第45話
いよいよ今日はイベント当日。
特殊科の生徒はみんな自分たちの教室じゃなく体育館に集まる。
クラス学年を超えて人が集まっているから知らない顔がたくさんある。
模擬線の時はグループで別れていたし、いくつかの場所にわかれてやっていたから人の多さに驚いた。
特殊科の生徒は少ないとはいってもこうして集まってみるとちっとも少なくない。
「瑠璃、やられるまえに殺るわよ!」
「それ、なんか違うくない?」
「甘いよ。瑠璃。
今日はいつものグループの枠を超えて潰したいやつを潰す日なんだから」
「そうそう」
「それもなんか違うよ!?」
気合十分のジュリアにクラスメイトの怖い発言で割り込んでくる。
ちょっと待ってそんなに怖い日だったの!?
「まぁ、たいていはフォンセ様とグレン様のところに行って返り討ちにされるけれど」
「今回は瑠璃のところにもくるんじゃないかなぁ」
「免除されるメンバーって毎回大体同じだもんねぇ」
「諦めてるやつらにとっては憂さ晴らしや腕試しだからね、このイベント」
いつもの始業のチャイムとともに特殊科の主任の先生が前に立ちマイクで注意事項を話し出す。
武器は学校に登録している普段自分が使っているものとご褒美として支給されたもののみ使用を認められる。
戦闘になって相手からぶんどるのはあり、隠されているお宝1つにつき2名まで免除されるのでペアを組むのもあり、もちろん単独行動もオッケー。
終業のチャイムがなった時点で隠されているお宝を手にしていた者(ぺア)がこれ以降夏休みまでの授業免除の権利を得る。
つまり終業のチャイムがなるまでは妨害・強奪OKだから見つけたお宝を死守しなければならない。
など中々にゆるいルールだった。
「瑠璃!絶対にお祭り行くわよ!」
「うんっ!!」
握りしめた刀と剣の刃を軽くぶつけあう。
先生のはじめ! の合図で私たちは走り出した。
はずだった。
「ちょ、いきなりーーー!?」
「嘘でしょーー!? 女子はまっさきに宝探しに行くんじゃないのぉおお!?」
話が違う!! と心の中で叫びながらあたりを見渡すと私たち以外にもいくつか人が群がっている場所があった。
その中には女子は真っ先に宝探しに行くだろうから大丈夫だと笑っていたフォンセとグレンのものらしき集団もある。
もちろん、私たち以外のところに群がっているのは男子ばっかりだ。
「可愛いけど! 妹に欲しいけど! でもやっぱりフォンセ様に可愛がられの羨ましいんだもんんん!!!」
「瑠璃ちゃんの独り占め反対―!」
「私にも撫でさせてーーーー!」
「グレンツェン様独占禁止―――!!」
これはもうしょうがないよねとジュリアを見ると真剣な顔で頷かれた。
どうやら考えは同じらしい。
「ごめんなさいいいい!!」
「失礼しますぅううう!!」
一番人の壁が薄いところに切り込んで私たちは脱兎のごとく駆け出した。
閃光弾をひとつ投げるのも忘れない。
こんなのいちいち相手にしてられないというか怖すぎる。
「女の先輩をはじめて怖いと思った」
「私はこっちに来たときから思ってたよ」
ひとまず校舎の影に身を隠して先輩方や後輩、同級生たちがあらぬ方向を探しているのを確認してほっと息を吐く。
「先輩たちモッテモテでしたねー」
「昂明くん!」
「もう出ないと思ってたのによかったわね、出られて」
「先輩ほんとうざいっす。ちょっとは瑠璃先輩見習ったらどうっすか?」
「うっざ。それで何? 昂明も瑠璃に挑みに来たの?」
「まぁ、そうっすね。でも健気な後輩はおねー様方に譲ることにします」
「見つけたーーーー!!!」
「いたわよーーーー!!!」
「っきた! ジュリア、来たよーーー!!?」
「バカ昂明!! 女性恐怖症になったらあんたのせいだからねぇええ!!!」
そうして私たちはまた走り出した。
逃げて隠れてひたすら逃げて正直もう、宝探しどころじゃないです。閃光弾もつかっちゃったし。
ジュリアともはぐれちゃったしどうしよう。
というか、ここ、どこですか……?
あたり一面緑でいっぱいです。というかどこを見ても木なんですけど。
まさかの遭難!?
どうしよう。どっちから来たっけ?どっちに歩けばいいの?
カサッ
「………」
振り返った先にいたものと目が合ってしまった。
さっと目をそらして見なかったことにしたけどじぃいいっと視線を感じる。
カサッ
ち、近づいてきてるぅうううう!!
どうしろと!?ホントにどうしろと!?
これならまだ先輩たちに追いかけられてる方がいいよぅ。ぐすん。
ツンツン
「……なぐさめて、くれるの??」
ツンツンツンツン
「いだっ、痛い痛いです! 鹿さん!!! って、首に何かつけてる……?」
「それが今回の宝探しの景品だ」
「フォンセ!?」
ガサリと音がしたと思ったら聞き覚えのある声がして鹿さんが私のもとを離れて音のほうに突進する。
うまくかわして鹿さんを撫でているフォンセが驚く私におめでとうとほほ笑んだ。
「でもジュリアが……」
「そっちも大丈夫だ。グレンと一緒にいる」
「へ?」
「ジュリア嬢はバラ園で無事お宝を見つけたみたいだぜ」
「本当!?」
「あぁ。じゃあ行くぞ」
「え?」
「迷子のままでいるつもりか?」
「ま、迷子じゃない、もん……」
尻すぼみする私の声にくつくつと笑いながらフォンセが私の手を引く。
ずるい。こうして優しく手を取られたらなにも言えなくなる。
恥ずかしいのに嫌じゃなくて、照れくさいのに嬉しくて胸がぽかぽかする。
「フォンセ?」
連れてこられたのは森の出口じゃなくて森のさらに奥にある湖のほとり。
こんなところあったんだ。というかますますここは学校とは思えない。
どうして学校に湖!? しかもすっごく綺麗なんですけど!!
「気に入ったか?」
「うん!」
私の答えに満足したように笑ってフォンセは大きな木の根元に座り込んで目を閉じた。
「寝ちゃうの?」
「時間まで暇だろ。お宝の番はルーシーがしてくれる」
お前も寝ろと隣をポンポンとたたくフォンセに従って腰を下ろす。
ルーシーも任せておけとひと鳴きするとフォンセのそばに足を折った。
フォンセは鹿さん、ルーシーと仲良しらしい。
なんか可愛いなと思いながらしばらく湖を眺めていると隣から寝息が聞こえてくるようになった。
疲れてるのかな。
そうだよね。
特殊科だけじゃなくて学校全体のことを考える監督生のお仕事しながらおじ様のお手伝いしてるんだもん。
「お疲れ様」
小さく囁いて私も目を閉じた。
何故かフォンセさんは鹿と仲良しです。
きっと森のなかでサボってるうちに仲良くなったんでしょう(笑)
今回もお付き合いくださりありがとうございました!
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