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夜闇に咲く花  作者: のどか
藤の翁編
36/129

第36話


 強引に乗せられた車で考える。

 一体何が起きているんだろうと。

 こんな時にお父さんがいればいいのに。


 様子の可笑しいフォンセとグレン。出張中のお父さん。おじ様の言葉。お爺さんへの異常な警戒。

 小さな違和感が不安を呼び、どんどんそれが大きくなっていく。


「お嬢様」


 いつもは絶対に声をかけてこない運転手のおじさんがチラリとミラーを覗きながら声をかけてきた。

 “お嬢様”という言葉に一体誰のことかと思ったけれど、この車には運転手さんと私しか乗っていない。ということは……。


「お嬢様。大丈夫ですよ。

 詳しいことは私にはわかりかねますが、お嬢様にはボスも奥様も坊ちゃまもついておられます。龍哉様もすぐにお戻りになられますよ」

「ありがとうございます」

「やはりお嬢様は笑顔のほうがお似合いになる。

 ……さぁ、つきましたよ」

「本当にありがとうございます。運転手さん。元気でました」

「それはようございました」


 ドアを開けてぺこりと一礼をした運転手さんに小さく笑って屋敷に入る。

 出迎えてくれたのはエアルさんだけじゃなく今日はおじ様までもがホールで私のことを待っていた。


「チビ、帰ったか」

「おじ様……?」

「龍哉がいなくて寂しがってるチビの顔を見ようと思ってな」


 ニヤリと意地悪くおじ様が笑う。

 いつもなら頬を膨らませて反論するところだけれど今日はおじ様の本意を探るためにじっとおじ様の顔を見つめた。


「なんだ?」

「私が知ってはいけないことですか?」

「そうだと言ったらどうする?」


 真剣な顔と試すような言葉に怯む。


 どうすればいいかわからない。だけど、今は知りたい。今回のことは私も無関係じゃない気がするから。ううん。きっと関係しているからフォンセたちの様子が変だったんだ。あの怖い顔もきっと……。


 目をそらさずにいると今度は愉しそうにおじ様の唇が歪んだ。


「部屋に来い。教えれる範囲で今なにが起きてるか教えてやる」


 そう言ってくるりと背を向けたおじ様にエアルさんが驚いた顔でおじ様を見た。

 その瞳は少しの非難さえ含んでいたけれど、やがて諦めたように浅く息を吐いてフォンセが怒りますよと小さく呟いた。


「知るか。自業自得だ。それよりお前も来い」

「はいはい」


 とっても愉しそうなおじ様にエアルさんもくすくす笑いながらついていく。

 おじ様達のやりとりに目を丸くしていた私もエアルさんの私を呼ぶ声に慌ててその後に続いた。


 おじ様の執務室のふかふかのソファーに腰かけてエアルさんが入れてくれた紅茶を飲む。

 隣にはにこにこ笑顔のエアルさんが座っていてとても真剣な話をする空気ではない。

 おじ様もエアルさんが入れたコーヒーを飲みながらくつろいでいるし。


「おじ様、」


 焦れた私の声におじ様は苦笑いをこぼした後、真剣な顔を作った。


「何から話すか。チビ、お前何が一番聞きたい?」

「フォンセたちが警戒してたお爺さんの正体!

 フォンセたちの様子が変だったのはお爺さんが関係してるんですよね?」

「ほらみろ。やっぱりあいつらの自業自得じゃねぇか」

「わかりやすかったですからねぇ。仕方ありませんよ」


 意地悪く笑うおじ様と困ったように眉を下げたエアルさん。

 真剣な空気を崩されて完全に肩透かしを食らった私に、おじ様はわざとらしく咳払いをして空気を元に戻した。


「その前に確認だ。その爺さんはチビが前に言ってた広場の爺さんで間違いないか?」

「はい」

「いつから?」

「はじめて会ったのはジュリアと遊んだ日です。

 えっと、フォンセたちと出かけた次の日」

「そんなに前から。流石だな」

「??」

「あー、その爺さんなんだがな、龍哉の親父さんだ」

「へ?」

「だから、あの爺さんは龍哉の親父さんで自分の後継者として龍哉を連れ戻しに来たんだ」

「……じゃあお爺さんの言ってた血の気の多くて家を飛び出しちゃったのがお父さんで、風の噂で聞いたお孫さんが私……??」

「そうなるな」

「え、え、えぇええ!?」

「それで今、龍哉は翁……その爺さんに会いに行ってる。予定ではもうとっくに戻ってるはずなんだがあいつにも色々と葛藤があるんだろう」

「フォンセたちが警戒してたのは……?」


 それだけならそんなに警戒する必要ない気がする。

 というか広場の不審者ってもしかして。


「龍哉が珍しく動揺したからな。

 あと広場の不審者も龍哉が自分の預かり知らないところでお前と翁を会わせたくないとごねたからだ。悪いな」

「……」

「まぁ、チビは変わらず龍哉が戻るまで大人しくしてろ。あいつらの安心のためにな」

「なんだかすっごく肩透かし食らった気分です」

「ククク、そう言うな」


 わしゃわしゃとおじ様は私の頭を撫でる。

 なんとなく釈然としない気がしないでもないけれど、おじ様がそういうのならきっとそうなんだろうとも思う。


 結局それ以上は聞かずに、アルセさんが来るまでおじ様とエアルさんとおしゃべりしながらお茶を楽しんだ。






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