第49話
今日はフォンセとお出かけです。
昨日ジュリアをお家に送り届けた後に、暇だったら付き合えって言われたのでフォンセのお出かけにお供することになりました。
どこに連れて行ってくれるのか楽しみです。
「ふみゃ!! にゃにしゅゆの、おひょーしゃん!!」
「何言ってるかわからないよ」
みょーんと私のほっぺをひっぱるお父さんに抗議しても鼻で笑われてされに伸ばされる。
「龍哉くん、いくら瑠璃ちゃんがフォンセとのお出かけを楽しみにしてるからって大人げないですよ」
「僕だって休みなのに」
「拗ねない拗ねない」
「っ、お父さんだいすき!! 今度のお休みは一緒にお出かけしようね!」
くすくす笑うエアルさんを睨むお父さんにぎゅうっと抱き着く。
小さく息を吐いたお父さんがそっと私の頭を撫でた。
「なにやってんだ?」
呆れた声に振り返ればフォンセがやっぱり呆れた顔で私たちを見ていた。
「親子のスキンシップ!」
ドヤ顔で答えるとさらに呆れた顔をされた。そしてそのままべりっと引きはがされる。
「行くぞ」
「うん! 行ってきます!!」
「気を付けるんだよ」
「いってらっしゃい」
お父さんとエアルさんに見送られてフォンセと車に乗り込む。
「どこ行くの?」
「ついてからのお楽しみ」
ニヤリと笑ったフォンセはそれからどれだけ聞いても行先を教えてくれない。
大通りの近くに車を止めてもらって、通りを歩く。
アンティークのお店の角を曲がって奥まった路地に入ると喧噪から離れるようにフォンセはどんどん奥へと進んでいった。
「フォンセ?」
「ここだ」
着いたのはお店じゃなくて普通のお家だった。
フォンセは迷いなくその家の扉を開けて私を手招きした。
「お待ちしておりました。夜の闇を継ぐ方」
「フォンセだ」
「フォンセ様、ご用意はできておりますのでごゆるりとご覧ください」
この国には馴染みのない着物姿のお姉さんが頭を下げる。
慌てて頭を下げるとお姉さんはクスリと微笑んでお嬢様もごゆるりとご覧くださいませと言って私たちを奥の部屋へと案内する。
案内された部屋には可愛らしい和雑貨がずらりと並んでいた。
ちりめんのぬいぐるみや小物入れ、さいふ、きんちゃく、お箸に、おちょこ、扇子、簪……あらゆるものが品よく並べられたそこに私は瞳を輝かせる。
「静奈の御用達らしい」
「静奈さんの、」
「静奈様にはいつもご贔屓にしていただいております」
にっこりと微笑んだお姉さんはやんわりと私たちを髪飾りや帯留めが並べられているコーナーへと誘導する。
「では、なにかあればお呼びくださいませ」
私が美しい品々に目移りしている間にフォンセと言葉を交わしていたお姉さんが部屋の隅へと下がる。
それを見届けてフォンセがくるりと私へと向き直った。
「好きなの選べ」
「へ?」
「せっかく浴衣着るんだ。髪留めや小物くらい好きなの選べよ」
浴衣は静奈のお古なんだし。
なんていうフォンセに私は戦いた。
だってここに並べられているのはどう見ても高価な品ばかりで、静奈さんが貸してくださる小物やら髪留めだって全部一級品で、私は文句なんてないわけで、というかむしろ私なんかにはもったいないくらいの品なわけで。つまり、お古だなんてとんでもないです。
「瑠璃?」
「私には勿体ないです」
だからそんな不思議そうな顔しないでください。
「お前が選ばないなら俺が選ぶぞ?」
「買うの決定なの!?
いいよ、本当に。静奈さんが貸してくださるので十分すぎるからそれでも私には勿体ないから!!」
「俺がお前に贈りたいんだ。……ダメか?」
「だめ、じゃない、けど……やっぱりダメ!
