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夜闇に咲く花  作者: のどか
キズナ編(仮)
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第65話

 夢を見る。

 切なくて苦しくて哀しい夢を。

 小さな私が暗闇の中を必死に走る夢。それを支えてくれるのは優しい女の子の声。

 彼女は決まって私が守るから大丈夫だと囁く。一体何から幼い私を守るというのだろう。






「瑠璃、目が覚めたの? おはよう」


 わからないと言えば、最近のお父さんの行動もだ。

 時々こうして私の寝顔を眺めてることがある。恥ずかしいからやめてと言っても今更でしょとか言ってやめてくれない。それだけじゃなくて、時々私を眺めながら苦しそうな顔をすることがある。何かに悩んでるような。私の視線に気づくとすぐにいつものお父さんに戻るのだけれど。


「お父さん、おはよう」

「さっさとしたくして降りてきなよ」

「はぁい」


 部屋を出て行ったお父さんに首を傾げながら身支度を整える。やっぱり変だ。

 そう思いながらも何も聞けずにいる。不安な気持ちだけが募っていく。

 なんとなくひとりになりたくなくてご飯の後は談話室に引きこもることにした。

 ここにいれば必ず誰かが来る。お仕事がお休みのおじ様の部下さんとかメイドのお姉さんとかエアルさんとか。


「瑠璃」

「フォンセ」


 おじ様のお手伝いで忙しいはずのフォンセの登場に私は目を見開く。


「どうした?」


 私の隣に腰を下ろして私をのぞき込む。

 静かな翡翠の瞳に最近見るようになった夢のことや不安を全部見透かされそうで慌てて目をそらす。

 けれど大きな両手が私の頬を包み込んで無理やり目線を合わせられる。


「瑠璃、」


優しく名前を呼ばれて私は逃げ場を失った。


「自分でもよく、わからないの。

 ただ、モヤモヤして不安で……こわい、のかな」

「、悪いな」

「フォンセ?」

「……気晴らしに出かけるか」

「え? でも、おじ様のお手伝い」

「んなもんどうにでもなる。お前が沈んだ顔してる方が問題だ」


 だから気にするなと額を弾かれる。

 そのままフォンセに手を引かれて車に乗り込みいつもより少し遠出をする。

 フォンセが連れて行ってくれる場所はどれもわたし好みでウィンドウショッピングを楽しんだり、広場に来ているジェラート屋さんでジェラートを食べたりしている間に落ち込んでいた気分はどんどん浮上してきていた。


「楽しいか?」

「うんっ!!」


 そう答えるとフォンセがあまりにも優しく笑うから心臓が妙な音をたてた。それに首をかしげている間もフォンセは私の手を引いて歩いている。やってきたのは高台にある公園。

 夕焼けに照らされた街はとても綺麗で、切なくて感嘆の息が漏れる。


「綺麗……」

「だろう?」


 ちょっと得意げに口の端を釣り上げて満足そうに目を細めるフォンセに笑って頷く。


「さて、そろそろ帰らなきゃ龍哉にどやされるな」

「??」

「大事なお姫様を遅くまで連れまわすなってな」

「お、お姫様じゃないし! お父さんはそんなこと言わないよ!」

「そう思ってんのはお前だけだ。帰るぞ」


 そう言って差し出された手に手を重ねて夕暮れの道を歩く。

 帰ったらフォンセの言う通り超絶不機嫌なお父さんが玄関で仁王立ちしていた。


「随分遅かったね?」

「お父さん、まだ6時だよ」


 呆れた私の声はお父さんには届かないらしい。無言でフォンセを睨み付けている。


「フォンセ、仕事が溜まってんぞー」


 お父さんとフォンセの睨みあいを止めたのはアルセさんの軽い声だった。

 フォンセはわずかに顔を顰めて浅く息を吐く。


「龍も瑠璃が帰ってきて安心したなら飯まで仕事しろ、仕事」

「……はぁ、瑠璃。君も出かける時は声かけて。」

「あ、ごめんなさい。」


 そう言えば何も言わずに出かけたんだった。それでお父さんはこんなに心配したのか。としゅんと落ち込む。

 ポンポンと頭を撫でたのはフォンセだった。

 でもフォンセさん、フォンセさんが原因だってわかってます? じとりと睨むと微苦笑が帰ってくる。

 悪かった。形のいい唇が小さく動くのを認めて仕方ないから許してあげることにした。


「あぁ、そうだ。またしばらく空けるけど今度は大人しくしててよね」

「海外か?」

「あぁ、和の国にちょっとね。……瑠璃、返事」

「わかってるよ」

「君には前科があるからね」


 心配だというお父さんをキッと睨み付ける。


「それは、お父さんのせ」

「僕のせいにするんだ?」


 意地悪く笑うお父さんにぷくりと頬を膨らませて睨む。


「すぐに帰ってくるからいい子にしておいで」


 クツクツ笑いながらおでこにちゅっとキスを落としてお父さんはフォンセの首根っこをつかんでおじ様の執務室へと消えていった。

 いつもなら絶対しないスキンシップに唇を落とされたおでこを両手で押さえつけて私は呆然とその背中を見送ることしかできなかった。




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