第58話
「さぁ! 選ぶわよ!!」
気合十分なジュリアに続いて私も頷いた。
早いものでもう明日には和の国を後にする。
というわけでお土産を選びに街に繰り出しました。
荷物持ちはフォンセとグレンと龍成です。
なんで俺までとか言わない。
最初にジュリアのお土産買いたいっていうリクエストに喜んでって言ったのは龍成でしょ! というか随分、猫外してるよね。
フォンセたちにはいまだに敬語だけど、態度はだいぶ軟化してるというか扱いが雑になってる。
めんどくさそうなフォンセたちにもしっかりエアルさんやおじ様たちへのお土産を選ばせて私もいつもお世話になってるエアルさんたちへのお土産を買う。
途中で立ち寄った可愛い和雑貨のお店でジュリアとお揃いでちりめんのストラップを自分たちへのお土産に買った。
途中龍成がフォンセたちによく付き合えますね。なんてげっそりした声で言っていたのが聞こえたけど聞こえなかったふりをしてしっかり最後まで付き合わせる。
お土産選びが終わったらいよいよ龍成のお家で花火だ。
そのまま荷物だけホテルに送ってもらって龍成のお家―――お爺さんのお屋敷に直行する。
何故か超絶不機嫌なお父さんと満面の笑みを浮かべているお爺さんに出迎えられた。
「お帰り龍成。瑠璃たちもよく来たね」
気持ち悪いと呟いた龍成の足を踏みつけてお爺さんに挨拶する。
「花火をするんだろう? 暗くなるまでゆっくりするといい」
「ありがとうございます、お爺…ちゃん」
期待に満ちた目で見られてお爺さんといいそうになったのを慌てて言い直す。
ぱっと顔を輝かせたお爺さんに龍成がまたなんとも言えない顔をした。
それはお父さんも同じで、思いっきり顔をしかめてさっさと部屋に通しなよ。と悪態をつく。龍成もハッとしたようにお爺さんをスルーして玄関へと私たちを誘導していった。
残念そうに私たちを見ていたお爺さんはしっかりお父さんが掴まている。
いい加減にしなよという呆れに満ちた声が聞こえた気がした。
「なぁ、どうなってんの? 俺の知ってる藤の翁と大分違う気がするんだけど」
ヒクリと頬を引きつらせたグレンが小声で私と龍成に尋ねる。
そんなことを言われても私にだってよくわからない。
でも私と龍成を無理やり婚約させようとしていたお爺さんと今のお爺さんは違うということは確かだと思う。
「俺の知っているお爺様とも大分違いますよ。もう別人です」
心底うんざりした声で龍成はため息を吐いた。どうやらお爺様の一番の被害者は龍成らしい。
私への貢物の相談をされて片っ端から却下していってくれたらしい。
百合さんの着物だって頂いたのにこれ以上もらえない。ありがとう龍成。
「よほど気に入ったみたいですね」
「私を可愛がってくださるのはお父さんに会う口実もあると思うよ」
可愛くて仕方がないみたいだと呆れた顔をする龍成に私は苦笑いする。
私をダシにすればお父さんは必ずお爺さんに会うから。
「それもなくはないだろうけどな。一番はやっぱりお前を気に入ってるんだろう。
おじ様の娘としてあのお爺様が認めてるんだよ。驚くことに。
俺との婚約の話だってお前を正式に藤原の人間として迎え入れたいっていうのもあったと思うぜ」
サラリとそんなことを言う龍成に目を瞬いて龍成を見る。
あの突然の思いつきみたいな未だに信じられない婚約話にそんな意味があったとは。
驚きながらも通された客間でのんびりとくつろぐ。
ジュリアが庭を見たいといったので一緒に立派すぎる日本庭園をぐるりと回ったりしている間にちょうどいい感じに暗くなってきた。
火種にろうそくを立てて縁側に広げた花火に火を灯す。
闇に浮かぶ儚い光を目で追いかける。
色とりどりに変わる光はあたたかくて心を弾ませる。
花火を眺めてうっとりしているジュリアに誘って良かったなと改めて思った。
たくさんあったと思った手持ち花火はあっという間に終わってしまって、最後の線香花火をみんなでする。
線香花火はとっても綺麗で胸がきゅっと締め付けられるような切なさを感じる。
打ち上げ花火とはまた違う美しさをもつ手持ち花火の思い出を最後に私たちの和の国旅行は幕を閉じた。