第59話
「はぁあああ!?」
先生につかみかかるジュリアの隣で私は呆然と立ち尽くすしかなかった。
和の国から帰ってきた私たちを待っていたのはお土産に飢えたクラスメイトたちと笑顔の先生だった。
飢えるクラスメイト達にお土産を渡して彼らがお土産にがっついている間に先生はニッコリ笑顔でお帰り、テストが待ってるぞ。はぁと。と爆弾を落とした。
そしてジュリアに胸ぐらをつかまれどういうことだとガクガク揺さぶられているわけだ。
私も信じられない気持ちで先生を見つめる。
助けてくれという視線なんて知らない。それより説明してほしい。
だって私たちは例の過酷なサバイバル宝探しに勝ち抜いて単位を貰えるはずなのだから。
「それは授業免除でテストの受験権をもらえるというだけでだな、テストは受けなきゃだめだ、ぐはっ」
苦しそうな説明に私はそくフォンセに電話を掛ける。
HR中とか知らない。どうせルーシーのところでサボってるんだろうと勝手に決めつけてフォンセが出るのを待つ。
「もしもし? テスト受けなきゃ単位もらえないって本当??」
そして返ってきた答えに絶望した。真っ白になった私にジュリアも先生を放り捨ててへなりと座り込む。
「どうしよう瑠璃。私、数学、死んだわ」
「はは、私は歴史……」
「「どうしようーーー!!」」
私たちの叫びに放置されていたフォンセがため息交じりに図書室に来いと告げる。
最強の家庭教師を手に入れたらしい私たちはそれぞれの苦手科目の教科書とノートをもって教室を飛び出した。こうしてフォンセとグレンと合流した私たちは図書室を占拠して勉強会を開始した。
「ヤバイヤバイヤバイ」
「すぱるた……」
げっそりした私とジュリアはふらつきながら荷物を取りに教室に向かって歩いていた。
そこで今一番遭遇してはいけない人と遭遇する。
「幽鬼みたいだよ。お姫様たち」
「「……」」
「無視はいけないなー。ねっ! レオちゃん」
「無視していいぞ」
「ひどいっ! それよりどうしたのさ。お姫様たちも授業免除されてるでしょ?」
勉強道具なんてもってぐったりしちゃってさ。
なんていうエル先輩をキット睨み付けてレオ先輩のお言葉に甘えて無視して歩き出す。
「もしかして……お前らテストも免除だと思ってたのか?」
レオ先輩のその言葉にギクリと肩を揺らす。それでもエル先輩は不思議そうにパチリと目を瞬いた。
「えー? テストなんてテストなんてあってもなくても変わらないじゃんーー??」
「それはお前らだけだ。俺たちはそれなりに勉強してるんだよ!!」
イラッとしたレオ先輩の声にうんうんと頷く。
「ふぅん? それなら俺たちがカテキョーしてあげよっか?」
「フォンセたちは監督生の仕事が忙しくなるころだろう?」
詰め込むだけ詰め込んで監督生の仕事があるからあとはふたりで勉強しろよと大量の課題を出してくれたフォンセとグレンを思い出した。
分からないところがあれば聞きに来ればいいと言ってくれたものの忙しそうであることに変わりはない。
とてもじゃないけどふたりで終わらせられる気がしない課題に目を落としてジュリアと顔を見合わせる。
「この際なりふりかまってられないわ」
「夏の長期休暇は絶対死守しないとだもんね」
「交渉成立。そのかわり和の国でのお話聞かせてねー?」
荷物を持って図書室に逆戻りした私たちはまず出された課題を先輩たちに見てもらう。
レオ先輩は小声で鬼だな。と呟き、エル先輩はうげぇえっとあからさまに顔を顰めた。
「というか瑠璃姫の方はさー、関係ないとこもあるよね?」
「まとめて頭にいれておけってフォンセが」
「うはー鬼だねぇ。可愛いお姫様になんて仕打ちっ!!」
「グレンのやつもこの量は鬼だな。というかこの応用とか絶対出ないだろ」
「しょうがない。教え下手のフォンセたちに代わってエル先輩とレオ先輩が容量よく優しーく教えてあげる」
パチンとウインクしたエル先輩はいつものウザさが見当たらないくらい輝いて見えた。
明日おふたりに大量に買ったお土産をおすそ分けしようと心に誓ってジュリアと二人で先輩たちの講義を聞いた。
解説をまず聞いて出された問題を解いていく。
図書室が閉室時間を迎える前に今日のまとめとして出された問題を解くとエル先輩とレオ先輩は顔を見合わせて目を瞬いた。
「なんだ。できるじゃないか」
「フォンセたちが完璧主義なだけかー。めんどくさいやつらにカテキョー頼んだねー」
ご愁傷様―と心底同情した視線を向けてくるエル先輩にジュリアとふたりで顔を引きつらせる。
そりゃ、昼間あれだけスパルタに詰め込まれたらできるようにもなりますと喉まで出てきた言葉を飲み込んでその日の勉強会は終わった。
エル先輩とレオ先輩に車まで送ってもらってぐったりして迎えの車に乗り込んだ。