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夜闇に咲く花  作者: のどか
藤の翁編
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第29話

 街を案内してもらって行動範囲が広がった私はよく外に出かけるようになった。

 お屋敷のお庭を歩くだけでも十分いいお散歩になるのだけれど、パン屋さんや雑貨屋さんを覗きながらぶらぶらするのとはまた楽しみが違う。

 最初は過保護に迷子にならないかとか心配していたお父さんたち(本当に私を何歳いくつだと思ってるのか問い正したい)も、お土産や食料品を買って帰って料理するようになってからは色々とリクエストするようになってきた。

 いつの間にかエアルさんたちにまで広がってお食事を私が作る日まで設けられている。絶対お屋敷で働いてるシェフさんが作るご飯の方がおいしいのに解せぬ。

 それでも美味しいと喜んで食べてくれるのは嬉しいし、和食が食べれるのも嬉しいのでお願いされた日は快く作ることにしている。


「今日は何作るんだ?」

「フォンセ!」


 眠そうなフォンセが書類片手に声をかけてきた。

 きっと今までおじ様のお手伝いをしていたのだろう。


「一区切りついたの? お疲れ様」

「あぁ。それで?」

「まだ決めてないの。買い物しながら決めようかなって」

「そうか。……荷物持ち、いるか?」

「いいの? 疲れてるんじゃ、」

「俺も気分転換したいからいい」

「じゃあ、お願いします」

「ちょっと待ってろ」

「うん」


 柔らかい笑みをのせておじ様の執務室へと足を向けるフォンセの背中を見送って同じように口元をゆるめる。

 気分転換でも一緒に行ってくれるのは嬉しい。

 今日はフォンセの好きなものを作ろうと決めて玄関でフォンセが来るのを待つ。

 フォンセはすぐにやってきた。

 笑顔のエアルさんに行って来ますを言って二人並んで歩きだす。

 いつもはグレンも一緒だから二人きりでこうして出かけるのはなんだか新鮮な気がした。


「夜ごはん何が食べたい?」


 隣を歩くフォンセにそう尋ねると驚いた顔が私を見る。

 それがなんだか可笑しくて小さく笑いながら答えを待つ。

 いつもご飯をつくってくれるシェフさんほど美味しいものは作れないけど、エアルさんみたいにフォンセの好みの味付けはできないけど、でも、今日はフォンセの好きなものを作るって決めた。

 だから、なんでも来い! とじぃっとフォンセの答えを待つ。


「……たまごやき」

「え?」

「たまごやきが食べたい。この前食べた甘いやつ」


 思いもよらない答えにパチリと目を瞬く。

 たまごやき。

 なんだその可愛い答えは! これはもう、作るしかない。

 全力で甘い卵焼きを作らせていただきます!!


「分かった! 卵買おう! 他には?」

「和食がいい。あと肉」

「じゃあ肉じゃがにしよう」

「ふふ、可愛いカップルだねぇ。オマケしとこうね」


 いつの間にか市場のおばさんが微笑ましそうな笑みを浮かべて玉ねぎをひとつオマケしてくれる。

 カップル違う。兄妹でもないよ! と行く店行く店で勘違いをされて訂正するのも面倒になって苦笑いでやり過ごす。

 からかわれている間フォンセは無言だった。


 そうだよね。私と間違われるの嫌だよね。否定するのも面倒だよね。

 それでもきっちり荷物を私の手から奪って持ってくれるところは流石だと思います。

 帰ったら美味しいご飯作るからね。


「たくさん買っちゃった」

「そうか? 母さんはもっと買うぞ」


 一人で来る時よりも調子に乗っていろいろ買ってしまったと後悔する私にフォンセは不思議そうな顔をする。

 荷物持ちはおじ様とフォンセ二人が標準装備だそうだ。

 フォンセ一人の時も容赦なく買い物して持たされるから今日くらいの荷物はまだ少ないくらいだと言う。


「それでもありがとう。すっごく助かった」

「別に」


 それでも助かった事にはかわりないからお礼を言えば照れたようにそっぽを向く。

 これはもう腕によりをかけてご飯を作るしかないと本日何度目かの気合いを入れた。

 ちょうどその時フォンセのスマホが着信を知らせた。


「悪い、ちょっと待っててくれ」


 近くのベンチに荷物を降ろして少し遠ざかるフォンセを見送る。

 何かあったのかな、大変だなぁ。

 ぼんやりと難しい顔で話しているフォンセを眺めていると聞き覚えのある声が声をかけてきた。


「お買い物かい、お嬢さん」

「おじいさん、こんにちは」

「こんにちは。また会えて嬉しいよ」

「私もです」

「お隣よろしいかな」

「もちろん」


 いつかのおじいさんがにっこりと笑う。

 とりとめのない話で盛り上がる。

 おじいさんもお孫さんと話しているみたいで楽しいと言ってくれた。

 私もおじいちゃんがいないからおじいさんと話すのはとても楽しいしほっこりする。


「じゃあ、今夜はお嬢さんが腕を振るうんだね」

「はい、失敗しないように気を付けなきゃ」

「大丈夫、きっと美味しくつくれるよ」

「ふふ、頑張ります」

「あぁ、頑張って。

 おっと、随分話しこんでしまったね。私はそろそろ行くよ」

「さよなら。おじいさん」

「あぁ、またね。お嬢さん」


 おじいさんの背中がうんと小さくなった頃、電話を終えたフォンセが帰ってきた。


「遅くなった」

「ううん。大丈夫。帰ろう?」

「あぁ」


 今度はフォンセと取り留めのない話をしながらお屋敷に帰る。


 私たちはまだお父さんが不機嫌全開で出迎えてくれることも、この話を聞いたグレンが拗ねて次のご飯はグレンの好きなものを作ることになることも知らずに呑気に笑っていた。




○オマケ○

「瑠璃は出かけたの?」

少し心配そうな龍哉にふたりを見送ったエアルが一言。

「フォンセが一緒だから心配ないですよ」(にっこり)

「……」(イラッ)

その上で

「今日のご飯はフォンセのリクエストなの!」(笑顔)

と笑う瑠璃に更に面白くなくて不機嫌な龍哉(とそれに気付かない瑠璃)。



今回もお付き合いくださりありがとうございます!

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よかったら感想などいただけると喜びます。

って毎回同じ文面…。スミマセン!(逃



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