第21話
お父さんとの放課後デートはこのゴタゴタのおかげで延期となった。ものすごーーーく不満。
けれど私よりももっと不満そうな顔でムスリとしているグレンのせいで拗ねるに拗ねられない。
というのも、私を呼びだしたグレンのファン(仮)の女の子を不問にしたからだ。
もう十分罰は与えた。
温室育ちのお嬢様にしては恐ろしい発想だったけれど、あんな目に合えば流石に懲りるだろう。
それは彼女の手下として動いていた男子生徒も同じ。年下のしかも明らかに格下だと思っていた女の子にボロボロに負けたのだ。プライドはボロ雑巾以下の状態だろう。
だからこれ以上はもういいと言ったのだけれど、どうやらグレンは不満らしい。
お父さんは呆れ顔だし、おじ様たちは好きにしろと仰ってくださったけどグレンの機嫌は直りそうもない。
「……瑠璃は優しすぎる」
ポツリと零された拗ねたような声に目を瞬く。
優しすぎるも何も男子生徒は病院送りだし、彼らに命令していた女子生徒は真っ青になって気絶。本物の殺気なんて浴びたことのない彼女はしばらく魘されるだろう恐怖を味わった。それのどこが優しいんだろう。ちっとも優しくないと思う。
それが顔に出ていたのか、グレンは眉間に刻まれている皺が深くなる。
居心地がいいとは言えない車の空気に溜息が洩れた。
それに反応するようにグレンの肩がピクリと揺れる。
「優しくなんてないよ。興味ないだけ」
お父さんとのデートを潰されたことはものすごくムカつくけどね。
そう付け足したらおじ様たちからものすごく残念な子を見る目で見られた。
お父さんまで呆れた顔しないでほしい。
ちょっと嬉しそうに口角が上がったのちゃんと見てるんだからね。
「……今回のは俺も悪いし。瑠璃がそれでいいならいい、けど」
ちっとも悪くないのに何故かグレンが悪いことになっていることに首を傾げながらグレンを見る。
「フォンセが問題だよな……」
あ、と声を漏らしたのは誰だったか。
その声を合図にどこか遠い目をしているグレンをおじ様たちが凝視する。
おじ様は頭が痛いと言わんばかりに額を抑えているし、アルセさんは笑みが引きつっている。
怖すぎるおじ様たちの反応に隣に座っているお父さんのスーツをひしっと掴んだ。
お父さんはひとり平然としていて怯える私を、まぁ、頑張りなよの一言で突き放す。
凍りつく私にグレンがこの話聞くと絶対ブチ切れるしなんて言って追い打ちをかけてくる。
それどころかおじ様たちまで
「……チビ、頑張れよ」
「大丈夫! 瑠璃ならできるって信じてる!!」
なんて言って私に丸投げしてきた。
ちょっと待ってどうしてフォンセがそんなに怖いことになるの!?
というかこれくらいのことでフォンセが怒る訳ない、なんていう私の声はグレンとアルセさんの生温かい微笑みに黙殺された。
え、なにその反応。本気で怖い。
お屋敷に帰るとおじ様たちが言っていたようにドス黒いオーラを背負ったフォンセが待ちかまえていた。
「うわぁ、もう耳に入ってるんだ」
「どこから嗅ぎつけやがった」
「末恐ろしい執着だな」
なんていう声は聞こえない。
ヒクリと表情を引きつらせる私にお父さんとおじ様は頑張れとでも言うように肩をポンポンと叩いてスタスタと先に行く。
アルセさんとグレンはひらひらと手を振りながら車の中で待機。助けてくれる人はいない。
「瑠璃、」
「は、はい!」
「怪我は?」
「ないです!」
むしろ怪我をさせた側です!
綺麗な翡翠の瞳に威圧するように見つめられながら緊張気味に返す。
低い声に含まれていた怒気が深い息と共に解放された。
「……あまり無茶するな」
「、心配かけてごめんなさい。」
ぐっと眉を寄せたまま翡翠の瞳が痛ましげに私を見つめる。
心の底からそう思っているだろう声と瞳に気がつくと誰よりも素直にそう答えていた。
それと同時に私の周りは一体どこまで過保護にすれば気が済むんだろうと思わずにいられなかった。
ちょっと呼び出されたくらいで大げさすぎる気がする。
特に今回は被害者と加害者が入れ変わってしまったというのに、ボロボロにされた相手ではなく私の心配なのか。
そう思っているのに、こうしてあからさまに心配されて、私を傷つけようとした相手に怒ってもらえると嬉しくなるんだからしょうがない。
自然と緩んでしまった口元を隠すようにすぐ目の前にいるフォンセの肩にこつんと頭を預けた。
慰めるように大きな手が頭を撫でてくれる。
それが気持ちよくてすっと目を細めたところで大きな手が離れていってしまった。
「話が済んだなら離れろ」
「俺と反応違いすぎじゃね!?」
ベリッと私とフォンセを引きはがしたお父さんとギャンギャンと騒ぐグレン。
何故か不機嫌全開の二人に助けを求めるようにおじ様を見ると、おじ様はゆるゆると首を振るだけで助けてくれそうにない。
フォンセも不機嫌なお父さんとバチバチやらかしていてこちらも助けてくれそうにない。
溜息混じりに大型犬のようにぎゃんぎゃん騒ぐグレンを宥めながら、二人の世界に入ってしまっているお父さんとフォンセを置き去りにしてお屋敷の中に入る。
もう勝手にしてください。
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