第5話
会う人会う人が私の姿をみて固まれば流石の私も慣れる。
きっと今、荒んだ目をしているだろうと思ってしまうのは気のせいだ。
頬が引きつっているような気がするのも気のせいだ。
流石におじ様たちはすぐに綺麗だって褒めてくれたけどね。
フォンセとグレンはしばらく固まったまま動かなかったし。
ちょっと楽しみだと思っていたパーティーが急に億劫になる。
というか一緒にいる人たちがキラキラしすぎていてものすごく場違いな気がしてしかたない。
いろんな種類の美形に囲まれているごくごく普通の私は物凄く居心地が悪い。
「緊張するわよねぇ。私も慣れるまで相当かかったもの」
苦笑いの静奈さんが優しく声をかけてくれる。
けれどそれを聞いていたグレンたちは物凄く信じられない顔をして静奈さんを凝視した。
というかお父さんたちはともかく、どうしてアルセさんまで嘘言うなよって顔してるんですか。
静奈さん、笑顔が怖いです。アルセさん今更しまったって顔しても遅いですよ。グレンも笑ってる場合じゃないよ。あ、フォンセが視線を逸らした。
「なぁに? まさか私が最初からなんとも思わずにいたとでも思ってるの?」
「いや、その、」
「あれだけ堂々としてりゃなんともないと思うだろ」
「イヴェール何か言ったかしら?」
「ダメですよ、イヴェールさん。静奈さんは意外と繊細なところがあるんですから」
「この夫婦は……!!」
ヒクリと頬を引きつらせてプルプル震える静奈さんの額には青筋。
さっきまで詰め寄られていたアルセさんの顔色は蒼白。
おじ様はわざとだろうけれど、あえてきづかないふりをして、エアルさんは自分の失言に気付かずにほのぼのと笑っている。
「出るのやめるかい? せっかくだし、どこかで食事してドライブでもしよう」
「待て。ここまできてなにふざけたこと言ってやがる」
「そうだぞ、龍哉。こんなに綺麗になった瑠璃をひとり占めしようなんて俺たちが許しても息子たちが許さねぇ」
「彼らに許してもらわないとならない謂れはないよ」
「私たちも許しませんよ」
「食事もドライブも龍哉はいつでもいけるじゃない」
プクリと膨れたエアルさんと静奈さんに睨まれてお父さんは小さく舌打ちをする。
やっぱりお二人には弱いらしい。
そんな大人たちの様子を見つめていたらコツンと額を小突かれた。
目を瞬いてそちらに視線を向けると、どこか不機嫌なフォンセとグレンが恨めし気に私を見ていた。
「お前も嬉しそうな顔するなよな」
「龍哉とはいつでも出かけられるだろ」
不機嫌というよりも拗ねているらしい二人に首を傾げる。
揃って溜息を吐かれた。
「エスコートだって龍だし。瑠璃が龍のこと大好きなのは知ってたけどさ、せっかく綺麗に着飾ってるんだから俺たちにも構ってくれよ」
「……?」
「例えばほっぺにちゅー痛ぇ!
冗談! 冗談だよ! フォンセも龍も落ち着けって」
「随分と面白い冗談をいうようになったじゃないか」
「覚悟はできてんだろうな?」
「だから冗談だっていってんじゃん!
ごめん、俺が悪かったです! 調子に乗ってすみませんでしたっ!!」
「我が息子ながら成長がないわね」
「ふふ、相変わらず仲良しさんですね」
「どこをどう見たらそう見えるんだ?」
「瑠璃、あれはいつものことだから気にしなくていいぞ。
龍とフォンセなりのスキンシップってやつだ」
呆れた顔の静奈さんに微笑ましそうなエアルさん、心底分からないという顔をするおじ様に苦笑いのアルセさんに気にするなと言われて曖昧に頷く。
視線の先では相変わらず不機嫌なお父さんとフォンセに挟まれたグレンがひたすらに謝っていた。
なんてカオス。パーティーに出る前に疲れてしまった私はどうすればいいですか。
その素晴らしくカオスな光景はパーティーがはじまるギリギリまで続けられた。
いつの間にかパーティー会場へと早変わりした侯爵家のお屋敷で私はお父さんの腕にしがみついてプルプルと震えている。
肉食動物にしがみつく小動物……とかなんとかおじ様に失礼な事を言われた気がしたけど正直気にする余裕がない。
キラキラ集団に群がる人はやっぱりキラキラ……いや、ギラギラしているからだ。
私に向けられる視線はどれも決して良いものではなかった。
特にお父さんがおじ様たちと一緒にお仕事関係の人と話をするのに私の側を離れて、変わりにフォンセとグレンが側にいてくれるようになってからは酷い。
好奇の視線だったものが一気に敵を見る目になった。遠慮のない同世代、もしくは少し上の女の子たちからの視線が痛い。
視線だけで人が殺せるなら私はこの数時間だけで何度死んだことだろう。
私が女の子たちから殺人ビームのような視線を向けられているというのに原因であるフォンセとグレンは気付いているのかいないのか側から離れてくれないから女の子たちの視線から逃げようがない。
私は必死にお父さん早く帰ってきてっと願うしかなかった。
それが間違いだということに気がついたのはお父さんたちが帰って来たすぐ後だった。
更新できるうちにしておこうかと。
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