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夜闇に咲く花  作者: のどか
藤の翁編
32/129

第32話

 お茶を終えてもエアルさんは私と一緒にいてくれた。

 談話室で好きなことをしながら時々おしゃべりして気が付けばいい時間になっていた。


「もうこんな時間。そろそろ寝ましょうか」


 イヴェールさんたちは遅くなるみたいですし。

 そう笑うエアルさんに素直に頷いて部屋を出る。

 ちょうどそのとき玄関が騒がしくなってお父さんが私を呼ぶ声が聞こえた。


「お父さん……?」

「あら、どうしたんでしょうね」


 エアルさんと顔を見合わせて玄関のほうへと歩く。

 ひょっこりと顔を出せばお父さんがひどく安心した顔をした。


「おかえりなさい。随分と早かったですね」

「チビに確認しなきゃならねぇことができてな」

「ならお部屋にお茶お持ちしますね」

「頼む。……そういうわけでチビ、少しいいか」


 ちょっぴり怖い顔をしたおじ様に戸惑いながらも頷く。

 緊張が伝わったかのようにフォンセが、たいしたことじゃないから心配しなくていいと私の頭をぽんぽんと撫でる。

 すかさずお父さんがその手を叩き落とした。


「気安く触るな」

「お父さん……」


 すっかりいつも通りなお父さんに安心すればいいのか呆れればいいのかなんとも言えない顔になってしまう私とは反対にフォンセはなれたように肩をすくめただけだった。

 おじ様は呆れ顔でそのやりとりを眺めながらエアルさんと少し話してゆっくりと歩きだす。

 私たちもそれに続いた。








 おじ様の執務室で来客用のソファーに座ってドキドキする胸を押さえる。

 なにかやらかしただろうか。グレンのファンのおかげで起きたあの騒ぎ以来、学校では大人しくしてるし、というかもともと目立つことなんてしないし。

 改めておじ様に聞かれるようなことは何もない、はず。


「そう固くなるな。フォンセが言った通りたいしたことじゃない」

「はい」

「チビ、藤原龍之介という人を知っているか?」

「学校にいる人ですか? クラスメイト以外はちょっと……」

「いや、学校の人間じゃない」

「うーん、外での知り合いは市場のおばさんと広場で会うお爺さんくらいしか」

「そうか。じゃあ最近変わったことはなかったか?」

「特にないですけど」

「わかった。時間を取らせて悪かったな。フォンセ、部屋まで送ってやれ」


 どうやら期待するような情報は得られなかったらしい。困り顔のおじ様とムスッとした顔で何かを考え込んでいるお父さんの様子に首を傾げながら部屋を出る。


「何かあったの?」

「いや、妙な話を聞いただけだ」

「妙な話?」

「たいしたことじゃない」


 気にするなと誤魔化すように笑うフォンセに何かあったことを確信する。

だけどそれは私が踏み込んでもいい話じゃないらしい。

 しばらくじっとフォンセの瞳を見つめてみたけど、教えてくれる気配がないのがその証拠だ。

 きっとお父さんの様子がおかしいのもそれに関係してるんだろうけど、私を関わらせたくないことならしかたない。フォンセたちはお仕事なんだし。


「わかった。……だけど必要になったらちゃんと教えてね」

「あぁ。約束する」


 少し困った顔をしながらもそう約束してくれたフォンセに微笑む。

 何かが起きている。今はそれしか分らないけど私に教える必要がある事態になるかはわからないけど、その時はちゃんと教えてくれるって約束したから大丈夫。

 お父さんの様子がおかしいのだってきっとすぐにいつも通りに戻る。

 そう自分に言い聞かせても不安は完全には拭いきれなくて、情けない顔になっている自覚があった。


「心配しなくていい」

「うん」

「それはそうと、広場で会う爺さんって誰だ?」


 不思議そうなフォンセにそう言えば話したことないなとお爺さんの話をする。

 時々何かを考えていたようだったけれど、最終的には呆れた顔でもう少し危機感を持てと言われてしまった。誘拐されるなよとも。

 私のことをなんだと思ってるのか切実に問いただしたくなるけれど私をからかうような笑みの裏側に本当に私を心配している色がみてとれるから何も言えなくなる。


「誘拐なんかされないもん!」

「もし誘拐されてもちゃんと助けに行くまでおとなしくしてろよ?」

「もう! だからされないってば!!」

「守ってやるよ。絶対な」


 さっきまでのからかうような声と何かが違う気がしてフォンセを見上げると相変わらず少し意地の悪い笑みを浮かべていた。でも確かに何かが違う気がしてその何かを探す。

 それに気づいたフォンセは少しだけ困ったように眉を下げて、だけどすぐにまたいつものようにふっと笑った。


「おやすみ、瑠璃」


 そうしている間にいつの間にか部屋の前に来ていて答えが分からないまま扉が閉まる。

 小さな違和感に覚えたのは不安じゃなくて安心で自分でもおかしいと思うくらいにフォンセの言葉が胸に落ちてきた。

 お父さんの様子やおじ様とのお話に不安を感じていたはずなのに不思議と大丈夫な気がした。




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