第67話
今日は急なお客様がお見えになったのでお部屋で大人しくしていろとおじ様に言われました。どうやら面倒なお客様のようです。
お仕事の邪魔にならないようにおとなしくしています。
ちなみにお父さんは朝早く和の国に旅立ちました。起きたらもういなかったです。ちょっと寂しい……。
「といっても暇だなぁ」
「ふふ、ならお庭でお茶しましょうか?」
「エアルさん!」
「フォンセも誘いましょう」
そういって半ば強制的にお茶会に召集されたフォンセは深い深いため息を一つ落として大人しくエアルさんのお茶会に付き合っている。ただし人目につかない裏庭で。
どうやらお客様と鉢合わせするのはよくないらしい。
しばらくお茶とおしゃべりを楽しんでいたらフォンセとエアルさんが席を外して私一人になる時間ができてしまった。
先にフォンセがグレンに呼び出されて、その後にエアルさんがメイドのお姉さんに呼ばれて、ふたりともすぐに戻るからとお屋敷に戻ってしまった。一緒に戻ろうかと思ったけれど部屋に戻っても暇だしお茶会も始まったばかりだったので大人しくふたりを待つことにした。
「それにしてもいい天気」
空を見上げてぐっと伸びをしたところで知らない声が背中越し私を呼んだ。
「瑠璃さん、かな?」
「はい、あの……?」
振り向いた先にいたのはエル先輩のお誕生日パーティーの時に出会った紳士だった。
「お父さんから何も聞いていないのかい?」
少し驚いた風に言われて私は警戒をしながらもコクンと頷いた。
「そうか。なら少し、私の話に付き合ってくれるかな」
有無を言わせない口調に私もう戻ります。とも言えずにぎこちなく首を縦に振った。
「私にも瑠璃さんと同じ年の娘がいるんだ。
この前も話した通り、生き別れになってしまってね。
生まれたばかりの娘は4歳までアルジューク孤児院にいたそうだ。使用人の娘、レイラという少女と共にね。どうして攫われた娘が使用人の娘と共に孤児院にいたのかはわからない。
けれど娘が4つになった年、孤児院が原因不明の火災に遭ってそこで彼女たちの消息が消えてしまった。調べによるとレイラが娘を庇って娘は無事に火災を逃れたと聞いた。そして今はある男の娘として生きていると」
嫌な予感がした。
じっとこちらを見つめる目に嫌な汗が伝う。
「それが、君だよ。アンジュ」
「う、そ」
「今日はその話をしに君のお父様に会いに来たんだ」
「うそ」
「お父様は生憎不在だったけれど、それでもこの前は君の好きにすればいいとおっしゃってくださったんだ。
私と一緒に来てはくれないか?」
「おとうさんが……?」
声が震えているのが自分でもわかった。
そのくらいに動揺した。
お父さんに見放された。その思いで頭がいっぱいになって何も考えられなくなった。
「お父様がお優しいからと言っていつまでも甘えてはいけない。
聞けばお父様はまだお若いのに独身だそうじゃないか。きっと君に気を使っているのではないかな」
「、おとうさんは、やさしいから」
だから私を切り捨てられずに一緒にいる……?
本当は邪魔だった……?私、お父さんの邪魔になっていた……?
だからお父さんは結婚しなかったの? 私がいたから結婚できなかったの?
「私と一緒に来ればすべて丸く収まるんだよ。分かるね……?」
本当に? 本当にそうなの?
伸ばされる手を振り払えないくらいに頭が真っ白になっていて鋭い声と共に守るように誰かに抱き込まれてもまだ状況を上手く理解できなかった。
「瑠璃!」
「ふぉんせ」
「瑠璃に何をした!」
「なにも? ただ少しお話をしただけですよ」
「……失せろ。二度と俺たちの前に顔を見せるな!
瑠璃、戻るぞ」
「、」
「瑠璃?」
「うん、」
「では考えておいてくれ。私たちはいつでも君を歓迎するよ。
私の可愛いアンジュ、君が彼女を思い出すのを待っているよ」
震える体をフォンセがしっかり抱きしめてくれる。
それでも頭は何も考えてくれなくて、何か言わなきゃいけないのに言葉も出なかった。
わけがわからない。あの人が本当の私のお父さんで、お父さんは私があの人のところにいってもいいって。私の好きにすればいいって。
じゃあどうしてお父さんは私になにも教えてくれなかったの? 私のこといらなくなったの? もう、どうでもいいの?
お父さん、わからないよ。