第19話
Sグループの最終戦、フォンセとグレンの模擬戦は大いに盛り上がった。ジュリアたちが教えてくれたように一般生徒も集まってきて本当にイベントのようだった。
今までナイフしか使わなかったグレンがあらゆる暗器を駆使してフォンセが華麗にそれを叩き潰す。
今まで見た中で一番ハイレベルでドキドキする一戦だった。勝ったのはフォンセだけど、苦戦したらしくて終わった時には二人とも息が上がっていて小さな傷が幾つもあった。
見ごたえのある勝負に満足してホクホクの気持ちでお父さんとの待ち合わせの校門へと急ぐ。
いつも一緒に帰っているフォンセは侯爵家のお仕事が入ったらしく、模擬戦が終わったらすぐに早退した。
グレンは監督生のお仕事で一緒じゃない。
お父さんとのデートだから心配はないとものすごく悔しそうな顔で私を送り出してくれた。
なのに、これは一体どういうことですか。
「この時を待っていましたの」
目の前に立ちはだかるのはグレンのおっかけ(仮)の女子生徒。学年ごとに違うリボンの色から見るところによるとグレンと同じ学年…一応先輩らしい。
心底どうでもいい。
「何か御用ですか?」
「本当に生意気ですわね。
……あなたにお話がありますの。ついて来てくださらない?」
彼女は憎々しげに顔を歪めるとこちらの都合お構いなしについて来いという。
お父さんと放課後デートの予定がある私は勿論断わろうとした。
だけど彼女は私にその隙を与えずにパーティーの時と同じく強引に私を目的の場所へと連行する。
振り払ってもよかったけど、相手は一応女の子。
しかもこの学校に通うくらいのお金持だ。
怪我なんてさせられない。特殊科の生徒ならまだしも普通科とあっては学校的にも問題になるかもしれない。
こんなくだらないことで問題なんて起こしてお父さんたちに迷惑をかけたくない私は、仕方なく彼女のお話とやらに付き合うことにした。
連れて行かれた人気のない校舎裏にはどこか見覚えのある男子生徒が3人。
「あの夜、どうやって逃げられたのかは存じませんが今回はそうはいかなくてよ」
狂気を孕んだ目が私を射ぬく。
まさか今度はこの男子生徒を使って私を痛めつけようって魂胆ですか。
信じられないと目を見開いて彼女を凝視すると、彼女は勝ち誇った笑みを浮かべて私を蔑む。
「捨て子の癖に気安くあの方の名を呼ぶのが悪いのよ」
その言葉に思考が止まる。
「あの方の視界に映るだけで腹立たしいというのに、立場を弁えなさい」
それは、何度も言われた言葉だった。
お父さんの知り合いだという人たちから何度も何度も。
何も言わずにお父さんの“娘”として私を受け入れてくれたのはおじ様たちだけで、それ以外の人は皆……。
「フォンセ様まで誑しこむ何て本当に汚らわしい。
二度とあの方々の前に出れない姿にしてあげる」
彼女が狂った笑みを浮かべたのを合図に、卑下た笑みを浮かべた男が近づいてくる。
迫りくる手を避けたのは無意識だった。
伸びてくるてを払い叩き落とし、肩にかけていた剣を袋の上から握る。
そこではじめて過去に引きずられていた思考が戻ってきて置かれた状況を理解する。
「いいねぇ。抵抗されると燃える」
叩き落とされたてをプラプラと振りながらニタリと笑った男に背筋が凍った。
どこかで見た顔だと思ったのは彼らがAグループで模擬戦をしていた姿を見たからだ。
今の自分がどれくらいの位置にいるのか分からないけれど、男女の絶対な力の差と人数の差がある。
「その顔、すっげぇそそる。本当にこの子、好きにしても言い訳?」
「構いませんわ。二度とグレンツェン様に近づけないようにしてくださいな」
「クク、りょーかい!あいつらのお気に入り好きにできるとかマジ気分いい」
「夜の闇だかなんだか知らねぇけど年下の癖に調子に乗り過ぎなんだよ」
「あいつらも馬鹿だよな」
「――――――――――――――――」
その一言に何もかもが吹き飛んだ。湧き上がっていた恐怖も、不安も、全てが怒りに塗りつぶされて頭の中が真っ白になった。
お父さんの娘になってから。お父さんの周りの大人たちに蔑んだ目を向けられるようになってから、一番許せないこと。
それが私のせいでお父さん(たいせつなひと)が馬鹿にされることだった。
どうやらその大切な人にはいつの間にかフォンセとグレンも入っていたようだ。
自分でも驚くくらいに悔しくて腹が立った。
手に持った刀を袋から取り出して鞘を払う。
手に馴染む感覚を確認しながらニタニタと嫌な笑みを浮かべる男を睨みつけてゆっくりと息を吐いた。
そこからは私の独壇場だった。
瑠璃がキレました。
次は校門で瑠璃を待ってる龍哉たちのお話!