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夜闇に咲く花  作者: のどか
藤の翁編
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第41話


「悪いけど、僕はこの子と帰るから。

 婚約の話もこの子の意思次第。まぁ、今の龍成じゃこの子の相手は務まらないよ」


 私がお爺さんと話をする暇もなくお父さんはそれだけ告げると私の手を引いてさっさと歩き出した。

 後ろからお爺さんが何か叫ぶ声がしたけれどそれよりも私には確認しないといけないことがあった。


「婚約ってなに!? 龍成って誰!?」

「……? 知り合いじゃないのかい? 龍成はずっと君を見てたじゃないか」

「もしかしてあの見た目だけ儚げな美少年!?」

「なんだいそれ」


 クスリと笑うお父さんに事のあらましをきいてぞっとする。

 曰く、お爺さんはこのまま私とお父さんを連れて無理やり帰国するつもりだったらしい。

 そしてそのまま私は龍成(あんな意地悪な奴呼び捨てでいい)と婚約させられるとこだったらしい。

 お爺さんは言い出したら聞かないし、私一人なら簡単に丸め込まれただろうだって。なにそれ怖い。


「おじ様、せめて車、使ってください」

「龍成……。ありがたく使わせてもらうよ」

「おじ様!」

「君とならまた会ってもいい」

「っ! ありがとうございます!!」


 本当にうれしそうに笑う龍成をちょっと意外なものを見る目で見る。

 その視線に気づいた龍成はとたん不機嫌な顔をして私を睨んだ。


「あ、あんたとも会ってやらないでもない」

「べつにいいです」

「っく! る、瑠璃、龍成は一応君の従弟に当たるんだから会うくらいいんじゃないの?」

「お父さんが言うなら」

「……俺は、龍成。あんたは? まだ名前聞いてない」

「瑠璃」

「じゃあ、またな、瑠璃」

「うん。また」


 ずっと笑いをこらえているお父さんを横目に龍成にお礼とお別れを言って車に乗り込んだ。

 お屋敷についてまっすぐにおじ様の執務室に向かう。

 そういえば黙って抜け出してきたんだった。怒られるかな?

 ちょっぴり不安になってお父さんのスーツの端をつかむととってもいい笑顔を返された。

 覚悟しろとのことらしい。

 はぁと息を吐き出しておじ様の雷と向き合う覚悟を決めたところでお父さんが執務室のドアに手をかける。

 毎回思うけどノックは??

 何とも言えない顔でお父さんを見上げるとお父さんは顔を引きつらせて一時停止していた。

 そして聞こえてくる声に私もまた顔を引きつらせるのだった。


「親父!! 大変だ!!」

「どうした!?」

「瑠璃がいない!」

「「……。はぁ!?」」

「いないんだよ! 瑠璃が! 部屋にもどこにも!!」

「いないって、お前ら見てたんだろ?」

「何してやがるクソガキ」

「ふてくされて寝てると思ったんだよ!

 部屋に入ってくんなっつって入れてくれなかったし」

「それでも部屋からでりゃ、気付くだろうが」

「瑠璃の部屋は3階だし、女の子が窓から出られる場所じゃないだろ?」

「俺たちもそう思って油断したんだよ!!」

「まさか、」

「部屋中のシーツかき集めて窓から脱走してやがった!

 こんなもんだけ残して……!」


 差し出された小さな紙切れを見てイヴェールとアルセはヒクリと頬を引きつらせた。

 そこには女の子らしい丸みを帯びた文字で短く。


『お父さんを迎えに行ってきます。

 すぐ帰るので心配しないでください』


 とだけ書かれていた。


「軽ッ!! なに、このちょっと買い物行ってきますみたいな文!?」

「いや、間違いなく瑠璃はそのノリだと思う」

「あンのチビ……。

 仕方ねぇ。俺たちも動くぞ」

「その必要はないよ」

「「「「龍哉!」」」」

「馬鹿娘ならちゃんとココにいる」

「「「「瑠璃!!」」」」

「た、ただいま、もどりました……」

「怪我は!? どっか痛いとことかないか? なんかひどいことされてねぇか?

 あーもうっ、無茶してんじゃねぇよ」

「え、えっと、大丈夫です。ごめんなさ……」

「……チビ」


「ハイぃいいっ!!」


 地を這うようなドスの利いた声に私は飛び跳ねて返事を返した。


「まぁ、座れ」

「は、はい」


 グスンと涙目になって鬼の前に正座する。

 あえてソファーに座らなかったのは私なりに空気を読んだ結果である。

 だって鬼がいる。その背後にも鬼がいる。

 そして味方はいない。

 お説教が終わるころにはすっかり精根尽き果て、ぐったりとソファーにもたれかかる。

 足の感覚はもう完全になかった。


「これに懲りたらひとりでつっぱしらねぇことだな。

 少なくとも俺は連れていけ」

「……うん。ごめんなさい」


 さっきまで怒っていたとは思えない優しい声でそう囁いて大きな手で私の頭を撫でるフォンセに素直に頷く。

 そのまま心地よい手にすり寄るようにして目を閉じた。


「お帰り瑠璃。無事でよかった」


 意識を手放す寸前、心からほっとしたような声がそう囁いて頭に温かい何かがふれた気がした。




おはようございます!

これにて藤の翁編完結です^^*

次からはまた学校のお話に移る予定(は未定)です。


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