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第３３話

　朝起きたらお父さんはすっかりいつも通りに戻っていた。

　その姿に安心してへにゃりと笑うと奇妙なものを見る視線を向けられる。

　むっとした顔を作って睨んでみたらさっさと朝食を食べて学校に行けと鼻であしらわれた。

　イラッとしないでもないけれどそれよりもいつものお父さんに戻ったことのほうが嬉しくて口元がゆるむ。

「本当にどうしたの？」

　まだ寝ぼけてる？　と失礼なことを言うお父さんの腕をつねってごはんを食べに降りる。

　今日はグレンも一緒みたいで眠たそうにパンをかじっていた。

「瑠璃」

　後ろからかけられた声にくるりと振り返える。さっきの仕返しはなかった。

「今日からしばらく空けるから」

「いつごろ戻るの？」

「すぐ終わらせるよ」

「……はやく帰ってきてね」

「ストーップ！　なにその新婚さんみたいな会話。羨ましいんだけどっ！！」

　さっきまでの寝ぼけ眼が嘘みたいにグレンが叫ぶ。

　今まで黙っていたフォンセがものすごく機嫌が悪そうにグレンのあたまに銃口をつきつけて黙らせた。

「るせぇ」

「すみませんでした」

　すごすごと謝るグレンをお父さんは呆れ顔で見たあと視線を私に戻す。

「寄り道せずに帰るんだよ。誘拐されても僕は助けにいけないからね」

　お父さんの言葉にあくびをかみ殺していたフォンセが吹き出す。

「誘拐なんかされません！！」

　キッとお父さんとフォンセを睨み付ける。

「どうかな。君は少し抜けてるところがあるから」

「そんなことないもん！」

「……広場。不審者が出るらしいから近づいたら駄目だよ」

「え？」

　そうなの？　と確かめるようにフォンセとグレンを見たら苦笑いで頷かれる。

「ほら、そういうところがあるから心配なんだよ」

　これみよがしにため息を吐くお父さんにむぅと膨れながらもしかたがないので黙って頷く。

　でも本当にそんな話聞いたことないんだけどな。

　それじゃあしばらくはあのお爺さんに会えないんだ。おじいさんの息子さんの話はなんとなくお父さんに似てて聞いてて楽しかったのに残念だ。

「不貞腐れてないでさっさと食べて学校に行きな」

「わかってるよ。いただきます」

　綺麗に並べられた美味しい食事を平らげて身支度を整える。

　珍しいことにいつもはエアルさんだけなのにお父さんまで見送りをしてくれた。

　しばらく出張だからたまにはいいだろう、だって。

　確かにこっちに来てから初めての出張だけど、向こうではそんなことめったにしなかったのに。

　朝食前のことといいなんだか今日は心配性だな。

　ほとんどフォンセとグレンが一緒なのを知ってるくせに。

「瑠璃？」

「今日は妙に心配性だと思って」

「可愛い娘だから仕方ないんじゃね？」

「お父さんのキャラじゃない」

「……龍哉だってたまには父親らしいこともするだろ」

「そうかなぁ。でもお父さんだよ？」

「お前は本当に龍をなんだと思ってんだよ」

「これでもかってくらいにお前のこと溺愛してるだろう」

「溺愛？　誰が？　誰を？」

「………。俺やっぱり瑠璃のこと心配」

「俺も」

　呆れた顔でそんなことを言われても困る。だってあのお父さんだもん。溺愛なんてコトバ似合わないじゃない。

　その日はモヤモヤしたまま一日を過ごした。ジュリアに公園の不審者のことを聞いてみたけど知らないって言ってたのも気になる。

　結局、フォンセたちが言うなら気を付けろってジュリアにも釘をさされてしまったのだけど。

「チビ」

「おじ様！」

「龍哉がいないと寂しいか？」

「そ、そんなことないです！　お父さんはお仕事だし！」

「クク、そうか。悪いな。あいつにしか頼めない仕事なんだ」

「おじ様！」

「何か悩みごとか？」

「……悩みってほどじゃないですけど、なんだかモヤモヤして」

　気が付くと朝から感じているモヤモヤをおじ様に話していた。

　おじ様は時々黙って話に付き合ってくれた。

　話が終わるとくしゃりと私の頭を撫でて口の端を釣り上げて笑う。

「チビ、その違和感大事にしろ」

「おじ様？」

「お前が身を守るうえで大切なものだ」

「はい」

「それと、広場の不審者の件はきちんと気を付けろ。

　チビやお前の友達が知らなかったのはうちが仕入れたばかりの情報だからだ。

　あいつらはそこら辺がマヒしてるところがあるからな」

　知っていて当然だと思ったんだろう。と続けたおじ様に素直に頷く。

　モヤモヤが完全になくなったわけではないのだろうけどスッキリした。

　おじ様に話を聞いてもらってよかった。

　そう思いながら広場にはしばらく近づかないようにしようと改めて心に決めた。

　おじいさんとお話できないのは残念だけど仕方ない。

　というかフォンセたちがきっと近づけさせてくれないだろう。

　談話室から出ていくおじ様を見送ってから私も自分の部屋に戻った。

いつもお付き合いくださりありがとうございます！！

相変わらず不定期更新になりますが、次回もよろしくお願いします＾＾*

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