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夜闇に咲く花  作者: のどか
藤の翁編
37/129

第37話

 部屋に戻ってふかふかのベッドにダイブする。

 おじ様としゃべっているときは何も思わなかったのに、ひとりになると急に心細くなる。

 お父さんが家を空けることなんてここに来る前だってたくさんあったのにどうしちゃったんだろう。

 ゴロンと体制を変えてため息を吐いた。


「瑠璃!!」


 ノックもなしに部屋に飛び込んできたフォンセとグレンにぎょっとして起き上がる。


「な、なななに!?何かあったの??」


 思わずベッドの上で正座してしまった私は怖い顔のフォンセとグレンを見て、そっと目をそらした。

 自分でもだんだんと顔色が悪くなってしまうのがわかる。


「フォンセ? グレンくん?」


 にっこり笑ったエアルさんが優しくフォンセとグレンの名前を呼ぶ。

 その後ろには口元を引きつらせたおじ様とやっちまったという顔をするアルセさんの姿があった。

 エアルさんに名前を呼ばれた二人はピクリと肩を揺らせてぎこちなく振り返って動かなくなった。


「チビ、悪かったな」

「い、いえ。大丈夫です」

「こいつらはこのままお説教部屋に連行するからゆっくり休めばいいよ」


 申し訳なさそうな顔をするおじ様とパチンとウィンクするアルセさんに引きつった笑みを返す。

 にっこにこの笑顔で無言の圧力をフォンセたちにかけていたエアルさんもこちらを見て申し訳なさそうに眉を下げた。


「本当にごめんなさいね。瑠璃ちゃん」

「だ、大丈夫です」


 エアルさんは怒らせないようにしようと心に固く誓う私にエアルさんはもう一度ごめんなさいと謝るとフォンセたちに振り返った。


「さぁ、いきましょうか?」

「はい」

「すみませんでした」


 別人のようにおとなしくなった二人を引き連れて去っていくエアルさんの後に、遠い目をしたおじ様とちょっぴり楽しそうなアルセさんが続く。

 その後姿を見送ってからパタンと扉を閉めた。


 あ、嵐が去った。


 というかフォンセたちは一体何の用だったんだろう。

 また怖い顔をしていた。グレンまで。

 怒らせるようなことしたかなぁ。


 目を閉じていたらいつの間にか眠ってしまっていた。

 夕闇に染まった部屋をぼんやりと見渡してからゆっくりと体を起こす。

 無性に人恋しくなって部屋を出た。

 談話室に行けば誰かいるかと思っていたけれど覗いてみてもそこには誰もいなかった。

 沈む気持ちを引きずって人を探してお屋敷の中をそぞろ歩く。


「じゃあなんで龍は帰ってこねぇんだよ!!」


 イラついたようなグレンの声にハッとして声のする方に近づく。

 お父さんが帰ってこない?

 だっておじ様はお爺さんのところにお父さんはいるって。心配ないって。


「瑠璃にまで近づいてきたんだぞ! 落ち着いてられるか!!」


 冷静さをどこかにおいてきてしまったようなフォンセの声をたどるとそこはおじ様の執務室だった。

 ダメだと考えるよりも先に足が進む。

 けれど、最後の一歩が踏み出せなくて扉の前で震える指を握りしめた。


「瑠璃ちゃん、」


「エアルさん……」


 泣きそうな顔をしている自覚はあった。

 だけどそれ以上にエアルさんが泣き出しそうな顔をしていたから、それ以上何も言えなくて。どうしていいかわからなくて。

 気になるのに、エアルさんの悲しそうな瞳がその先には踏み込んではいけないと私を戒めるから、扉の先に進むことができなくて。

 そっと抱きしめてくれたエアルさんにぎゅうっとしがみつく。


「大丈夫。大丈夫ですよ。だって龍哉くんですもの」


 そういって私を抱きしめる腕に力を込めるとエアルさんはやんわりと私を離して私の手を取った。

 そのままゆっくりとおじ様の執務室から離れていく。

 自分では踏み込むことも遠ざかることもできなかったのに、エアルさんに手を引いてもらうだけでこんなにも簡単に足が動く。

 談話室で温かいお茶を淹れてもらいながらエアルさんの手を握りしめて少しだけ泣いた。

 ぐちゃぐちゃの頭の中を少しずつ整理するように支離滅裂な私の言葉を黙って聞きながら不安に泣く私を大丈夫ですよと抱きしめてくれた。


「ごめんなさい」

「謝らないでください。瑠璃ちゃんが悪いわけじゃないんですから」

「でも、」

「嬉しかったんです。瑠璃ちゃんに頼ってもらえて。だからそんな顔をしないで」

「エアルさん……。ありがとうございます」

「どういたしまして」


 柔らかく笑うエアルさんに照れ笑いを返して部屋に戻る。

 エアルさんはここにいてもいいんですよと心配してくれたけれど、疲れたのでもう休むと誤魔化した。

 断片的にしか聞こえなかったけれど、聞いてしまったお父さんの話を考えるために。


 お父さんがお爺さんのところにいるのは間違いない。

 だけど、フォンセやグレンが心配するくらいにお爺さんはやり手で、お父さんは簡単に帰ってこられない状況にある。もしかしたら危ない状況なのかもしれない。

 でもその割にはおじ様たちは落ち着いていた。

 焦っているのはフォンセとグレンだけ。でもあの二人が焦るだけのことはある。

 わからない。情報が全然足りない。

 でも今の私には情報を集める術がない。

 なんにせよ鍵を握っているのは広場のお爺さん―――お父さんのお父さんだ。

 だったらお爺さんに会えばいい。

 私は招待をもらっている。お爺さんの『会わせたい人』が誰かわからないけれど、今の状況だとお父さんの可能性もある。

 なら、会いに行けばいい。

 明日はちょうど休みだし、広場に行けばお爺さんがいるかもしれない。

 いなくても、探せばいい。

 有名な人みたいだし、ジュリアに聞けばなにかわかるかもしれない。ううん、ジュリアはきっと調べてる。

 私と同じでフォンセの態度に疑問を持ったはずだから、最低限の情報はジュリアに聞けば何とかなるはず。

 そうと決まれば今日はゆっくり休んで明日に備えないと。


 私は明日のことだけを考えて目を閉じた。



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