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夜闇に咲く花  作者: のどか
藤の翁編
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第39話

 いつも、どんな時も絶対に手を差し出してくれた。

 いつも、文句をいいながら私のことを守ってくれた。

 だから、今度は私がお父さんを迎えに行く。

 絶対に、絶対に、連れて帰ってくる。




 広いお屋敷のなかを人に会わないように慎重に進む。

 今、お父さんがどんな状態で、どこにいるかなんて検討もつかない。

 冷静になれ! と言い聞かせるも大した意味はなかった。


「そこで何をしている」


 やばい。気づかれた。

 それにしてもちょっと早すぎるんじゃないの自分。


 混乱する頭で声のした方を振り向く。

 そこにいたのは私とそう年のかわらない少年だった。

 サラサラの黒い髪に白い肌、まるで小説にでてくる肺を病んでサナトリウムかなにかで療養している薄幸の美少年って感じだ。

 自分でも随分と具体的な例が出てきたなと思わないでもないけれど混乱した頭に浮かぶだけ印象的な容姿をしているんだからしかたない。


「お前……もしかしてお爺様が仰っていたやつか」


 嫌そうに顔を歪めた少年をどうするべきかと悩む。

 流石になにもされていないのに手をあげるのはちょっとどうかと思う。でも人を呼ばれたら困るし。

 一番は味方に引き込むことだけど取引できるだけの材料も話術もない。


「答えろ」

「お爺さんに招待はされました」

「ならこんなところで何をしている。親父と談話室にいるはずだろう」

「探しものをしてきてもいいとお許しをいただいたので」

「探しもの、ね。探し人のまちがいだろ?」


 嘲笑をこぼす少年にむっとするけど、ここで怒ってはダメだ。

 落ち着け、冷静になれ、と呪文のように繰り返す。


「いいよ。案内してやる」

「え?」

「おじ様に会わせてやるっていってんの。俺はさっさと国に帰りたいからな」


 呆然とする私に少年はさっさと背を向けて歩き出した。

 一瞬罠かもしれないと思ったけれど、当てもなくさまようよりもずっといいと思って大人しく少年についていくことにする。


「素直についてきちゃっていいわけ?」

「……貴方ひとりならどうにでもできますから」

「へぇ、言うじゃないか。案内するのやめてもいいんだけど」

「それならそれで結構よ。自力で探し出すもの」

「俺に見つかっておいてお爺様にバレないように探せると思ってんの?」

「うぐっ、」

「ハッ、こんなのがあの龍哉おじ様の娘なんて世も末だな」

「、そんなの、私が一番わかってるもん」

「な、なんだよ。こんなことくらいで泣くなよ!」

「泣いてない!!」

「……あっそ」


 儚げな美少年なのは見た目だけだ! 嫌な奴!!

 それでもお父さんの所に案内してもらうためだからしかたない。

 連れていかれたのはお屋敷の奥深く、地下につながる階段だった。


「なぁ、これが罠だったらあんたどうするの?」


 最終確認と言いたげにニヤリと意地悪く笑う少年をまっすぐに見据える。


「感謝するわ。罠だろうとなんだろうとお父さんに一歩近づくことができたんだもの」

「……。罠じゃない。ちゃんとおじ様はいるよ。この先に」


 さっさと行けよ。と鍵の束を渡してくれた少年にありがとうと囁いて地下に続く階段を駆け下りる。

 嫌な予感がする。だって地下室って嫌な想像しかできない。

 お父さんが大人しく捕まるわけないし、でもこんな状況なだけに地下ってだけで座敷牢とかを想像しちゃうし、お父さんが捕まってるなら私一人で太刀打ちなんてできないし、でも会いたいし。

 あぁあもう!!

 ぐちゃぐちゃの頭で焦る足をなだめながら慎重に中をうかがう。

 がらんとしたそこにはいくつかの区切りがあって、本当に座敷牢みたいな場所だった。

 ひとつひとつ確認していく中で誰もいないことにほっとするやら、実は罠だったんじゃないのかという疑念が湧き上がるやらで、心臓がバクバクとうるさい。

 ガシャンと何かがこすれるような音がして慌ててそちらに目を向けると目を見開いたお父さんと目があった。


「どうして来た!!」


 はじめて見る余裕のない顔。

 おじさまたちと喧嘩しているときより、お仕事している時よりずっとずっと怖い顔。

 だけど、ここで退くわけにはいかなかった。

 負けるわけにはいかなかった。嬉しさと同じくらい恐怖ですくむ足を一歩お父さんに近づける。


「迎えに、来たの」


 ギリリっとお父さんが奥歯を噛むのを感じた。

 殺気ともとれる苛立ちが膨れ上がる。

 それに怯んで下がってしまいそうになるのをぐっと踏みとどまって言葉をつづけた。


「私のお父さんは、お父さんだけだもん! お父さんじゃなきゃ、いやだよ……」


 ポタリと滴が頬を伝って弾けた。

 お父さんが息を飲む。痛いほど鋭く研ぎ澄まされた空気が揺らいだ。

 私はそれに気付くことなく喉をひくつかせながら言葉を紡ぎ続けた。

 気が付けば鉄格子をぎゅうと握りしめて情けない顔でお父さんに縋っている私がいた。




いつもお付き合いくださり、ありがとうございます!

昨日から怒涛の更新をしておりますが、この勢いがいつまで続くかは不明です←

龍哉と藤の翁のお話が一区切りつくまでは頑張ります!

あとちょっと!!


お気に入り、評価、拍手、ありがとうございます!

誤字脱字報告・感想などなどいただけると喜びます><


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