第227話
ナチュラルにいちゃつく先輩たちに挟まれて既に私のライフはゼロです。
ちゃんとついて行くのでサンドイッチにするの、やめませんか。
頭の上できゃっきゃっと笑いながら甘ったるい空気垂れ流さないでください。
とてもいたたまれないです。
「ぶちゃいくな顔してどうした~?」
「お顔がとーってもしわしわよ?」
「先輩たちのせいです」
ぶすりとした私の声に会長と茜先輩はぱちぱち目を瞬いてからにんまり笑った。
「ごめんな、おちび。茜が可愛すぎるからっておちびを忘れてたわけじゃないんだぞ?」
「そうよ。ちょっと異国の情緒にはしゃいでただけで瑠璃ちゃんを忘れてた訳じゃないのよ~?」
機嫌直せよ~と頬をむにむにされる。
私も海ちゃんも瑠璃ちゃんが大好きよ~といちゃつくのを辞めて、私にダル絡みを始めた先輩たちに、面倒くさいスイッチを入れてしまったと後悔する。
両側からこれでもかというくらいにかまわれて、カフェテリアにつく頃には私の目は完全に死んでいたと思う。
「ほら、おちびシャキッとしろ」
「瑠璃ちゃんに会うのをとても楽しみにされていたのよ?」
パシッと会長に背中を叩かれて目を白黒させている私に茜先輩が意味深に笑う。
どういうことか聞く前に会長が個室の扉をノックして扉が開く。
慌てて姿勢を正すも、お父さんの背中越しに見えたその人を認識した瞬間、私の唇から零れた音はとても間抜けな音だった。
「お、かあ、さん……?」
「瑠璃ちゃん」
少し緊張したような声で、それでも柔らかく久しぶりねと笑ったその人になぜとどうしてが頭の中を埋め尽くす。けれどそんなことを考えている場合じゃない。頭の中でぐるぐるしている疑問を振り払う様にお母さんに近づいた。
和の国にいるはずのお母さんがなんでここにいるかなんてどうでも良い。
というかお父さんと一緒にいる時点でココに連れてきたのはお父さんだ。
「お母さん、体は大丈夫ですか? ちゃんと休めてますか?
無理してないですか?」
矢継ぎ早に確認する私にお母さんはきょとんと目を瞬いたあと大丈夫よと笑った。
「本当に?」
「もちろん。龍哉殿たちはすごく気遣ってくださるし、最近はとても調子がいいのよ。
龍哉殿に誘っていただいて二つ返事で瑠璃ちゃんに会いに来ちゃうくらいに」
茶目っ気たっぷりに笑うお母さんにひとまずほっと胸をなで下ろす。
お父さんから突き刺さる不満そうな視線には気づかないふりをした。
「遅くなったけれど、とっても素敵だったわ。
それにとっても楽しそうだった」
きょとんとする私に気づかずにお母さんはそのまま剣舞のことをたくさん褒めてくれた。
「ああ、ダメね。もっと言いたいことがあったのに」
「おおお母さん! もういい! いいです!」
真っ赤になった私にすこし残念そうな顔で引いてくれたお母さんにほっと息を吐く。
そして珍しく何も言わず私たちを見守っていたお父さんをキッと睨みつける。
「教えてくれても良かったのに」
「サプライズってやつだよ」
「柄じゃない」
「うるさい。それより言うことがあるんじゃないのかい?」
促すようにお母さんに視線を向けてコテリと首をかしげる。
「外部の人間が学園を自由に回れる機会なんて早々ないけど?」
そこまで言われてハッとする。私はもうすっかりお母さんたちと一緒にサン・リリエール祭を回るつもりでいたけれど、それをちゃんと伝えていない。
「お母さん、体調が大丈夫なら、一緒にサン・リリエール祭を回りませんか。
私の通ってる学校をお母さんに見てもらいたいです」
「よろこんで」
驚いた顔をした後、花がほころぶように笑ったお母さんに頬が緩む。
「良かったな、おちび」
「頑張ったわね、瑠璃ちゃん」
両側から頭を撫でられてハッとする。
「結局どうして先輩たちはいるんです?」
見上げた先の会長は茜先輩と目を合わせて決まってるだろと口の端をつり上げる。
「「龍哉さんに会うため」」
綺麗に揃えられた声に、やっぱりお父さんに会うために潜り込んできたんじゃないかと思わず白い目で見てしまう。
呆れた私の視線を華麗にスルーして、お母さんを巻き込みながらきゃっきゃっと回りたい場所を決めていく先輩たちに自然と笑みがこぼれた。
というか会長も茜先輩もお母さんと仲良し過ぎじゃないですか!?