第80話
「あれ? ふたりともどうしたの?」
「瑠璃―――!!」
ぎゅうううっと抱きしめようとしたグレンの腕は宙を抱く。
「ぐ、グレン?」
飛びついてきたグレンを避けてフォンセの背中に隠れる。
そんなにじとりと恨めしそうに睨まれても……。
苦笑いでいつもよりもお疲れな様子の二人を見上げた。
「また面倒なことがあったんだね?」
もう何かあったの? なんて聞いてやらない。
私だって学習するんだから。
疑問ではない断定の言葉にフォンセとグレンは苦笑いして少し疲れたように息を吐いた。
「お手伝いできること、ある?」
「いや、大丈夫だ」
「今回ばっかりは自分たちでなんとかしねぇとな」
「そっか」
しゅんとしてしまった私の頭をフォンセの大きな手がぽんぽんと撫でる。
ありがとうなと言われているようでなんだかちょっぴり元気が出た。
えへへと笑うとフォンセも口元を緩める。それが何だか嬉しくて私はさらに笑顔になった。
「おーい、俺を無視していちゃつくなー」
「いちゃついてないよ??」
「まだいたのか」
「ひどい! 俺の扱い!!!」
ぐすんと泣きまねをするグレンを笑いながら慰めて廊下を歩く。
足は自然と談話室へと向かっていた。
ソファーに座ったフォンセとグレンに紅茶を用意しながら口を開く。
「そう言えば二学期って何かイベントあるの?」
和の国では体育祭に文化祭、イベント目白押しだった。
こっちではどうなんだろう。お仕事しながらフォンセとグレンは学校にも顔を出していたようだし、なにか楽しいことがあるのかな。そんな期待を込めてフォンセたちに視線を向ける。
フォンセとグレンは何かを思い出したように固まってひどく疲れた顔になった。
「そうだった。今学期はサン・リリエール祭があるんだった。」
「サン・リリエール祭って??」
それなに?と首をかしげる。
「ブンカサイだっけ?と同じだと思うぜ。
特殊科による演武とか観劇とかオペラ鑑賞とか。
3日間色々な催しを生徒たちが楽しむんだ」
「催しはその年の監督生によっていろいろかわるけどな」
「へ、へぇ」
それはもはや文化祭ではないと思う。私の知ってる学祭はクラスや部活とかで出し物したり出店したりするやつなんだけどな。生徒の自主性を大切にしてるイベントだった気がするんだけどな。
観劇って! オペラ鑑賞って! プロの方を招くってことですよね!? 流石、金持ち校。
「自由参加だけど、毎年結構集まるからなぁ」
「え!自由参加なの!?」
「最終日のダンパにさえ参加すりゃあ後はサボっても問題ない」
「ダンパってもしかして……」
「ダンスパーティー」
「なんでダンパが強制参加なの!? そこを自由参加にしようよ!!」
ダンスなんて踊れない!私、一般庶民!!
「っていわれても伝統だからなぁ」
苦笑いのグレンにフォンセが頷く。
「ちゃんとレッスンの時間がとられているから安心しろ」
安心できないよ! 絶対、相手の人の足を踏むもん。自信あるもん。
どうしよう。お父さんって踊れたりするのかな。踊れそうだな。よし! 練習台にしよう。
先生はエアルさんと静奈さんにお願いして……。というか私、誰と踊るの?
「誰と踊るか決まってるの?」
「いや、模擬戦が終わった辺りから生徒同士で申し込むんだよ」
「そうなんだ、って模擬戦!?」
「休み明けには必ずあるからな」
そうだった!! 特殊科独自の実力テストが模擬戦だもの。休み明けには必ずありますよね。
「あぁ、瑠璃とジュリアは今回からAグループに振り分けられるみたいだぜ」
「なんで!?」
「お前、Aグループの馬鹿どものしただろう。授業免除にもなったし」
あ、あぁ、アレね。
グレンのファンのお嬢さんにいちゃもんつけられてAグループの男子生徒たちに囲まれたアレ。
それで倒しちゃったアレ。
あはは……はぁ……。
ガックリと落ち込むとフォンセによしよしと頭を撫でらる。
なんかいつもこれで誤魔化されてる気がする。でもフォンセに撫でてもらうの嫌いじゃないから困るんだよなぁ。いや、困ってはないけど。
安心するというか、もっと撫でてと言いたくなるというか。何言ってるんだろ自分。