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夜闇に咲く花  作者: のどか
サン・リリエール祭編
125/129

第224話

 授業の合間に様子を見に来てくれる隼人先生のアドバイスのおかげでお父さんが来る頃には、ぎこちないところはあるものの、通しで演舞出来るようになっていた。

 そんな私とジュリアにお父さんはとても驚いた顔をした。


「驚いたな。もうこんなに動けるのか」

「余裕で間に合いそうだな」

「そうだね。二人ともよく頑張ったね」


 珍しいお父さんの褒め言葉に全身で嬉しいですアピールをする私の隣でジュリアも瞳を輝かせた。

 素直に喜んでいられたのはこの瞬間までで、最後の仕上げとばかりに一段階ギアを上げたお父さんの指導に私たちは今日も屍になった。


「瑠璃、ジュリア」


 授業を終えてマネージャー業をしに来ているレティ様がおろおろするくらいには屍になっている。満足そうな顔をしているのはお父さんと隼人先生だけだ。

 そんな日々を繰り返している間にあっという間にサン・リリエール祭が明日に迫っていた。

 フォンセたちは日にちが迫るごとに忙しさを増して一緒に帰れない日も増えていった。それでも時間を捻出して私たちのところに差し入れを持ってきてくれたりするから、ジュリアと顔を見合わせて笑ってしまった。

 土・日・月と三日間開催されるサン・リリエール祭の一日目は外部からのお客さん向けの催しがメインで普通科の生徒の研究発表や、特殊科生徒による模擬戦――――就職先へのアピールともいう――――が行われる。今年はそこに私たちの剣舞も加わっていて、いつの間にか初日の目玉になっているのを知ったときはジュリアと共に震えた。今でも震えている。二日目は内部向けの催しがメインだ。オペラや演劇などは初日から上演されているけれど二日目は外部のお客様ではなく生徒の為の上演になっている。二日目は生徒主催のお店や催しはぐっと数を減らして、生徒たちが楽しめるように外部から呼び込んだお店や催しがメインになっている。基本的に外部の人に公開されるのは一日目だけで、二日目以降は生徒と家族だけというふうに規制がかかるらしい。そして三日目に行われるのがダンスパーティーだ。全寮制の頃は夜に催されていたようだけれど、通いの生徒が主流になった今は昼間の開催だ。昔の名残で会場自体は夜まで運営されている。こちらの運営は学園を卒業された先輩方の有志でされるので三日目当日は監督生のフォンセたちの負担はぐっと減るらしい。それまでは打ち合わせやらなんやらでものすごく忙しいみたいだけれど。それはそうと豪華だな……。文化祭とは? と言いたくなるけれど学校の規模が違うし、レベルがおかしいけれど生徒の発表もあるから文化祭にはなるのかな?

 談話室でちびちびとココアを飲みながら、現実逃避よろしくそんなことを考えていると疲れた顔のフォンセが顔を覗かせた。目が合うとそのまま真っ直ぐに私のところにやってきて私の手からココアを奪い取る。


「フォンセ?」


 不思議そうな私に気づいているはずなのにフォンセは何も言わずにぎゅうっと私を抱きしめた。

 しっかりと私を抱き込んで深く息を吐いたフォンセにおずおずとその背に手を回す。

 体に巻き付いている腕の力が強くなった。


「お疲れ様」

「ん」


 短い返事は返ってくるものの腕の囲いはちっとも緩まない。

 どのくらいそうしていたのか、満足したらしいフォンセがゆっくりと腕を緩める。

 そして私の隣に腰を下ろすとひょいっと私を抱き上げて自分の膝の上にのせて、もう一度私をその腕の中に囲い込んだ。


「フォンセ」

「いやか」

「い、やじゃないけど、」

「ならいいだろ」


 私の心臓的には全くよくないです。この態勢はよろしくありません。

 顔がとても近いと思います! 心臓が止まってしまいます!


「真っ赤」

「~~~誰のせいだと!」

「俺」


 嬉しそうに笑うフォンセにまた心臓が大きな音を立てて、言うはずだった文句が音にならずに空気に溶ける。


「かわいい」


 小さくこぼれ落ちた声にまた体温が上がる。きっと耳まで真っ赤になっているに違いない。

 耐えきれなくなって両手で顔を隠すと小さな笑い声と共に柔らかな口づけが落ちてきた。


「フォンセ!」

「瑠璃が可愛いのが悪い」


 必死にあげた抗議は悪びれもなく落とされた言葉にあっさりと丸め込まれた。

 その後も、私がうとうとし始めるまでフォンセは私を腕の中に囲っていた。

 明日の剣舞の緊張で眠れない予定だったのに、部屋に送ってもらったあとの記憶がありません。朝までベッドでぐっすりでした。……おかしいな。


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