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夜闇に咲く花  作者: のどか
サン・リリエール祭編
120/129

第119話 ジュリア

 瑠璃とフォンセ様を見送ってしおしおのグレン様と車に乗り込む。

 運転手から今日は何をやらかしたんですか、お嬢様という視線をもらったけれど、私のせいじゃない。というか私ごときがグレン様にこんなしゅんとした顔をさせられる訳がない。

 無言が支配する車の中で、これ一緒に帰る意味あるのかしらと思いながらそっとグレン様の方を見ると視線が合った。

 憂いを帯びたような碧が真っ直ぐに私を見つめている。

 慌てて視線をそらそうとするのに、それを見透かしたかのように名前を呼ばれた。


「ジュリア」


 逃げ道を塞ぐように紡がれた自分の名前に、自然と視線がグレン様に戻る。


「ごめん」

「グレン様?」


 視線が合ったことにふにゃりと笑ったあと、すぐにしおれてしまったグレン様の謝罪に目を瞬く。


「邪魔がしたい訳じゃないんだ」


 困ったように眉を下げて紡がれる言葉たちをジュリアは黙って聞いていた。

 カフェテリアでのことを言っているなら想定の範囲内だからこんな顔をしなくてもいいのにな、なんて自分が思っていることに気づいてピシリと固まる。

 ちょっと待て、想定の範囲内ってなに。おかしいでしょう。夜の闇の庇護下にある瑠璃はともかく自分の交友関係に口出しされる(いわ)れはないし、グレン様の謝罪はもっともでしょう。

 必要ないことはない。


「ジュリア?」

「……なんでもないです。

 とりあえずの確認なんですが、レティ様と仲良くすることに関してなにか問題がありますか?」


 思考がおかしな方に言っていたせいか質問までおかしなことになってしまった。問題がありますかってなんだ。どうして自分の交友関係でグレン様にお伺いを立ててるのかしら、私。


「ないよ。ジュリアの交友関係に口を出すつもりはないんだ。

 夜の闇関係で気をつけてもらわなきゃいけないことも出てくるかもしれないけど、そのときはちゃんと言う。

 王女殿下のことだって近づいて欲しくなかったのは俺とフォンセのわがままで、隠し通せなかったのは俺とフォンセの失態だ。ジュリアや瑠璃に害がないなら俺たちは何も言わないよ」

「よかった。……あの、グレン様。瑠璃はともかく私は夜の闇関連で気をつけることはさほどないように思うのですが……」


 瑠璃の友達ではあるけれど部外者だし。でも瑠璃を守るって意味なら気をつけなきゃいけないのかしら?

 安心と共に浮かび上がる疑問に何も考えずに質問してしまった。

 視線の先のグレン様がピシリと固まって、じっと私を見下ろしたあとにっこりと笑う。


「そっか、俺の気持ちは全然伝わってないのか」

「ぐ、ぐれんさま?」

「いいよ。長期戦は覚悟してるし」


 フォンセに釘をさされたけどしょうがないよなと首をかしげるグレン様にひくりと顔が引きつった。そっと距離を置こうと体をずらそうと空いたスペースに視線をむける。それがいけなかったのかぐいっと腕を引っ張られてグレン様の方に体が崩れ落ちた。


「グレン様!?」

「好きだよ。ジュリアが好き。だからもっと俺を意識して」

「っ」


 今まで決定的な言葉は言われなかった。だから、なんとなく逃げていられた。

 だけど。


「本当はもっとかっこつけたかったんだけど、なりふり構ってられないみたいだから」

「……怒ってます?」

「いいや。でも逃がす気はないから覚悟して」


 耳元で囁かれた言葉に絶対怒ってると自分の失言を呪いながら、赤くなった顔を隠すようにグレン様のシャツに額を押しつけた。

 グレン様がいたずらに髪を梳いたり、指にからませて遊んだりするから家につくまで顔は上げられなかったし、運転手には生暖かい視線を向けられるしで散々だった。

 これひっぱたいていい案件だったのでは!?と気づいたのは眠れない夜を越えて、朝日が差し込むベッドの上でだった。


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