第83話
「あー王女殿下また来てるよ」
「取り巻きに場所取りさせて毎回特等席で見てるよなー」
「フォンセ様とグレン様の出てる試合には絶対いるよなー」
なんていうクラスメイトの会話に私は目を輝かせた。
王女殿下がいらしてるなんてすごい!! やっぱりフォンセとグレンはすごいんだ。
その隣でジュリアが正直に顔を歪めているのに気づかずに私は彼らの視線の先を見て固まった。
「え?」
「瑠璃どうした?」
「王女殿下って、あの人?」
「そうだぜ。流石に綺麗だけどなんつーかもうちょっと柔らかい雰囲気だったらなぁ」
別に好みの女性像なんて聞いてない。というか、ええぇえええ!?
「瑠璃??」
「ジュリア、王女様ってもっとこう気品溢れてて優しくて、誰もが憧れるような素敵な人じゃ……」
「瑠璃、物語の読みすぎよ。現実なんてこんなものよ。
というか会ったことないわよね?」
どうしてそんなに夢を砕かれたみたいな顔になるの?
呆れ顔のジュリアの私はくわっと吠えた。
「だってだって! 物語だったら絶対あの人悪役令嬢じゃない!
昨日だって……!!」
「ぷっ!!あ、悪役令嬢……!!!」
「確かに……!そっちのんがしっくりくるな!」
「というか昨日って、まさか絡まれたのって……」
笑い出すクラスメイトを気にも留めずにジュリアは信じられないという顔で私と王女殿下を見比べる。その視線にコクリと頷く。というか私、王女殿下を変な人って言っちゃった!?
「遅かったか……」
額に手を当てて天を仰いだジュリアは真剣な顔で私を見た。
「瑠璃、いいこと。これからもあの方に絡まれても相手にしてはダメよ。
というか極力近づかないようになさい。
しがない伯爵令嬢の私の力じゃ助けてあげられないわ」
「う、うん。というか自分から近づいたりなんてしないよ?」
「そうね。でもあの方もシツコイことで有名だから」
「そうなの?」
「フォンセ様とグレン様の隣はご自分のものだと思っていらっしゃる節があるから……」
うわぁという顔をした私にジュリアは学校ではフォンセ様たちとの接触も控えたほうがいいかもねと付け加えた。
私はその助言に素直に従うことを心に誓った。
だってまた絡まれたら面倒くさい。
そしてそれを理解しているのか、フォンセとグレンもこの間みたいに私めがけてブンブン手を振ったり、勝ち星を挙げるたびにご褒美は何がいい? と甘やかしに来たりはしなかった。
ただ、普通科に通っていらっしゃる王女殿下が授業に出ていらっしゃると思われるときはここぞとばかりに私の頭を撫でたり雑談したりしに近くに寄ってきた。
「俺の癒しっ!!」
ぎゅっと飛びついてきたグレンをするりと避けてフォンセの背中に隠れる。
「瑠璃!?」
「なんとなく?」
なんで!? と絶望した顔をするグレンにフォンセの背中から顔だけだして笑ってごまかす。
「あーくそ! 可愛いなもう!!」
フォンセのグレンを見る視線がものすごく冷たい。
「瑠璃もジュリア嬢も順調に勝ち進んでいるようだな」
「はい、おかげ様で快勝ですわ!」
「こんなところで負けてられないもん」
ジュリアとふたり顔を見合わせてニッと笑うとフォンセもグレンも満足そうに笑った。
「はやくSに上がって来いよ」
「待ってる」
「はい!!」
「うん!!」
ぽんぽんと頭を撫でられてへにゃりと笑う。ジュリアも素直に嬉しそうだ。
「俺たちのことも忘れちゃダメだよ~?
ねっ!レオちゃん」
どこからともなくひょっこり現れたエル先輩に目を瞬かせる。
エル先輩に肩を抱かれているフォンセとグレンは心底嫌そうな顔をして助けを求めるようにエル先輩の後ろから歩いてきたレオ先輩を見た。
「二人は最終戦で当たるのか?」
がっちりとエル先輩の首根っこを引っ掴んでエル先輩を回収しながらレオ先輩に声をかけられる。
「「はい!!」」
「楽しそうだねぇ。普通嫌がったりしない??」
不思議そうなエル先輩に小首をかしげる。
「強い相手と戦うのって楽しくないですか?」
素直にそう答えると先輩は目を丸くしてケラケラとおかしそうに笑った。
「ホント、容姿詐欺だよねー。お姫様。
ジュリア姫も同じ意見?」
「そうですね」
「最近の女の子ってホント逞しい。俺たちもっと頑張らないと立つ瀬なくなっちゃうよー」
「そうだな。お前はもっとやる気を出して頑張れ」
「レオちゃんひどい!!」
ぶーぶー言い始めたエル先輩にレオ先輩がため息を零す。
「邪魔をしたな。これは回収していくからゆっくりしてくれ」
レオ先輩はそう言ってずるずるとエル先輩を引きずっていく。
「さて、邪魔者はいなくなったし、今回のご褒美は何がいい?」
甘いとろけるような笑みを浮かべてグレンがそう囁く。
私は呆れたような顔でグレンを見つめ返す。
「今度こそ!お父さんとデートするの!!
だから、ご褒美はいりません!」
キッパリとそう言った私にグレンは笑顔のまま凍り付き、ガックリと項垂れた。
フォンセが馬鹿を見る目でグレンを見つめる。
ジュリアは苦笑いでその様子を見守っていた。
「瑠璃は本当に龍哉さんが好きね?」
「うん!!」
そんなやり取りをしている間にダメージから復活したグレンがキラキラした瞳で私とジュリアを見つめる。
「じゃあさ、頑張る俺にご褒美ちょうだい?」
フォンセのグレンを見つめる視線が更に冷たくなった。
ジュリアは呆れたような笑みを浮かべてさすがグレン様と呟いた。
私はしばらく考えてからニッコリと微笑んだ。
「じゃあ、勝った方のお願いひとつ聞いたげる」
「よっしっ!!!!」
「勝たせると思うのか? バカ」
「分かんねぇじゃん! 今回は俺勝てる気がするもん!
なんたって可愛い瑠璃のご褒美が待ってるんだから!!」
冷ややかなフォンセの声にグレンはカラリと笑う。
そのテンションの上がりように失敗したかもと少し後悔しながらなんとなくジュリアに視線をやる。
あれ? なんだか少し元気ない??
「ジュリア?」
「どうしたの?」
「なんか元気ない?」
「そんなことないわ!」
「そう?」
「それより瑠璃! もし私が瑠璃に勝ったら1日私とデートだからね?」
「ふふ、じゃあ私が勝ったらジュリアのお家にお泊りね?」
顔を見合わせてくすくす笑い合う。
時間だとじゃれ合いをやめて準備に向かうフォンセとグレンにエールを送って私とジュリアも次の対戦に備えた。