第43話
「瑠璃ちゃんご機嫌ですね。何かいいことありましたか?」
「龍成がお祭りに誘ってくれたんで、す……?」
和やかに始まったはずのお茶会に急に立ち込めた暗雲に首をかしげる。
可笑しいな、空気が凍るようなこと言ったかな?
冷気の発生源をそぉっと探るように視線を動かす。
にこにこ笑顔のエアルさん、何故かちょっぴり呆れた顔をするおじ様、口元を引きつらせるアルセさんとは反対に面白いものを見つけたように口の端を釣り上げた静奈さん、笑顔の怖いグレンと真っ黒なオーラを背負ったこれまた何故か機嫌の悪そうなフォンセ、我関せずでコーヒーを飲んでいるお父さん。
ちょっと待って。
明らかに冷気の発生源である二人に私、挟まれてるんだけど。
え? なに? なんで急にこうなっちゃったの? 助けを求めるようにお父さんを見るとと呆れた目が私を見下ろした。
「龍成って、誰?」
「い、従弟……??」
にっこり笑顔のグレンに怖々と答える。
確認するようにお父さんを見たフォンセとグレンにお父さんはしれっとした顔で補足説明を付け足した。
「あの人がこの子と婚約させようとした僕の弟の息子だよ」
温度が一気に10℃くらい下がった。寒い。
「ちょっと待って、龍。俺、その話聞いてない」
「俺も報告されてねぇな」
訂正、もっと下がってます。
説明しろとお父さんを睨むおじ様とアルセさんに言ってなかったっけ? なんてふざけた返事をするお父さん。
あらあらどうしましょうと言いながらちっとも困った風に見えないエアルさんとふふふ面白くなってきた! と瞳を輝かせる静奈さん。
どういうことだ、詳しく説明しろと視線で訴えるフォンセとグレンに挟まれた私。
一気にカオスな空間となったお茶会に泣きそうです。
「で? その龍成とやらが誘った祭に行くのか?」
「う、うん、せっかくだから行こうかなって」
「……」
し、視線がいたい。私、なにか悪いことしましたか?
フォンセの視線にびくびく怯える私に凶悪な笑顔を浮かべたグレンがさらに問い詰める。
「ひとりで?」
「と、友達も誘っていいって言ってくれたからジュリアも誘って、フォンセとグレンも忙しくなかったら一緒にどうかなって、」
「俺たちも……?」
「ダメ、かな?」
「行く」
即答したフォンセは、いいの? と尋ねる暇もなくお前ひとりで行かせるくらいなら仕事くらい片づけると言い切った。
それにパチリと目を瞬く間にグレンも俺も行くからなと笑顔で凄んできた。珍しい。
「そうと決まれば浴衣よね! せっかくのお祭りだもの」
「さっそく選びましょうか!」
しっかり聞き耳を立てていた静奈さんとエアルさんがとってもいい笑顔で笑う。
ひくりと頬を引きつらせたのは私だけだったけど、頑張れよと私を見送る気満々だったフォンセとグレンに静奈さんの腕が伸びた瞬間ふたりの顔も引きつった。
「せっかくなんだからあんた達も浴衣着せてあげるわ。
アルセにって送られてきたのや龍哉のがあるから」
「なに勝手なこと言って」
「龍哉くんはイヴェールさんたちからのお説教で忙しいでしょう?」
「けちけちしないで貸しなさい。うちに置いてあるのなんてもう着ないでしょ」
そうと決まれば行くわよー! と元気いっぱいの静奈さんととっても楽しそうなエアルさんに連行される。
あの、お祭りまだ先なんですけど……なんて突っ込みはキラキラと瞳を輝かせるエアルさんと静奈さんには通用しない。ああでもないこうでもないと至極楽しそうなお二人の着せ替え人形にされる。
「どうして、こんなに……」
「あぁ、私の実家ヤのつく自由業してるのよ」
だから遠慮なく好きなの選んでね。ちょっと型は古いけどいいものばかりよ。
古いなんてとんでもないです。今流行のキラキラした浴衣よりこっちの方が落ち着いてて好きですなんて言ったのが間違いで俄然はりきったお二人に振り回されたのは言うまでもない。
いつの間にかメイドのお姉さんたちまで参戦してきて終わったころには私はもちろんフォンセやグレンまでもがぐったりしていた。
まぁ、私は二人の浴衣姿を見てすぐに復活したのですが。
……異国の民族衣装とは思えないほどに浴衣を着こなすフォンセとグレンに私たちのテンションが振り切れてお父さんたちまで巻き込まれたのはここだけの話。
こんばんは!
お茶会の後篇です。
次はジュリアのターン!(になればいいな。←)
今回もお付き合いくださりありがとうございました!