第25話
満面の笑みで帰って来た私たちにお父さんはピクリと眉を動かした。
「楽しかったかい?」
「うん! とっても!!」
それを不思議に思いながらも、聞かれたことに素直に答えるとぐぐぐっと眉間に皺が寄る。
「へぇ」
面白くないですと分かりやすいくらいに顔に出すお父さん。
流石に私にもそれが分かったところで生温かい目で私たちを見守っていたアルセさんがついに吹きだした。
「っク、アハハ! お前、今からそんな顔してっと瑠璃に彼氏ができたときどうす、」
不自然に止んだ笑い声にピシリと凍りついた空気。
「瑠璃に彼氏? そんなのまだ早いよ」
冷気の発生源であるお父さんは清々しいまでの笑顔でキッパリと言い切った。
「そ、ソウデスネ」
「早くなんてないわよ。瑠璃だってお年頃なんだから」
「そうですよ。いつどこで恋に落ちるかなんてわかりませんからね」
「ま だ は や い !」
誰もが顔を引きつらせる中、私ただひとりが笑顔でお父さんの顔を覗きこむ。
「お父さん、そんなに私に彼氏ができるのイヤ?」
「……」
「えへへ。まだ興味ないから安心していいよ。って痛い!」
「調子に乗るからだよ」
ぷいっと顔をそむけてしまったお父さんをニマニマ見つめながら叩かれた額を抑える。
眉間に刻まれた皺が深くなった気がしたけど気にしない。
ついでにお父さんの鋭い視線の先にいるグレンがヒクリと頬を引きつらせたのも見なかったことにした。
その隣でお父さんの視線を綺麗に無視しながらも私と同じくらい笑顔のエアルさんと静奈さんに絡まれているフォンセにも気付かないことにした。
あの顔のお二人に捕まるのを本能が拒否したというか危険を察知したとも言う。巻き込まれたらたまらない。
「チビ、帰ったか」
「おじ様! ただいまです!」
「その様子じゃちゃんと楽しめたようだな」
「はいっ! すっごく」
「そうか。
それでお前はいつまで拗ねてる気だ? 龍哉。ちゃんと機嫌はとってやっただろ」
「拗ねてない。それにあれは面倒な仕事を僕に押し付けただけでしょ」
くしゃりと私の髪を撫でながら呆れた顔をするおじ様をお父さんがキッと睨む。
「書類の束と閉じ込められる方がよかったか?」
「……。」
「まだ不満ならガキ共を貸してやる」
エアルさんと静奈さんの攻撃にあたふたしていた二人に向けて少し大きな声でそう言ったおじ様がニヤリと笑う。
「は……? 冗談だろ!?」
「ふざけんな」
なんて抗議の声が上がってもおじ様にもお父さんにも届かない。口角を釣り上げて笑う二人の中でそれは既に決定事項になっているようだ。
この世の終わりのような顔をするグレンと苦々しげに顔を歪めるフォンセに心の中こっそり手をあわせる。お父さんのスイッチが完全に入っちゃってる。
「あらあら、じゃあ私たちはテラスでお茶でもしましょうか」
「そうね。どうせ龍哉が満足するまで解放してもらえないだろうし。
今日のお話とかゆっくりじっくり聞かせてもらいましょう」
「俺も!俺もそのお茶会混ざる!!」
「テメェはこっちで仕事だ」
「やだやだー!! 俺も瑠璃とお茶するー!」
「こっちで僕の相手でもいいよ」
「お仕事させていただきます! ボス!」
瞳を輝かせて満面の笑みを浮かべるエアルさんと静奈さんに捕まってしまった私と獲物を前にした肉食動物のような目をしたお父さんに捕まってしまったフォンセとグレン。
私たちは逃げられない運命に遠い目をしながら、それぞれの戦場に向かった。
短いです。ごめんなさい^^;
なんかPCの調子が悪いみたいで…
今回もお付きあいくださり、ありがとうございます!
ブログの方にも遊びに来てくださる方がいて、ものすごく喜んでます><
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