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夜闇に咲く花  作者: のどか
サン・リリエール祭編
118/129

第117話

 エル先輩がレオ先輩に引きずられるようにして帰っていくのを見送って、練習を再開しようとしたところでお父さんが待ったをかけた。


「今日はここまでにしよう」

「そうだな。週明けから衣装を着ての練習にするからゆっくり休め」


 しれっと隼人先生がそれに乗っかる。


「あいつらが迎えに来るまで時間あるだろ。お茶でもして来いよ」


 パチンとウィンク付きでそう笑った先生にジュリアと顔を見合わせてこくりと頷く。


「そうしましょうか」

「うん。レティシア様もいいですか?」

「え? わたくしも……?」


 戸惑うレティシア様にそっと手を差し出す。

 おそるおそる手を重ねたレティシア様にニッコリ笑ってきゅっと一度握る。


「すぐ着替えてきます」

「少しだけ待っててくださいね」


 そういう訳でお茶会IN学園のカフェテリア(個室)です。

 個室があるの、すごいよねぇ。

 私たちが着替えている間に先生が気をきかせて予約を入れてくれていたそうです。

 お父さんから、フォンセたちが邪魔しに来ないように釘をさしておくからゆっくりしておいでってメッセージが入ってました。

 フォンセからも監督生の仕事が終わったら迎えに行くから待っているようにとの連絡が来てました。過保護。


「瑠璃のところに迎えの連絡が来るのは分かるんだけど、どうして私までグレン様から同じ内容の連絡が来るのかしら?」


 ジュリアの目は遠くを見ていて半分諦めているようにも見えます。


「ジュリアはグレンツェンと付き合っているのではないの?」

「……まさかー。そんな訳ないじゃないですか」

「でも、グレンツェンはジュリアのこと好きよね?」

「……あはは」


 そうですね、とも言いにくいけど、違うとも言えない状況にジュリアは困ったように渇いた笑みを浮かべている。

 レティシアは不思議そうにジュリアを見ていた。


「瑠璃はフォンセとお付き合いをしているんでしょう?」


 矛先がこっちに向いた!?


「んぐっ!・・・・・・えっと、そう、です、ね。」

「「かわいい」」


 泳いだ目でそう答えるのが精一杯だった私を抱き潰す勢いで手が伸ばされる。

 けれど、テーブルが邪魔でレティシア様の手は届かなかった。

 代わりに隣に座っているジュリアにぎゅうぎゅう抱きしめられる。

 ジュリア、苦しい。


「レティシア様は前おっしゃっていたあの方とはどうなんですか?」


 さっきのエル先輩とレオ先輩の会話でなんとなくそうかなーとは思うけれど、直接レティシア様からお名前を聞いていないのであの方と濁して尋ねてみる。


「そう、ね。

わたくしの場合は家が決めた婚約だし、あまり良く思われていないのは承知しているからどうなるかしらね」

「確か、最有力はレドモンド侯爵家のご子息でしたよね」

「ジュリアは伯爵令嬢ですものね」


 微苦笑混じりに頷いたレティシアはどこか遠くを見つめながらそっと言葉を紡いだ。


「最有力候補なんて言いながら実際はエルビスで内定しているわ。

 わたくしが、そう望んだから」


 ふぅっと憂いを含んだ息を吐いたレティシア様は私とジュリアを見て柔らかく微笑んだ。


「わたくし、瑠璃とジュリアとこうして過ごす時間がとても楽しくて充実しているわ。

 わたくしの世界はお父様とお兄様たちに与えられた狭い箱庭だったけれど、今、それが少しずつ広がっている気がするの」


 お兄様に叱られた意味だって今ならちゃんと分かるし、考えられるわ! とどこか誇らしそうにレティシア様は笑った。


「だからね、婚約者エルビスのことも少しずつ頑張ろうと思うの。

 わたくし、本当に嫌な女の子だったわ。だから、今は嫌われていても仕方ないの。

 でもね、家に決められた婚約者じゃなくてちゃんとエルビスに選んでもらえるように頑張るわ」


 瑠璃とジュリアは応援してくれる? と首を傾げたレティシア様にもちろんと頷く。


「私もフォンセの自分の足で隣に立てるように頑張ります」

「私もいつかの日の為に淑女教育、頑張ります」

「「だから、一緒に頑張りましょう?」」


 そう笑った私とジュリアにレティシア様はくしゃりと顔を歪めてポロポロと涙を零した。

 レティシア様の涙が落ち着いた頃にお迎えが来ました。

 フォンセとグレンWith第三王子殿下です。


「レティ……」


 目元が赤いレティシア様に王子殿下が目を見開いています。

 私とジュリアはその反応にハッとして、もしかしてコレはヤバイやつでは? と固唾をのんで見守る。故意じゃないけどレティシア様――――王女殿下を泣かせたのってヤバイ? ダメなやつ?

 けれどレティシア様はピリッとした空気に気づかないように、ぷくりと膨れて王子殿下たちを睨みつけた。


「お兄様、早いですわ!

 わたくし、まだ瑠璃とジュリアとお話したいことがたくさんありますのに」

「……あー。うん。それはすまなかったね」


 通常運転のレティシア様に王子殿下は疲れたように脱力した。

 それをフォンセとグレンが冷ややかな目で見ている。

 いつの間にか庇うように私たちのすぐ側に来ていた二人にパチリと目を瞬く。

 その視線に気づいた二人の視線がこちらを向く。

 安心させるような笑みを浮かべたフォンセとグレンにジュリアがホッと息を吐いた。

 私も無意識に強張っていたらしい体から力が抜けていくのを感じて小さく息を吐く。


「瑠璃」

「大丈夫」


 気遣うようなフォンセの声に微苦笑を返す。それをどう捉えたのか眉間に皺を寄せたフォンセが帰るぞと私のカバンを持った。それに倣うようにグレンもジュリアのカバンを持って帰ろうと促す。


「お兄様のせいでフォンセとグレンツェンの過保護スイッチが入ってしまったではありませんか」


 どうしてくれるんだ! とレティシア様に責められる王子殿下はとてもお疲れのようだった。何も悪いことをしていないはずなのに、ごめんなさいという気持ちになってしまう。

 さっさと帰るぞと圧をかけてくるフォンセたちに促されて、王子殿下にぷりぷり怒っているレティシア様に視線を向ける


「レティ様、またお茶をご一緒させていただけますか?」

「レティ様、私もぜひまたご一緒させてくださいませ」


 王子殿下に文句を言うことも忘れて、目を見開いて息を詰めるレティシア様に柔らかく微笑む。けれど隣からの圧が一段階上がってしまったので仕方なくぺこりと頭を下げた。


「失礼いたします」

「女子会、楽しみにしてますね」


 同じように隣で頭を下げたジュリアと共に引きずられるようにカフェテリアを後にした。

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