 そこに畳みかけるように刀を振り下ろした。


「ちっ!!」


 舌打ちと共に刀を受け止めたジュリアに唇が歪む。あぁ楽しい。私、やっぱりお父さんの娘だ。

 血のつながりなんてなくったって。それが嬉しくて、強いジュリアと戦えるのが楽しくて仕方なった。

 この時間がずっと続けばいい。

 でも、絶対に負けたくない。

 どのくらい刀と剣を交えたのか……。お互いに体力は限界だった。

 次の打ち合いで最後になる。直観的にそう思った。

 ジュリアから目を逸らさずにそっと息を吐いた。それが合図だったかのようにジュリアの剣が迫りくる。体を裁いてそれを避け、こちらから仕掛ける。当然のように受け流されるのを利用して体術を織り交ぜながらさらに畳みかける。力で負ける分俊敏さと技術、戦術で勝負するしかない。最後の怒涛の攻撃を凌ぎきれずに体制を崩したジュリアの目の前に刀を突き付けて判定を待つ。

 悔しそうに歪むジュリアの顔と湧き上がる歓声に交じって遠くで判定を聞いた。


「はぁ、やっぱり強いわね」

「今回はたまたまだよ」


 くたりと力を抜いたジュリアに手を差し出して引っ張り上げる。


「ふふ、次は負けないわよ?」

「次も負けないよ!」


 ニッと笑いあう私たちにまたひとつ歓声が大きくなった気がした。

 それにふふふと笑っているとすっとタオルが差し出された。


「お疲れ」

「二人ともマジですごかった!!

 俺、まだ興奮してるもん!

 なんつーか綺麗なのにカッコイイっつーかカッコイイのに綺麗っつーか! とにかくすごかった!!」


 私とジュリアにタオルを差し出したフォンセと本人の言う通り興奮冷めやらぬ様子のグレンに苦笑いを零す。延々と感想をしゃべってそうなグレンの頭をひっぱたいたフォンセによってグレンの口が止まり、それを見計らったようにエル先輩が乱入してきた。


「でも本当にすごかったよ! お姫様たち!!

 グレンツェンじゃないけど俺も久しぶりに人の試合で興奮したもん!!」

「あぁ、なんというか瑠璃はしなやかでジュリアは力強くてどちらも素晴らしい動きだった。

 戦闘を見ていて美しいと思ったのは初めてだ。いいものを見せてもらった、ありがとう」

「「ありがとうございます!!」」


 レオ先輩に褒めてもらうとすごく嬉しくてジュリアと声をそろえてお礼を言う。

 その反応が気に入らなかったらしいグレンとエル先輩がキャンキャン吠えてるがスルーをする。私たちは疲れてるんです。


「お前からは何かないのか?フォンセ」


 そう言えばお疲れ様以外なにも言葉を貰ってない。いつもならよくやったとか、何かもう一言くらいくれるのに。不思議に思ってフォンセを見ると、フォンセはどこか複雑そうな顔でレオ先輩を睨んだ後、小さく息を吐いて、真剣な顔になった。


「瑠璃は小技に頼りすぎなところがある、ジュリア嬢は動きが大振りなところがあるな」


 私もジュリアも心当たりがあるだけにうっと言葉に詰まる。それを聞いていたグレンとエル先輩があちゃーという顔をし、レオ先輩が心底呆れた顔でフォンセを見ていたのだが自分たちのことで精一杯の私たちはそれに気づかなかった。

 しょぼーんとなる私とジュリアにフォンセはでも、と言葉を続ける。


「今回の試合は見事だったし、二人ともまだまだ強くなる。

 俺たちもぼやぼやしてられねぇな」


 最後の一言は本当に困ったように囁かれたので私とジュリアはパァアと顔を輝かせてフォンセを見た。


「二人ともよくやった。お疲れ様」

「ありがと! フォンセ」

「ありがとうございます! フォンセ様」


 キャッキャと喜ぶ私をフォンセが複雑そうに見ていたのを私は知らない。



お久しぶりです。

中々更新できなくて申し訳ありません(汗)

それでも読んでくださる読者様が大好きです!!

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