第12話
連行される宇宙人状態でフォンセとグレンに連れてこられたのは職員室らしき場所だった。
出迎えてくれた先生は二人の顔をみるなり顔を引きつらせ、二人に連れられている私を見た瞬間、顔を青ざめさせて逃げるように担任の先生を呼びに行く。
その反応が気になったのは私だけで二人はごく自然にその反応を受け入れていた。
ガシガシと頭を掻きながら現れた三十代半ばくらいの新種のイケメンは、フォンセ達の顔を見て顔を顰めてから二人に挟まれている私に視線をずらす。
「……こいつが歩く災害の娘?」
想像していたのと違う。と呟きながら私を凝視する先生に思わず一歩さがる。
というか、あるくさいがいって何ですか?
娘、ってことはまたしてもお父さんのことだよね。本当に何してんのお父さん!!
「見んな。説明だけしてさっさと失せろ」
注がれ続ける視線に居心地が悪そうにした私をフォンセが背中に庇ってくれる。
先生は呆れたような顔そしてフォンセを見たあと、グレンに視線をやって顔を引きつらせた。
どうやら笑顔で凄んでいるらしい。
先生はうー、あー、と視線を泳がせながら今度は助けを求めるように私を見た。
無理です。そう言いたいのは山々だったけれどこのままだといつまでたっても話が進みそうにないのでグレンのジャケットをちょんと引っ張ってみる。
驚いたように目を丸くしながら振り返ったグレンは私の顔を見ると困ったように笑って私の頭を撫でた。
おじ様たちもだけどグレンも私の頭撫でるの好きだよね。小さいからか。私の背が低いから小さな子にするみたいに撫でるんですか!
「瑠璃、これがお前の担任のハヤト。
見ての通りちゃらんぽらんだけど盾くらいにはなるし遠慮なく使えば良いからな」
「これって何!? ちゃらんぽらんって何!? つか盾って……」
「この通りウザッてぇ馬鹿だが弓の腕は悪くない。和の国出身だから何かあれば遠慮なく使え」
「今の何!? 褒められたの? 貶されたの?
つうか俺、教師なんだけど! 扱き使う気満々!?」
「「何を今更」」
悪意たっぷりの紹介に突っ込む先生。それをどこか楽しんでいる風な二人。
どうやら二人が気を許している信頼できる人みたいだ。
それに安心して緊張と一緒に表情がゆるんだ。
「えっと、よろしくお願いします。先生」
ペコリと頭をさげて挨拶すると先生はパチリと目を瞬いてまた私を凝視しだした。
「……お前本当にあの歩く災害の娘? つかコイツらの幼馴染?
すっげーマトモじゃん。ただの可愛い小動物じゃん」
「それどういう意味? フォンセはともかく俺はいたってマトモだろ」
「いい度胸だな。テメェら」
「ちょ、銃よくない。よくないぞフォンセ。
ココ、職員室。他の先生も……避難してるけどよくない!
小動物もビックリしてるだろ!?」
再び笑顔で凄み出したグレンとどこから出したのか銃を片手に額に血管を浮かばせているフォンセに先生が慌てだす。
流石に今回は助けを求めるような視線を向けられてもどうにもできない。
それにこの三人、教師と生徒というより悪友同士みたいでなんだかちょっと微笑ましいし。
「……仲、いいんですね」
思ったままを口にすれば三人はピタリとじゃれるのをやめた。
フォンセとグレンはどこかバツが悪そうにそっぽを向いて、先生は呆れ顔で溜息を吐く。
「どこをどう見りゃそう見えるんだ。
でもまぁ、あれだ。お前は素直でいい子っぽいし、困ったことがあれば出来る範囲で動いてやるよ。
……俺が動かなくてもこいつらがなんとかしそうだけどな」
「ありがとうございます……?」
「おう。瑠璃はいい子だなぁ」
ぐりぐりと頭を撫でる手をフォンセが払い落し、グレンが怖い笑みを浮かべる。
「セクハラはダメだろ。セクハラは」
「セクハラじゃねぇし! お前らホントなんな訳? どんだけ過保護なんだよ!」
「「うるさい」」
先生に呆れられてもまだ過保護を発動させ続ける二人をなんとか追い返して教室に案内してもらう。
教室までついて来そうな勢いだった二人のことはしっかりおじ様たちに報告しようと思う。
二つ三つ違うだけでどこまで子ども扱いする気なんだ。
ちょっぴり不機嫌になった私に先生は苦笑いをしてポケットに入っていた飴をくれた。
……嬉しいけど、なんか違う気がする。
「あいつらと一緒ってだけで大変だろうが、頑張れよ」
いつの間にかついていた教室のドアを開けた先生の後に続く。
緊張するよぅ。友達できなかったらどうしよう。
そう思いながらも踏み入れた教室は、流石は先生のクラスとでもいうのか、かなりフリーダムな空間だった。
「あ、隼人が女の子連れてる!」
「あの子、例のお姫様じゃないの??」
「どっから誘拐してきたんだよ。隼人ー!」
それぞれが好きな場所で好きに喋る。じ、自由すぎる。
朝の騒ぎを思い出してちょっと不安だったけど、向けられる視線は好奇の視線だけで、怖いものはなかった。
「てめぇら始業式の日くらい席について待ってろよな。
朝の騒ぎで知ってると思うが、瑠璃だ。こっちに来たばっかみたいだから色々面倒見てやれよ」
「「「「「はーい!」」」」」
「じゃあ、式さぼって瑠璃の歓迎会行こうぜ!隼人の金で」
「それいい!!はーくんの奢りでパァっと行こう!!」
「こっちおいでー!一緒にお菓子食べよー!」
「ざけんな。なんで俺が金持ちのぼんぼんに奢らなきゃいけねぇんだ。
つかサボったら怒られんの俺なんだぞ」
ぎゃいぎゃい騒ぎ始めたクラスメイトと先生に置いてきぼりをくらっている私。
ポカーンとその光景を見ていたらにっこりと笑った女の子に手を引かれた。
「騒がしくてごめんね」
「大丈夫、えっと」
「ジュリア。一応このクラスの委員長よ」
悪戯っぽく笑ったジュリアにつられるように笑うと抱きしめられた。
「か、可愛いっ!」
「あーっ! いんちょが瑠璃を襲ってるー!!」
「お黙り! 可愛いは正義なのよ!! こんな可愛い子を愛でずにどうするの!?」
ビシィっと言い切ったジュリアが私を離す気配はない。
結局、一通りじゃれ終わった先生に救出されるまで私はジュリアに愛でられていたのだった。
……友達はできたけど、クラスが思った以上に濃かった。
そう報告するとお父さんはくすくす可笑しそうに笑って頭をなでてくれました。ちょっと嬉しかった。
あと、帰りは当然のようにフォンセとグレンが終礼の鐘が鳴るのと同時に教室まで迎えに来てくれた。
先生とクラスメイトたちから呆れた視線がグサグサと突き刺さったのが痛かった。
そっちの報告はお父さんがすごくいい笑顔になったのでもうしないと決めた。だって怖い。
過保護なふたりと小動物な瑠璃でした。