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夜闇に咲く花  作者: のどか
和の国編
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第52話


 浴衣を着てお祭りに行く準備をする。

 グレンが選んだ紺地にあやめ柄の大人っぽい浴衣を羽織るジュリアを着つけていく。

 といっても帯は上手く締めてあげられないのでお父さん任せで、私がするのは腰紐を締めるところまでだ。

 ジュリアを着付け終わると私もフォンセに選んでもらった白地に桜柄の浴衣を羽織って腰紐を締めて仕上げはお父さんに頼った。

 フォンセとグレンは龍成に着せてもらっているらしい。険悪なムードが漂っていただけに心配していたけれど男同士のジジョーとやらで最初ほど嫌な空気は漂っていない。

 それに安心する暇もなく着替え終わったジュリアは早々にグレンの前に座らされて微動だにしない。自分でできます! と抵抗が許されたのは最初だけであれよあれよと丸め込まれてグレンが真剣な顔でジュリアの髪を弄っている。

 私も鏡の前で自分の髪をまとめているのだけれどフォンセに連れて行ってもらったお店で教えてもらったみたいにうまくいかずに困っていた。


「瑠璃」


 見かねたフォンセがすっと櫛と買ってもらった髪飾りを奪い取る。

 長い指が優しく髪を梳く。さらりと流れるその感覚を楽しんでいた指がするすると髪を結いあげて綺麗に整えていく。


「できたぞ」

「ずるい」


 じとりと睨み上げると困ったような苦笑いが返ってくる。


「グレン様っ!?」

「うん、可愛い。俺の目に狂いなし!」


 焦ったジュリアの声にフォンセを睨むのをやめてそちらを見ると焦った顔のジュリアとひどく満足そうなグレンの姿があった。

 ジュリアの髪に飾られた真新しい髪飾りを見て大体のことを察した私はまたじとりとフォンセを睨み上げて呟く。


「フォンセとグレンのかっこつけ!

 ジュリア行こう!!」

「瑠璃、でも、」

「もらっとけばいいよ。私たちのお小遣いなんかよりずぅうっと稼いでるらしいし」


 戸惑うジュリアの手を引いてお父さんと話している龍成のところへ行く。

 涼しい顔をしたお父さんとなんとも言えない顔をする龍成に褒め言葉を貰う。

 ずっと私たちの様子を見ていた龍成が「独占欲強ッ」と呟いたことを、そんな龍成にお父さんが「随分マシになったほうだよ」なんて囁いたことを私たちは知らない。


「人が多いからはぐれないように気を付けてくださいね。特に瑠璃」

「私だけ名指し!?」

「お前が一番心配だ。チビだし、埋もれそう」

「龍成だってチビじゃない!」


 フォンセたちに比べて龍成は背が低い。お国柄があるんだから当然だ。

それはもちろん私も同じわけで、ここは和の国なわけで、私は普通なわけで、埋もれたりなんかしません!!

 キッと龍成を睨めばフォンセに顎をつかまれて龍成から視線をそらさせられた。

 そしてお父さんはそんな私を綺麗に無視して話を進める。ひどい。


「龍成も君たちも頼んだよ。この子すぐ迷子になるから」

「お父さんまで!! ってお父さん一緒に行かないの?」

「呼び出されてね」

「お爺さんのところに行くんだ」

「大丈夫。君たちが戻るころには帰ってくるよ。楽しんでおいで」

「うん!」


 さぁ行っておいでとお父さんに見送られて夜の街に繰り出す。

 通りまで行くと浴衣を着た人でいっぱいだった。

 うわぁ、と思っている間に右手が温かいものに包まれる。


「迷子防止」

「迷子になんかならないもん」

「でも人に流されそうだからこのままな」


 返事をするのは癪な気がして黙って右手に力を込めた。

 小さく笑う声が隣から聞こえたけれど気にしない。


「ジュリアも手、つなぐ?」


 そんな声が聞こえてきて前を向くとぶんぶんと首を振って完全拒否されているグレンがいた。


「リア充爆発しろ」

「龍成?」

「なんでも。

 はぐれたら9時にあの広場集合で。花火は8時からなんではぐれなかったらとっておきに案内します」


 はぐれた時は各自で見てください。なんて雑な約束をする龍成に瑠璃はパチリと目を瞬いた。


「随分適当だね」

「瑠璃やジュリアさんがひとりではぐれるなんてことはなさそうだから

 欲しいものがあれば買ってもらっていいですよ」


 あちこち目移りして既に危ない状態のジュリアに龍成が苦笑いする。

 その言葉にジュリアはポッと頬を染めてかき氷を指さした。


「あれ、買ってもいい?」

「かき氷か、いいね! わたしも買うー!」

「じゃああの店にしましょうか」


 繋がれた手をはなしてジュリアと手を繋ぎ直す。

 何味にしようか迷いながらジュリアはレモンで私はいちごを買った。


「おひしー!」

「冷たくておいしい」

「ふふ、帰ったらうちでも作ろうか?」

「本当!?」

「ほんとー! おじ様たちにも食べてもらおう!」

「お袋が喜ぶよ」

「母さんも」

「うちのかき氷機送ってやろうか? もう使わないし」

「いいの!? でも文化祭とかで使うんじゃない?」

「使わねぇよ」

「ブンカサイってなに?」

「文化祭っていうのはねー」


 しゃりしゃりかき氷を食べながらそんなことを話しながら歩いていたら見事にはぐれました。

 いつのまにかぼっちです。

 うそだ。

 かき氷のゴミ捨てるまでは一緒だったのに!どうしてこうなった!?

 いや、落ち着け、大丈夫。フォンセたちは目立つもの。背も高いし、きっとすぐ見つかる。

 大丈夫。よし、落ち着いて周りを見渡し―――――見当たらないんですけど。




やっぱりというか、瑠璃は迷子になりました(笑)


今回もお付き合いくださってありがとうございます。

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ありがとうございます^^*

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