いい品すぎるもん! こんなの買えないよ。お小遣いパァだよ!」
「……お前、俺の話聞いてたか? 俺が贈るっつってんだろ」
「よ、よ余計にダメ!! こんなに高いもの貰えないよ!」
「いい品だから贈るんだろうが。お前に粗悪品なんか贈るか」
「で、でも! だって!」
「でもでもだってでもねぇよ。ほら、選ぶぞ」
こ、こうなったら一番安いのを。
「わざと安いのを選ぶのはなしだからな。まぁ、値札なんて無粋なもんついてねぇし無理だろうけど」
「ば、ばれてる……」
「瑠璃、好きなの選べよ。いつもうまい飯作ってくれる礼だ。
これでもちゃんと稼いでるんだぜ? 心配するなよ」
「お嬢様、こういう時は男をたてて買ってもらうのがイイ女ってものですよ」
「うぅ、お財布の中が寂しくなったって知らないからね!!」
「上等」
お店のお姉さんにまで言われてしまいやけっぱちでそう言うとフォンセは嬉しそうに口の端を釣り上げた。
それからフォンセはうんうん悩む私に文句ひとつ言わずに付き合ってくれて、フォンセの意見も取り入れながら髪飾りを選んだ。
値段のことはこの際考えないことにした。だって怖い。
店主のお姉さんに簡単に可愛く見える髪の結い方や飾りの付け方も教えてもらってお店を出たころにはお昼を回っていた。
適当なお店に入ってお昼を食べる。
ここもフォンセは奢ってくれるといったけれど断固拒否した。
高い買い物をさせてしまったのにお昼もだなんて私が絶対に許せない。
自分の分は自分でちゃんと出します。そんな呆れた顔してもダメです。男のプライドなんてしりません。
ご飯を食べ終わって一息ついたところで着信音が響いた。
誰だろうと思いながらフォンセが出てもいいって言うので甘えると知らない声がして眉を寄せて無言を貫く。
様子がおかしいことに気付いたのはフォンセだけじゃなくて、電話の向こうの人間も同じだったようだ。
『おい、まさかもう俺のこと忘れてんじゃないだろうなバカ瑠璃』
「もしかして龍成!?」
『もしかしなくても俺だバカ。祭、来るんだろうな』
「うん! 友達も行くけどいいんだよね?」
『おう、お爺様も楽しみにしてる』
「そうなんだ。あ、でも私たち龍成のとこじゃなくてホテルだよ?」
『は?』
「お父さんがお爺さんのところは嫌だって」
『…………おじ様がそうおっしゃるなら仕方ないな』
「フォンセとグレン、ジュリア……友達がいるからそっちの方がいいだろうって」
『待て。夜闇侯の子息も来るのか?』
「うん、一緒に行ってくれるって」
『…………』
「龍成?」
『なんでもない。浴衣、着るか?』
「うん、でもこっちで用意しちゃったから一式持っていくよ」
『わかった。……できたらお爺様にも会ってさしあげてくれ。瑠璃に会いたがってる』
「うん。またお父さんとご挨拶に伺うね」
『また連絡する』
「わかった。そっちは夜だよね? おやすみ、龍成」
『あぁ、お休み。瑠璃』
通話を終えるとフォンセはコーヒーを飲みながら待っていてくれた。
「随分、仲がいいんだな」
「そうかな? でもちょっとは仲良くなったかも! 最初は嫌味で嫌な奴だと思ってたんだけど、お祭り誘ってくれたし従姉だって認めてくれたのかな」
「お前、そいつと婚約話が持ち上がってたの完全に忘れてるだろ」
あきれ顔のフォンセに龍成はそんな気ないよと笑い飛ばす。
けれどフォンセはそうは思わないらしくて眉間に皺を寄せてどうだかと呟いた。
「大丈夫だよ! 私、お父さんより強くてカッコいいひとじゃないと結婚なんかしないもん」
「…………。あくまでも基準は龍哉か。先は長ぇな……」
「うん?」
「なんでもない。どこか寄ってくか?」
「もうちょっとうろうろしたいかな」
「わかった」
そう言ってフォンセは伝票を持って立ち上がった。私がそれに気づいて追いかけた時には既にお会計は終わった後で、自分の分のお金も受け取ってもらえず結局フォンセに奢られてしまった。
お店を出て荷物を車に預けたあと、フォンセと一緒に街をぶらぶらして帰りは電車とバスで帰った。




