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夜闇に咲く花  作者: のどか
和の国編
56/129

第55話


「何、この空気」


 翌朝やってきた龍成が顔をしかめる。その言葉にばつが悪くて視線をそらした。

 分かりやすい私の反応とは違ってちらりと見たフォンセはいつも通りだった。


「まあいいけど。グレンツェンさんとジュリアさんは俺と観光でいいですか?」

「おう、よろしくな」

「グレン様、」


 心配そうにジュリアがグレンを呼ぶ。ちらりとよこされた視線に気づかないふりをしながらふたりのやりとりに聞き耳を立てる。


「大丈夫だって。それとも俺とじゃ嫌?」

「そ、そんなことないですけど」

「なら俺たちは龍成の案内で観光な?」

「はい」

「龍成、グレン、ジュリアをお願いね」


 グレンがジュリアを納得させたところで私もジュリアたちに声をかける。


「私は瑠璃みたいに迷子にならないから大丈夫よ」

「も、もう!!それはいいってば!!」

「くすくす、瑠璃も気を付けて行ってらっしゃい」

「うん!ありがと」


 ジュリアたちを見送ってしばらく、お父さんがそろそろ行くよと立ち上がる。

 下におりるとちょうど迎えの車が来ていた。

 お父さんはなぜか広い後部座席じゃなくてひとり助手席に座ってしまう。

 必然的に私とフォンセが後部座席で無言の空間を作り上げることになった。

 どうしてこうなっちゃったんだろうとため息が零れてしまいそうになったときにフォンセが重苦しい沈黙を破った。


「……妹だなんて思ってない」


 情けない顔でフォンセの顔を見つめる私の頬にフォンセが手を伸ばす。

 大きな手が優しく頬を包み込んで撫でた。


「ただお前が大事なんだ」


 それだけは理解してくれという声にくしゃりと顔が歪む。

 大事にしてもらってるのも、心配してくれてるから昨日あんなこと言ったのも知ってる。

 大きすぎて怒っちゃったけど、本当はちゃんと知ってるの。

 泣きそうになるのを堪えながらなんとか言葉を紡いだ。


「……うん。私も、ごめんなさい」

「悪かった」


 零れてしまった涙を親指で拭ってもらって、照れたように笑う。


「仲直り、ね」

「あぁ。仲直りだ」


 だから早く泣き止めと困った声で囁きながらフォンセは優しく目じりにたまった涙を拭い取る。

 お爺さんのお屋敷について車を降りるころにはすっかりいつも通りの私たちに戻っていた。

 その様子をみてお父さんが安心したように小さく息を吐く。

 なんだかんだでお父さんも心配してくれていたんだと思うと嬉しくてまた口元が緩んだ。


「ニヤニヤしてないで行くよ」

「はーい!」


 お爺さんのお屋敷は純和風の造りで長い廊下の窓からは立派な日本庭園が見える。

 通されたのは和室ではなく来客用にと作られたのだろう洋室だった。

それでもどことなく和を感じさせる家具や雑貨の配置に心地の良さを感じた。


「よく来たね」

「お招きくださりありがとうございます」

「さぁ、座って」

「失礼します」


 アンティークだろうソファーに腰かけるとさっきここまで案内してくれたメイドさんが紅茶を出してくれる。


「龍哉とフォンセ君はコーヒーの方がよかったかな」

「別にどちらでもいいよ。それより、この子に何の用があって呼び出したの?」

「お前は孫の顔をゆっくりみたいというごく普通の願いを叶えてもくれないのかい?」

「何を今更。コソコソと会っていた癖に」

「まだ怒っているのかい?それに私が祖父だとまだ名乗っていない」

「名乗らなくても知ってるよ。用がそれだけなら僕たちは帰る」

「お父さん!」


 さっさと立ち上がろうとするお父さんを慌ててたしなめる。

 このまま帰ったら何しに来たのかわからなくなる。


「瑠璃の方が大人だね」

「……」

「では、改めて私が龍哉の父で君の祖父になる藤原龍之介だ。

 これからは気軽におじいちゃんと呼んでほしいな」

「調子に乗らないで。なにがおじいちゃんだ。瑠璃、やっぱり帰るよ」

「お父さん、落ち着いて。」

「瑠璃、龍哉はほうっておきなさい」


 それより、とひどく期待に満ちた目を向けられて思わず言葉に詰まる。

 隣に座っているフォンセの服をこっそり握って恐る恐る口を開いた。


「お、おじい、ちゃん……?」


 お爺さんの顔が輝き、その顔を見てお父さんが舌を打つ。

 気がすんだならもう僕たちは帰るからと今度こそ本気で帰ろうとするお父さんにあわあわしているとお爺さんが緩んだ顔のまま本題に入った。


「本題はね、瑠璃に百合の着物を譲ろうと思ってね」

「姉さんの? 匡玄まさはるの嫁にでも龍成の嫁にでも譲ればいいじゃないか」


 龍成にだって瑠璃以外にも婚約者候補くらいいるんだろう。

 そう吐き捨てたお父さんにお爺さんは首を振る。


「私は瑠璃に譲りたいんだよ。龍哉、百合の部屋に案内してやりなさい」


 気に入ったものを持って帰ればいいそう言ってお爺さんは私たちを促す。


「彼と少し話してみたいんだ。ゆっくりしておいで」


 その言葉にフォンセを見つめると大丈夫だと苦笑いが返ってくる。

 ゆっくり選んで来いと背を押されてしまい、後ろ髪をひかれる思いでお父さんの後についていく。


「フォンセ、大丈夫かな」

「心配いらないよ。あれでもイヴェールの後継だ」

「そうだね。大丈夫じゃないならお父さんも残ってるもんね」

「どういう意味だい?」

「んー? だってお父さん、フォンセのこともグレンのことも実は大好きでしょう?」

「何、その気持ち悪い解釈。」


 思いっきり顔をしかめたお父さんに小さく笑って百合さんの部屋へと向かった。




な ぜ こ う な っ た ! ?


もっとピリピリ、シリアスな空気になる予定だったのにただの孫バカになってしまった……。


今回もお付き合いくださり、ありがとうございました!

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