第82話
突然ですがピンチです。誰か助けてください。
模擬戦が始まり、普通科の生徒さん(主に女子)がお目当ての生徒(主にSグループの面々)を求めて休み時間に雪崩れ込むようになりました。前はいろいろ絡まれたりしてたのですが、今回は応援していただいたりなんかしちゃったりしてちょっとご機嫌だったんです。
相変わらず犬猫を相手にするようなお菓子の差し入れもあったけど。
でも、だけど、こういう絡まれ方はいつしか綺麗になくなっていたんです!! なのに!!!
「ちょっと聞いていますの?」
気の強そうなお嬢さんが取り巻きを連れて私の目の前にいます。
「聞けば、毎朝フォンセに教室まで送らせているそうじゃない。
フォンセやグレンが迷惑していることに気付きなさい!」
何度も断りました。
でも何故か丸め込まれて気が付いたら教室まで送り届けられています。
そしてジュリアと保育士と保護者の会話をして自分の教室に行くフォンセがいます。
なんてことを言えるはずもなく。
「庶民風情が。立場をわきまえなさい」
凍えるような瞳でそう告げたお嬢さんに、物語の中にでもトリップしたのだろうかなんて現実逃避をしていると天の助けが割り込んできた。
「はーい、そこまで!」
「エルビス!! 邪魔をしないで! この雌猫に自分の立場というものを理解させないと!!」
めすねこ……。
「うん、確かに戦ってるお姫様は猫みたいにしなやかで美しいけどね。
ちょっと落ち着こうか?」
エル先輩、お嬢さんがおっしゃってる意味と違うと思います。
というかエル先輩のお知り合い?
しゃべり方とお話の内容から貴族のお嬢様だとは思うけれど。
「ほら、癇癪を起すとまたフォンセたちにヤな顔されちゃうよー?」
「わたくし癇癪なんて起こしてませんわ!!!
わたくしを誰だと思っていますの!?」
「じゃあお姫様に絡むのもやめようねー。
ここでは貴女もお姫様もただの生徒。
身分ではなく実力が優先される世界なんだから」
「わたくしがこの雌猫に劣るとおっしゃりたいの!?
貴方までこの娘をお姫様扱いしていますの!?」
「あーもーめんどくさいなぁ。どうしてこういう時にレオちゃんがいないかなぁ」
エル先輩、心の声がダダ漏れです。そういうのは心の中で言ってください。じゃないと
「エルビス!!!」
「あーはいはい。フォンセたちにバレる前に退散しようねー。
お姫様もごめんねー!」
キャンキャン吠えるお嬢さんを無理やり回収していくエル先輩の背中を呆然と見送って、私も水飲み場を後にした。
「瑠璃、遅かったわね」
「あぁ、うん。ちょっとね」
不思議そうなジュリアに苦笑いで答える。
「何かあった?」
「ちょっと変な人に絡まれちゃって」
「大丈夫?」
「うん、たまたま通りかかったエル先輩が助けてくれたから」
「そう、よかったわ」
先輩も役に立つのねなんて笑うジュリアにつられて笑いながら目の前で繰り広げられる戦闘を見る。
次に戦う相手の弱点や癖を少しでも頭に入れておかないと流石にAグループだけあって楽には勝たせてもらえない。
何より最終戦の相手はジュリアだ。ジュリアと戦うまでに負けるなんて絶対に嫌だもん。
そうして目の前の戦いに集中する私は先ほどの出来事なんてきれいさっぱり忘れてしまうのだった。