第81話
今日から新学期! 楽しいイベントもあるということで頑張ります!!
「行って来まーす!!」
「はい、行ってらっしゃい」
にっこり笑顔のエアルさんに見送られて車に乗り込む。
いつものようにくだらない話をしている間に学校についていつものように盛大な出待ちに迎えられる。
「フォンセ様―――!!!」
「グレン様――――!!こっち向いて―!!」
「瑠璃ちゃーんお菓子あるよー!!」
あれ、おかしいな。私だけなんか変じゃない? お菓子あるよってなんだ。お菓子あるよって!
そしていつものようにフォンセに教室まで送られて、ジュリアに受け渡される。
「ジュリア嬢、すまないが頼む」
「はい。確かにお預かりいたしますわ」
「ねぇ、いい加減その保護者と保育士さんやめない??」
ぷくりと膨れるとフォンセは不思議そうな顔をして私を見る。
私がどうして膨れているかちっともわかっていないらしい。背後から私を抱きしめているジュリアが苦笑いしている気配を感じた。
結局フォンセは何もわかっていないまま機嫌を取るように私の頭を撫でて自分の教室へと向かった。子ども扱いにむっとしたままでいるとクラスメイトが声をかけてきた。
「ねぇねぇ、瑠璃。王女殿下が編入してくるってマジ??」
その言葉に私はこてんと首をかしげる。
そんな話は聞いてないけどな。それが顔に出ていたらしい。
「じゃあデマかなぁ」
「いや、でもフォンセ様たちのことだ。
瑠璃にわざとお話にならなかったものかもしれない」
「愛しの瑠璃をあの王女殿下には近づけたくないわな」
「じゃあやっぱりあの噂マジなの??」
わいわいと盛り上がるクラスメイト達について行けずにジュリアを見るとキュッと眉間に皺を寄せて何かを考え込んでいた。
「ジュリア?」
「……本当よ。王女殿下は編入して来られるわ」
憂いを帯びた表情でそう告げたジュリアにクラスメイト達はやっぱり、だのマジかよだの思い思いの反応を示す。
「へぇ、王女様が編入してくるなんてすごいね」
そんな中で素直にそう思ってるのは私だけのようでジュリアは面倒くさそうな顔をしてちっともすごくないわ。むしろ迷惑よ。と言い切った。
首をかしげるのは私だけでクラスのみんなも大体同じ意見のようだった。
「ジュリアは腐っても伯爵令嬢だものね」
「失礼な態度はできねぇよなぁー。俺も堅っ苦しいのヤダ」
「そっか! 確かにそういうのは面倒だよね」
「まぁ、それだけじゃないんだけど……」
「ライラ、それ以上は必要ないわ。
私たちはいつも通り過ごせばいいの。
普通に生活していれば王女殿下とは関わり合いになることはないわ」
厳しいジュリアの声にクラスメイト達はそれもそうだと納得した様子だった。
「まぁ、俺たちには俺たちのお姫様がいるし?」
「そうそ、世間知らずで最強のお姫様が」
「安心しろよジュリア」
「私たち貴女が思っている以上に小動物系お姫様が気に入ってるの」
パチンと飛んできたウィンクに首をかしげるのは私だけでジュリアはニッと口の端を釣り上げて笑う。
「ねぇ、お姫様って誰? ジュリアのこと?」
完全に置いてきぼりを食らった私がちょっぴり拗ねながらそう尋ねると何故か爆笑の嵐が教室を襲った。
「おーおー、新学期そうそう楽しそうだなお前らは」
先生が来るまで収まらなかったそれに私はまた唇を尖らせるのだった。
「つーことで明日から模擬戦だからな」
それとめでたいことにこのクラスからついに2人もAクラス進出者が出た。みんな見習うように! と珍しく先生らしいことを言って隼人先生は教室を出て行った。
「瑠璃とジュリアがついにAクラス進出かぁ」
「すげーな」
「俺らもあと一息なんだけどな」
「でもSには混ざりたくないな」
「フォンセ様にグレン様。エルビス様にレオン様までいらっしゃるもんな」
「あら、上等じゃないの! AクラスだろうがSクラスだろうが為すべきことは変わらないわ」
「流石ジュリア! カッコイイ!!」
ぎゅうっとジュリアの腰に抱き着くとよしよしと頭を撫でられる。
「頑張ろうね!」
「ええ! 瑠璃にだって負けないわよ!」
「私だって負けないもん!」
「お前ら、男の俺たちの立場がなくなるくらい男前だよな」
哀愁漂う男子たちの言葉に首をかしげながら私はジュリアと共に次の授業の準備をした。