第20話
中々来ない上に連絡が取れない瑠璃に龍哉はしびれを切らして、いつも娘の周りをうろちょろしているグレンに連絡を取った。
とっくに校門に向かったという言葉に眉を寄せて詳しい話を聞くことにする。
合流するころには既に情報を集めていたグレンは難しい顔で瑠璃がとある女子生徒に無理やり何処かに連れて行かれたらしいことを伝える。
龍哉は小さく顔を歪めて瑠璃を探し始めた。
そこには面倒な仕事を息子に押し付けたイヴェールと瑠璃をひとり占めにするのはズルイといって強引にくっついてきたアルセの姿もある。
「対策はちゃんとしてたんだろ!?」
「当たり前だろ! 最近じゃ妹キャラとして可愛がられてる!!」
ギャーギャー騒ぐ親子に顔を顰めながら、イヴェールは気持ち悪いくらいに落ち着きはらっている龍哉を見た。
落ち着いているどころか、いつもは宥められる側の龍哉が煩いアルセとグレンに、あの子は心配ないよとさえ言っている。
瑠璃が連れて行かれたであろう場所はすぐに検討がついて今まさにそこに向かっている途中だが、その顔には一種の余裕が浮かんでいて焦っている自分たちが馬鹿みたいだ。
けれどパーティーでの一件もあって龍哉のように落ち着いてはいられない。
もし何かあると思うと気が気でない。そう思いながらも足を動かし続けてようやく辿りついた現場を見て表情を引きつらせた。
「ごめん。親父。何か、俺、アレだ。急用思い出したわ」
「あ、俺も。悪ぃな、イヴェール」
「……。待て。俺も重要な会議が入ってたのを思い出した」
「だから、あの子は心配ないって言ったじゃない」
呆れ顔でしれっと言い放った龍哉にアルセがくわっと口を開く。
「いやいやいや!」
「俺の知ってる瑠璃がいない! 笑顔の可愛い天使な瑠璃がいない!!」
「……俺の知ってるチビはあんな物騒なモン振り回したりしねぇ」
断固と主張する三人を龍哉は可哀相なものでも見るような目で見た。
「滅多に喧嘩なんて買わないけど、買った時は徹底的に叩き潰すようにしてるの」
その間にもにっこりと笑った瑠璃が青ざめた女の方へ向って来た男をブッ飛ばした。
「だって、また絡まれたらメンドウでしょう?」
「あ、あぁあ、」
「おまけに、あなたのおかげで私、珍しく怒ってるの」
「ごめんなさ、わたしがわるかった、あやまるから、」
ガキン
女の顔スレスレに日本刀が突き刺さる。
その拍子に女の長い髪が数本ハラハラと空に待って落ちた。
顔を真っ青にして酷い表情で気を失った女を見降ろして瑠璃は笑顔で吐き捨てた。
「足手まといのお姫様はどっちだろうね?」
「「「コレは夢だ。コレは夢だ。これは夢だ」」」
必死に自分に言い聞かせている三人に龍哉は呆れたように視線を向けたあと、つまらなさそうに気絶した少女を眺めている娘に近づいた。
「随分暴れたね」
「ん? そうかなぁ?? あ、でも一応全部生きてるよ。暫く病院生活だろうけど」
「……。俺の、俺の可愛い瑠璃が」
情けない顔でそうのたまったグレンに瑠璃は不満そうに唇を尖らせた。
「なぁに? 私は売られた喧嘩も買ったらダメなの?」
「ダメ! 女の子がそんな危ないことしちゃダメ!! 絶っ対っに!ダ・メ!」
くわっと吠えたグレンの勢いに瑠璃は怯えたように龍哉のスーツを思わず掴む。
「あぁもう! 怪我したらどうするんだよ!!」
「べ、べつにちょっとくらい」
「ダメ! 瑠璃は女の子なんだから、傷痕が残ったらどうするんだ!
そんなことしたら俺もフォンセも何するか分かんないからな!!
まぁ、お前に手ぇだした時点で潰すけど」
「「「「……」」」」
どうしよう。実は息子が一番怖いかもしれない。
龍哉とイヴェールの冷たい視線をヒシヒシと受けながらアルセは何かがキレてしまった息子を見た。
息子の暴走っぷりにすっかりいつもの様子に戻った瑠璃は、龍哉のスーツを握ったままフルフルと震えている。
イヴェールとアルセは心底思った。やっぱりこっちの可愛らしい瑠璃の方がいい。
総合評価100pt超えありがとうございますっ!!
もう嬉しくて嬉しくて…!!
いつも、お付き合いくださって本当にありがとうございます。
これからもどうぞ、よろしくお願いいたします!