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夜闇に咲く花  作者: のどか
キズナ編(仮)
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第75話

 

 帰ったら怒り心頭のお父さんと対面させられました。

 ものすごく怖かったです。

 久しぶりにお父さんの本気のお説教ではいろんな意味で泣きしました。

 怖かったけど、どれだけお父さんに大切にしてもらっているかがわかったので嬉しかったです。

 そう言ったらフォンセに心底呆れた顔をされた。ぽそりとファザコンって言ったの聞こえてるんだからね!!

 お説教の後は疲れていたのかそのまま泣きながら寝てしまった。

 そして数日後、アリサさんが保護した奥方とレイさんに会うことになった私は緊張でガチガチだった。

 どんな顔をして会えばいいのか、どんな話をすればいいのか、さっぱりわからなかった。

 緊張でどうにかなりそうな私を見てお父さんは呆れたようにため息を吐いてペチンと頭をはたいた。


「どうして君が僕より緊張してるの?」

「え!? お父さん緊張してるの!?」


 それで!? と驚く私にムスッとしたお父さんは緊張しないわけないでしょと呟く。

 君を産んでくれた人に会うんだから。なんて嬉しいことを言ってくれる。

 そんなやり取りをしている間におふたりに与えられた部屋に着いた。

 ノックをためらう私のかわりにお父さんが珍しくノックをする。


「失礼するよ」

「失礼します。瑠璃です」

「どうぞ」


 穏やかな声に促されて部屋に踏み込むと儚げに微笑む奥方とその側に静かに控えるレイさんが迎えてくれた。

 まだ寝台の上から動けない奥方は申し訳なさそうな顔で謝る。


「こんな格好で失礼します。黒龍殿、瑠璃ちゃん」

「構わないよ、体の加減はどうだい?」


 けれどお父さんも私もそんなことまったく気にしていなかった。

 というか私は。


「おかげ様で、だいぶ楽になりました」

「そう。……何を突っ立ってるの? さっさとこちらにおいで」

「え、あ、はい」


 自然と会話をするお父さんたちに心底驚いた。

 あの傍若無人なお父さんが! やっぱり私を産んでくれた人ってところがポイントなんだろうか。なんてバカなことを考えながらお父さんのそばに寄る。

 奥方が体を起こした寝台のそばの椅子に腰かけて本当に珍しく大人の対応をしているお父さんを見つめる。


「それで、今後はどうするつもりなの?」


 この屋敷から出ると聞いたけれど。


「……和の国に戻ろうと思います。またあちらでひっそり暮らそうかと」


 この国ではラヴァンシーの名は重すぎますので。


「……そう、何かあれば遠慮なく頼ればいい。」

「ありがとうございます。

 ……瑠璃ちゃん、」

「はいっ!」

「あちらに行った時でいいからたまに私とも会ってくれるかしら?」

「え? あ、えっと、」


 話についていけていない私は困ったようにお父さんと奥方を見比べる。

 お父さんは呆れた顔で私を見るだけで何も言わない。

 奥方は少しだけ困ったように眉を下げた。


「やっぱりダメかしら?」

「そんなことないです! ぜひ、」

「ありがとう」


 そんな些細な約束ひとつで心底嬉しそうに微笑む奥方にぎゅっと胸が締め付けられた。


 ずっと考えていたことあった。私はこの人をお母さんって呼んでもいいのかどうか。

 私の母親代わりはエアルさんと静奈さんだ。お二人のことは本当のママンみたいに思っている。だけど、だけど、この人だって私がお腹にいる時からずっと守り愛してくれている人だ。でも、ちょっと怖い。

 ポン、お父さんの手が肩に触れる。まるで励ますみたいに。それに勇気づけられて私は声をあげた。


「あ、あの! 今はまだ、呼べないけど、でも! その、いつか、お、おかあさん……って呼んでも、いいですかっ!」

「っ、」


 息を吞んで私を凝視する奥方に何かいけないことを言ってしまったのかと慌てる。


「あの、えっと、」

「っ、いいの? 私なんかが瑠璃ちゃんにお母さんって呼んでもらっても、いいの?」

「いいに決まってる! ……です」

「ありがとう……」


 心底幸せそうに笑いながらもポロポロと涙をこぼす奥方にどうしようもなくなってそっとそのほっそりとした手を握った。


「産んでくださって、守ってくださって、……私を、愛してくれて、ありがとう」


 震える手が私の手を包み込み、そのままぎゅっと抱きしめられた。

 震える背中にそっと手を回して、今の精一杯の感謝を伝える。

 その様子をお父さんがひどく優しい顔で見ていたことを私は知らなかった。



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