第54話
「花火、綺麗だったね」
「ええ、向こうとはまた違った風情ですごく綺麗だったわ」
帰りはジュリアにしっかりと手を繋がれてます。
もうはぐれない! という私の主張は全員に却下されました。
「気に入ったなら向こうに帰る前に手持ち花火でもしますか?」
「わぁ! 素敵!」
「ホテルじゃ無理だから家ですることになると思うけど?」
龍成のお家でということに伺うようにフォンセとグレンを見る。
「いいんじゃないか?」
「俺たちも一緒だからな」
ねだるような私とジュリアの視線にふたりはあっさりOKを出した。
「なら準備しておきますね」
保護者(仮)からの許可が下りたので龍成も安心して準備するようだ。
そうやって和の国にいる間の計画をちょっとずつ詰めている間にホテルに着いた。
「お帰り、楽しかったかい?」
出迎えてくれたのは不機嫌なお父さんと上機嫌なお爺さんだった。
龍成が珍しくぽかんとした顔でお爺さんを凝視している。
「お爺様、どうしてこちらに?」
「お前を迎えに来たんだよ。ついでに可愛い孫娘の顔を見に来た」
「あぁ、瑠璃の顔を見るついでに迎えに来てくださったんですね」
ひどく冷めた声で龍成がそう紡ぐ。少し心配になって龍成の方を見ると龍成は大丈夫だと言いたげにチラリと視線をよこしてすぐにまたお爺さんに視線を戻した。
「満足したなら帰りなよ。
龍成も悪かったね。どうせ迷子になって迷惑かけただろう?」
「はい。でもフォンセさんがすぐ捕獲してくださったので」
「ほ、捕獲……」
龍成の言いように顔を引きつらせているとお爺さんが迷子になったのかい? 大丈夫だったかいと心配そうに近寄ってきた。
すぐに龍成がさっと私を隠すように前に出てお爺さんに帰るように促す。
「さぁ、帰りますよお爺様。皆さんはお疲れなんですから」
「龍成」
ピリリとした空気に慌てて口を開く。
「あ、あの、お爺さん、お久しぶりです。
この間はあんな帰り方してごめんなさい。
ご挨拶にも伺えなくてすみません」
「気にしないでおくれ。私も悪かったね。色々と強引だった」
「お爺さん」
「改めて家に招待させてくれないかな」
「瑠璃、」
頷こうとしたら咎めるようにフォンセに名前を呼ばれた。
振り返ると眉間に皺を寄せてダメだとでも言うように首を振られる。
グレンも同じ意見のようでフォンセを止める様子はない。
お父さんも何も言わない。
私の判断に任せるようだ。
「……ぜひ、お邪魔させていただきます」
「瑠璃!」
「随分と愛されているようだね。よければ君もくるといい」
「えぇ、そうさせてもらいます」
「若いね」
「そのくらいにしなよ。僕が見送るから君たちは先に上がって休んでな」
大きなため息を吐いたお父さんが割り込んでさっさと帰れとばかりにお爺さんの背中を押す。
お爺さんは最後まで笑顔で私に手を振りながら龍成に引きずられ、お父さんに追い出されるように帰って行った。
「瑠璃、本当に行くの?」
エレベーターに乗ったとたんジュリアが心配そうに私を見た。
「大丈夫、お話しに行くだけだよ。
どうして私まで気にかけてくださるのか気になるし」
「そう、そうね。フォンセ様も一緒だものね」
「心配しすぎだよ」
「それだけあの翁は油断ならない相手なんだよ」
無言で黙りこんでいるフォンセの変わりとでも言うようにグレンがむっとした顔で私の額を弾いた。それに続くようにフォンセも私を低い声を出しながら私を睨み付けた。
「無防備すぎる。龍成と婚約させられそうになったの忘れたのか」
「私にも龍成にもそんな意思ないよ。それにいつかはお話しなきゃいけないの」
「なにも相手のホームですることはないだろう」
「向こうに帰ったらそんな機会さえ与えてくれないでしょう?」
「当然だ。少しでも危険があることをお前にさせるわけにはいかない」
私にしては珍しくフォンセを睨みながら問いただすと予想していた答えがドギッパリと帰ってきた。
言い切った! 真顔で言い切った!!
グレンそんなにやっちまったって顔するなら止めてよ!
ジュリアも流石フォンセ様なんて言ってる場合じゃないよ!
「過保護! 私はフォンセの妹じゃない!
ジュリア、行こう!」
ちょうどいいタイミングでエレベーターが着いたのでジュリアの手を取って部屋まで走る。
だから「当たり前だろ、妹だったらこんな思いしてねぇよ」なんてフォンセが小さく呟いたことを私は知らない。